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欧米の社会的責任投資(SRI)市場は拡大し、議論は次の段階へ

2011年05月24日 小崎亜依子


欧米の社会的責任投資(SRI)の市場は、ここ数年で大きく拡大してきています。例えば、2009年末時点の欧州のSRI市場の残高は、2007年比87%増の5兆ユーロに上り、欧州の全受託資産残高の4割程度を占めるようになりました。また、2010年初時点の米国のSRI市場の残高は3兆ドルと、2007年に比べ13%の伸びを示しており、米国の全受託資産残高の約1割強にまで成長しています。

SRIは、サステナビリティに関連する諸課題を、投資意思判断に考慮した投資です。再生可能エネルギーなどのサステナビリティに関連するテーマを考慮する場合もあれば、事業活動とサステナビリティとの関係性を考慮する場合もあります。武器・タバコなどの非倫理的なテーマを除外するという場合もあります。

SRI市場が拡大を続ける欧米などでは、サステナビリティに関する調査・運用の手法や、企業側の情報開示の質が問われるようになりつつあります。

例えば、2010年4月には、調査機関等によって付与された企業のサステナビリティに関するレーティングを評価する「Rate the Raters」というリサーチプロジェクトを、イギリスのサステナビリティ社が立ち上げました。このプロジェクトでは、ガバナンスや透明性、情報の質、リサーチプロセス、アウトプットを評価項目として、サステナビリティ・レーティングの質を評価することを試みています。また、2010年8月には、NGOや会計士団体などが共同でIIRC(International Integrated Reporting Committee)を立ち上げ、サステナビリティへの取り組みを含む非財務情報の開示の在り方の検討を開始しています。

こうした活動によって、サステナビリティの調査や運用に関わる機関やサステナビリティの情報開示を行う企業の間に競争原理が働くようになり、それが調査や運用、開示情報の品質向上につながることが期待できます。一方、日本のSRI市場は1兆円に満たず、SRIを行うべきか否かの議論をする段階に未だとどまっています。サステナビリティの調査、企業の情報開示はそれほど進展していないのが実情です。しかし、欧米の投資家が日本企業と欧米企業を比較する際には、サステナビリティへの取り組みが注目される場面もあるかもしれません。また、欧米の投資家が日本市場の投資を行う運用機関を選定する際には、サステナビリティに関する調査や運用の質が問われる場面も増えてくる可能性もあります。日本の運用機関や企業はこのような競争環境の変化に対応すべく前進していく必要があるでしょう。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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