オピニオン
真の住民参加をエネルギー政策で実現する
2011年12月20日 丸尾聰
3.11以降、一般市民に対するエネルギーへの関心が高まっている。だが、現状の電力供給の課題や解決策について理解する市民は少ない。そうした中で、東京都立川市では、市民参加による「エネルギー政策」を推進し、成果をあげつつある。
昨年竣工した新市庁舎では、省エネのための追加投資がされた。お決まりの太陽電池や複層ガラスだけではなく、コージェネレーション、氷蓄熱、地中熱、照明制御、換気塔などが設置された。その効果は、分析中とのことだが、今夏、冷房のスイッチを一度もつけなかったというのだから、効果は低くないだろう。夜間電力利用の氷蓄熱だけでなく、換気塔の煙突効果と、夜間外気や地中熱の取り込みが想定以上に効いた。この庁舎は、実証実験施設と位置づけ、成果を他の公共施設や、市内民間企業にも横展開していく、という戦略的投資だ。
では、こうした積極的なエネルギー政策や戦略的投資がなぜ成し得たのだろうか。
まず、財源。大半は積立基金だが、地方債、補助金に合わせて、省エネ投資の増額分5億円を市民ファンド(市民債)で調達している。その名も「エコ庁舎みんなの市民債」。これがほぼ1週間で集まったというから、市民のエネルギーへの関心の高さがすでにあったことをうかがわせる。
次に、ノウハウ。新市庁舎の設計は、コンペにより応募総数約300案から選定された。設計コンペとは、通常の複数の専門家と自治体の長による審査を、1日で決めるが、同市の場合は、応募段階で100人の市民委員会を立ち上げ、ワークショップ形式で勉強や議論をしながら、意識を高め、その後設計者対話をしながら審査する、というもの。よって、設計者選定に1年を要した。コンペに勝った設計者は、「市民の持つ専門知識、当事者意識、モデル施設としての高い要求に応えるために必死にエネルギーの研究もした」という。
これまでの住民参加というと「合意形成の手段」と割り切った感もあった。が、立川市の事例は、住民同士の「学びあい」、専門家との「対話」、住民自らの「コミットメント」の場に昇華しているように見える。行政と専門家が、じっくり時間をかけて市民と真正面から向き合う姿と仕組みがあれば、真の住民参加が果たせる。素人には理解が困難な「エネルギー政策」であっても、だ。
※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。