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認知症初期集中支援推進事業のあり方に関する調査研究

2024年03月13日 紀伊信之、田上はるか、降旗理花


*本事業は、令和4年度老人保健事業推進費等補助金 老人保健健康増進等事業として実施したものです。

1.事業の背景・目的
 認知症になっても本人の意志が尊重され、できる限り住み慣れた地域で暮らし続けるためには、認知症の人や認知症の疑いのある人が早期に必要なサービスにつながることが重要であり、各地域で認知症の早期対応に向けた支援体制構築が進められている。認知症初期集中支援チームは、複数の専門職が、認知症が疑われる人や認知症の人およびその家族を訪問し、アセスメント、家族支援などの初期の支援を包括的、集中的(おおむね6カ月)に行い、自立生活のサポートを行うチームであり、市町村が実施主体となって設置している。
 認知症初期集中支援チームについては、認知症施策推進大綱において、「認知症初期集中支援チームにおける訪問実人数が全国で年間40,000件、医療・介護サービスにつながった者の割合が65%」という目標が設定されている。一方で、令和4年10月時点の実施状況は、訪問実人数16,400人、医療につながった者84.7%、介護につながった者66.2%となっており、目標に対して訪問実人数が未達となっている。以上の状況を踏まえ、各地域で効果的に認知症初期集中支援チームを活用していくために本事業を実施した。

2.事業の概要
 訪問実人数が目標に未達である状況を踏まえ、本調査研究では①各市町村における支援対象者の把握のあり方・課題、②地域包括支援センターの総合相談など関連する事業との連携・役割分担のあり方の2点について市町村を対象にヒアリング調査を行った。ヒアリング対象は人口規模や認知症初期集中支援チームの訪問実人数の実績等により抽出した。

3.事業の成果
 本事業の成果物として、市町村の認知症施策担当者を主な対象とする「認知症の初期対応・支援の適切な推進のための市町村向けポイント集 ~地域での認知症初期集中支援チームの効果的な活動に向けて~」を作成した。
 また、本事業で実施した市町村向けヒアリング調査等により、今後の課題として以下の2点が明らかになった。

 (ア)各市町村における支援対象者の把握
 支援対象者の把握における市町村の課題として、ひとり暮らし高齢者や社会参加のない高齢者、8050問題など複合的な課題を抱える高齢者等の状況把握が挙げられた。また、地域の医療機関や商店等が地域包括支援センターや認知症初期集中支援チームへ情報提供を行う際、本人同意が取得できない場合の対応等について多くの市町村が課題認識を持っていることが明らかになった。

 (イ)地域包括支援センターの総合相談など関連する事業との連携・役割分担
 認知症関連の相談対応については主に認知症初期集中支援チームが対応する方針を持つ市町村がある一方で、認知症関連の相談であってもスムーズに医療・介護サービスにつながるケースは地域包括支援センターで対応する市町村も増えている。後者の対応を基本とする市町村においては、認知症初期集中支援チームが主に困難ケースに対応する傾向にあることも明らかになった。
 認知症初期集中支援チームが困難ケースへ対応することについては、本調査研究事業で設置した検討委員会において肯定的な意見があった。その背景としては、認知症に特化した複数の専門職が、訪問により集中的・包括的に支援することができるという認知症初期集中支援チームの強みが、困難ケースの対応で生かされるのではないかとの考えがある。
 認知症初期集中支援チームの役割については、各市町村で適切なあり方を柔軟に検討すべきであり、このことを広く周知していくことが必要である。

4.今後の課題
 前述の通り、認知症施策推進大綱において、訪問実人数と医療・介護サービスにつながった者の割合がKPIとして設定されている。しかし本調査で明らかになった通り、市町村によっては認知症初期集中支援チームが困難ケースを中心に対応しており、支援期間の長期化等を背景に訪問実人数を伸ばすのが難しいという実態がある。
 本調査研究で設置した検討委員会においても、実態把握のためには、チーム員会議の開催件数等、地域包括支援センターと認知症初期集中支援チームの連携状況が反映される数値をKPIとして設定した方が効果的ではないかといった意見があった。認知症初期集中支援事業におけるKPIについては、上述の現状を踏まえ、今後見直しを含めて検討していく必要があると考えられる。

※本調査研究事業の詳細につきましては、下記の報告書本文をご参照ください。
【報告書本編】
【別冊資料1「認知症の初期対応・支援の適切な推進のための市町村向けポイント集 ~地域での認知症初期集中支援チームの効果的な活動に向けて~」】

【本件に関するお問い合わせ】
リサーチ・コンサルティング部門 コンサルタント 田上はるか
E-mail: tagami.haruka@jri.co.jp


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