オピニオン
CSRを巡る動き:公共調達でCSRを促進する
2013年04月02日 ESGリサーチセンター
このところ、政府・自治体等が行う公共調達において、CSRの観点からの評価基準を導入しようとする議論が活発化しています。
2013年2月、「環境配慮契約法(*1)」において、国・地方公共団体等の公共機関が価格のみでなく環境性能を考慮した調達を行う対象として、既に定められている「電気の供給を受ける契約」、「自動車の購入及び賃貸借に係る契約」「建築物の設計に係る契約」等に加えて、「産業廃棄物の処理に係る契約」が新たに追加されることが閣議決定されました。
また、2013年4月には「障害者優先調達推進法(*2)」が施行されます。この法律では、公共機関が弁当などの物品や庁舎の清掃、データ入力作業などサービスを調達する際に、障害福祉サービス事業所や、民間企業の特例子会社などの障害者就労施設からの優先的な調達を行う努力義務が課されます。合わせて競争入札において、入札への参加資格者を決定するにあたり、対象となる企業の障害者雇用率(*3)の達成状況や、調達活動における障害者就労施設からの物品・サービス等の調達状況などを考慮した選定を行うことについても規定されています。
さらに、女性の管理職や社員の登用に積極的な企業を公共調達で優遇することを位置付ける法律「ダイバーシティ(多様性)促進購入法案」についても議員立法による検討が進められているところです。
このような法整備の進展により、我が国の公共機関におけるCSR調達が一気に加速すると思いたいところですが、実際に、地方自治体において取り組みを進めていくことは簡単ではないようです。環境省は地方自治体の環境配慮契約法の取り組み実態をアンケート調査で明らかにしていますが、同法に基づく調達方針を定めている自治体は全体の1割未満に過ぎません。2007年の施行から5年が経過しているにも関わらず、地方自治体の取り組みの進捗は芳しくないことが窺われます。特に、都道府県に比べて取り組みが進んでいない市区町村では、自治体の規模に関わらず「人的余裕がないこと」が取り組みの一番の阻害要因に挙げられています。法整備による規定の多くは地方自治体に対する努力義務に過ぎず、取り組みが委ねられても、負担の増加を受け入れられないというのが実態のようです。
一方、欧州では公共機関のCSR調達の推進にあたり欧州委員会が強力なリーダーシップを発揮しています。2010年10月に同委員会が発行した「社会的責任公共調達(Socially Responsible Public Procurement (SRPP))ガイドライン(*4)」では公共調達において「雇用機会」、「働きがいのある人間らしい仕事」、「社会権・労働権」、「社会的包摂(障害者を含む)」、「機会均等」、「ユニバーサルデザイン」、「持続可能性基準(倫理的取引を含む)」に配慮するために取り組むべき具体例を示しています。また、2011年10月に策定した新CSR戦略でも公共調達において環境・社会への配慮をより強化していくことが明確に位置付けられました。それらが各国の施策に落とし込まれており、例えばオランダでは市町村も含めた公共機関が2015年までにすべての契約において持続可能な公共調達を行うことを目標に掲げ取り組みを推進しています。
国内では前述のように法整備は進むものの、課題ごとの縦割りの施策が中心であり、欧州のように評価すべきCSRの視点が統合されていないのが現状です。ただそれでも、一部の地方自治体では、企業のCSRの取り組みを統合して評価する独自の動きが生まれはじめています。2007年に横浜市で立ち上げられた「横浜型地域貢献企業認定制度」は、「地域志向CSR」を掲げ、地域企業にスポットを当てたCSR評価を実施するもので、認定を受けた企業を公共調達において優遇する調達制度の整備も行われています。このような制度が、2008年には宇都宮市に、2012年にはさいたま市や東大阪市などにも導入され、自治体が企業のCSRを評価する動きが広がりを見せはじめているのです。
我が国の政府最終消費支出は、GDPの約20%を占めており、公共調達は市場に大きな影響力を持っています。その公共調達においてCSRの取り組みを評価していくことは、企業へ大きなインセンティブを与えることになるでしょう。入札改革の過程で総合評価落札方式(*5)が取り入れられた公共工事入札や、一般競争入札の範囲内において取り組むことができるグリーン購入については、実際に自治体による取り組みの実績も積み上がってきました。歩みの遅い現状ではありますが、CSRに対する意識の高まりを背景として、我が国の公共調達におけるCSR調達の取り組みが進んでいくことに期待がかかります。
(*1) 「国及び独立行政法人等における温室効果ガス等の排出の削減に配慮した契約の推進に関する法律」(2007年5月23日法律第56号)
(*2) 「国等による障害者就労施設等からの物品等の調達の推進等に関する法律」(2012年6月27日法律第50号)
(*3) 「障害者の雇用の促進等に関する法律」(1960年7月25日法律第123号)において、事業主が雇用する労働者に占める身体障害者・知的障害者の割合が一定率(法定雇用率)以上になるよう義務付けたもの。民間企業の法定雇用率は現行で1.8%だが、2013年4月1日に2.0%へ15年ぶりに引き上げられる。
(*4) “Buying Social:A Guide to Taking Account of Social Considerations in Public Procurement” , European Commission , 2010
(*5) 「価格」だけではなく「価格以外の要素」(技術力や施工時の安全性、環境への影響など)を総合的に評価する落札方式。談合やダンピングの防止を目的として2005年施行の「公共工事の品質確保に関する法律(品確法)」で大きく掲げられた。価格以外の要素としてCSRに関する取り組みを評価する自治体も多く見られる。