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【ESG投資の注目点】英贈収賄防止法、CSRのグローバル化を促進

2011年11月01日 ESGリサーチセンター、竹林正人


 2011年7月1日、イギリスにおいて「2010年英国贈収賄防止法(UK Bribery Act 2010)」が施行された。昨年のガイダンス公表以来、この法律は“最も厳しい贈収賄法”として世界から注目されている。日本企業も、グローバルにビジネスを展開していく上での対応を迫られている状況だ。

 外国公務員への贈賄を防止する法律そのものは、珍しいものではない。1997年12月に、経済協力開発機構(OECD)に加盟する33カ国間(当時)で締結された「国際商取引における外国公務員に対する贈賄の防止に関する条約」をきっかけとして、各国は国内法を整備した。日本政府も、不正競争防止法の一部を改正することで条約に対応している。

 一方で、英国贈収賄防止法が、「最も厳しい」と評価される理由には、同法の「民間企業同士の取引への適用」と「広範な域外適用」という2つの特徴が挙げられる。

 わが国の法律が贈収賄の対象を主に外国公務員のみとしているのに対し、英国贈収賄防止法は民間人の間のやりとりにも贈収賄を適用する。事業者間で交わされる様々な種類の支払の多くが監視の対象となり、コンサルタントや代理人、その他の第三者に対する支払い等、これらの者からの金品の受領全てが厳密な監視の対象となる。

 また、英国贈収賄防止法は本社の設立地がどこかにかかわらず、英国内で事業の一部又は全部を営む全ての営利団体に適用される。さらに当該企業による贈収賄行為は英国内外を問わず適用の範囲とされる。つまり、英国内の子会社を通じて英国で事業活動を行う日本企業の場合、仮に他国の公共案件の入札において贈収賄を行なったとしても、英国贈収賄禁止法が適用される可能性がある。

 英国贈収賄防止法が取り締まろうとしているのは、単なる国内問題としての贈収賄ではない。その関心は、グローバルにビジネスを展開するすべての多国籍企業による、新興国や開発途上国における不公正なビジネスの是正にあることは明らかだ。

 高度な経済成長の真っ只中にいる新興国や、潤沢な工業資源を保有する一部の開発途上国では、大規模なインフラ整備や消費財へのニーズが数多く存在する。今や、グローバル企業の主要なマーケットの一部となっていると言えよう。一方、これらの国々では不正競争・贈収賄を防止する法律が未整備であることも多く、現地公務員に対する不正な便宜供与に手を染める企業も少なくはない。企業における「責任あるビジネス」のあり方も、新興国・開発途上国のリアリティが、主たる懸案事項となっている状況だ。

 近年、わが国の企業においても、海外事業における不正競争や贈収賄で摘発されるケースが増加しつつある。今年9月にも、ブリヂストンが工業用品の海外販売で、中南米の外国公務員への不適切な支払に関する米国司法省の捜査を受けたと発表している。

 新しい英国贈収賄防止法は、企業に対し、贈収賄を防止するための予防的手続きをおこなっていたことを、積極的に証明することを求めている。そこでは、日本の価値観とされる“陰徳”は必ずしも評価されないであろう。ビジネスのグローバル化は、わが国の企業に対し「CSRのグローバル化」をも突きつけている。

*この原稿は2011年10月に金融情報ベンダーのQUICKに配信したものです。
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