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中国グリーン金融月報【2023年3月号】

2023年04月25日 王婷


中国グリーン金融月報【2023年3月号】をお届けします。

1.王の視点
中国新エネ車の輸出とEU新電池法への対応

 中国は世界一の電気自動車の生産国として、近年海外市場への輸出も増加する状況といえます。特に2021年には、自動車全体の輸出台数が219万台、2022年には300万台を超えて、ドイツを抜き、世界第2の輸出国の地位を確立しました。これら輸出した自動車のうち、電気自動車の比率が高いことが特徴です。2022年11月の数字を見ると、輸出した乗用車、大型バス、トラックのうち、新エネ車の割合は、それぞれ45%、24%、9%を占めました。中国業界団体の分析によると、今後中国の自動車の輸出台数は400万台を目標としています。そのうち、電気自動車の比率がさらに増えると予測されています。
 中国汽車技術研究院の研究結果によると、 電気自動車のライフサイクル炭素排出量のうち、動力電池の排出量が占める割合は最大で40%といわれています。また業界で動力電池のカーボンフットプリントを整理したところ、電池製品の電池生産工場における排出量はライフサイクル全体の約15%に過ぎず、上流の生産過程の排出がほとんどだとわかりました。このため、自動車の完全電動化が実現した後は、動力電池製造過程の排出量削減が特に重要になることは間違いありません。
 最近、欧州連合理事会および欧州議会は、「EU電池および廃棄電池規則」(以下、「新電池法」)を改正し、規制を強化するようになりました。この規制を踏まえると、中国自動車企業の海外輸出にあって、3つの側面で対応が急務となりつつあります。一つ目は、電池のカーボンフットプリント公表とラベリングです。二つ目は、最低リサイクル率や材料回収目標の設定です。3つ目は、電池パスポートで欧州市場に輸入する電池にQRコードとデジタルパスポートを付与することです。特に、2024年以降、企業は電池のカーボンフットプリントを公表することが義務付けられますので、企業にとって残された時間はそれほど多くはありません。
 米国でも昨年「インフレ削減法案」が公表され、グリーン産業を促進するために今後関連規制を強化する見通しとなっています。
 中国国内においても、交通分野の炭素排出量は全体排出量の10%強を占めており、2060年にカーボンニュートラルの目標を実現するにあたって、電気自動車のライフサイクル炭素排出量削減も重要なファクターとなります。
 実際、2020年以後、中国の業界団体を中心に、電池製品に関連するカーボンフットプリントや動力電池関連の炭素排出量の計算と検査、動力電池のライフサイクルのデータ整備が進展しています。
 カーボンフットプリント分野では、電池メーカのREVESIと中国電子省エネ技術協会が主導して「リチウムイオン電池製品カーボンフットプリント評価ガイドライン」が、2022年3月にリリースされました。リチウムイオン電池製品のカーボンフットプリント会計の用語と定義、原則、範囲の定義、製品のカーボンフットプリント評価プロセス、製品のカーボンフットプリント会計方法、評価レポートなどが定められています。また、「リチウムイオン電池製品温室効果ガス排出会計方法」と「リチウムイオン電池製品カーボンフットプリント評価フレームワーク」も作成されています。ここでは中国企業のカーボンフットプリント計算の参考となる指標が提示されています。
 炭素排出量の計算と検証の分野では、中国汽車研究院が、BYDなどOEMと共同で、2022年に「電気自動車用動力電池炭素排出削減検証ガイドライン」、「電気自動車用動力電池炭素排出削減評価ガイドライン」の作成作業に取り組んできました。
 さらに、最低リサイクル率や材料回収目標の設定については、寧徳時代新能源科技(CATL)や電池リサイクル代表企業の格林美などが積極的に対応しています。CATLは、ニッケル、コバルト、マンガンで99.3%、リチウムで90%のリサイクル率を達成できると明らかにしています。
 ただ、上記の公表や策定された基準やガイドラインは、団体自主基準で、強制力はありません。今後中国国家基準の作成やEUのカーボンフットプリントの基準への整合性確保が課題となるでしょう。

2.今月のトピックス
【海南省】初ブルーカーボンプロジェクト方法論が審査に合格
 このほど、海南省生態環境部が「海口市で海南省マングローブ植林・再植林炭素吸収プロジェクト方法論に関する技術審査」に合格したと発表した。海南マングローブ炭素包含プロジェクトの実施に技術的な保証を提供し、国内のブルーカーボン生態製品の価値転換に重要な参考となると考えられる。海南省のマングローブ植林・森林再生プロジェクトの設計、炭素吸収量の測定、モニタリングを標準化し、プロジェクトが生み出す炭素吸収量をモニタリング可能、報告可能、検証可能にするという要件を満たす。海南環境科学研究所は厦門大学環境・生態学院と共同で方法論を作成した。
2023-3-22 海南省生態環境庁
https://mp.weixin.qq.com/s/c22K1a8gXruid6OVpFZEkg
コメント:中国国内のブルーカーボン取引の対象は、IPCCが認めたマングローブ、藻場、塩沼の3種類です。海南省は中国で最もマングローブが豊富な地域です。近年、中国多くの地域で、ブルーカーボン取引のパイロット地域が指定され、取引開始を模索しています。例えば、河北省唐山市(藻場、海洋牧草地)、山東省青島市(貝礁)などがあります。今回の方法論の策定に加え、今年1月1日に「海洋炭素クレジット計算方法」が正式導入されるようになり、またCCER市場の再起動が加速されること、企業のカーボン吸収の需要が高まったことで、今年に入ってからブルーカーボン市場がさらに注目されています。ブルーカーボン取引市場の構築については、海洋炭素吸収源を全国統一炭素取引市場に組み込むこと、海洋炭素吸収源取引メカニズムの構築、海洋炭素吸収源開発に対する投資・融資メカニズムの支援の多様化など、中国政府もメカニズムを検討しているそうです。

【生態環境部】温室効果ガス排出削減自主プロジェクトの方法論の公募に関する通達
 質の高い全国統一の自主温室効果ガス排出削減取引市場を構築し、温室効果ガス排出削減プロジェクトの方法論体系を確立・改善し、方法論の科学性・適用性・合理性を総合的に向上させるため、生態環境部は方法論を募集する。今回募集する方法論は、以前申請していた方法論の修正であっても、新たな方法論であってもよい。応募する企業は、温室効果ガス自主排出削減プロジェクト方法論概要の要件に従って、方法論資料および作成指示書を作成し、提出する方法論を用いて実施した自主排出削減プロジェクトの事例を添付しなければならない。
2023-3-30 生態環境部
https://www.mee.gov.cn/xxgk2018/xxgk/xxgk06/202303/t20230330_1024693.html
コメント:昨年より全国統一自主温室ガス排出削減取引市場(CCERという)が再起動するだろうと伝えられてきました。先日、生態環境部気候変動局副局長は、2023年アジア太平洋金融フォーラムにおいて、「国家炭素排出権取引市場の建設を着実に推進し、国家温室効果ガス自主排出権取引市場をできるだけ早く立ち上げる」とも言明しました。これにより、期待感が一層高まっています。今後、より多くの二酸化炭素削減効果の新技術がCCERで申請されると予想されます。より多くの方法論を募集し、裾野を広げたいと生態環境部は考えています。CCERの再起動は、炭素市場及び関連企業や金融機関を活性化するための起爆剤として期待されています。低炭素開発・排出削減事業に関係する企業にとって、環境利益を実現し、さらなる金融的支援を得るための重要なチャンネルとなります。金融機関もプロジェクト開発、CCER取引、カーボン金融など様々な形で、市場に参加することができます。今後、企業や金融機関は、専門チームを組成し、プロジェクトを整理、口座開設や取引準備など、積極的に事前準備作業を開始しなければならなくなるでしょう。

3.今月のニュース
【国家発展改革委員会】グリーン産業指導目録(2023年版)」(パブリックコメント)の告知

 国家発展改革委員会が「グリーン産業指導目録(2019年版)」を改訂し、「グリーン産業指導目録(2023年版)(公募案)」を公表、4月15日までパブコメを求めている。
2023-3-20 SOHUニュース
https://www.sohu.com/a/656786073_121123883

【生態環境部】ESG専門組織を設置
 生態環境部対外協力交流センター長の張玉純氏がアジア大洋洋金融フォーラムで講演し、同センターにESG専門組織を設置し、環境情報の開示制度の改革の支援、金融分野への展開を目指すと明らかにした。
2023-03-22 Sinaz財経
http://k.sina.com.cn/article_7414172568_1b9eb4b98019019hta.html#/

【市場監督総局】カーボンデータの改ざんを是正する作戦
 カーボンデータの作成・検査機関に対する調査と是正作戦が全国で進む。941機関を調査し、データの改ざんなど虚偽報告書を発行した疑いのある11機関を摘発した。
2023-3-16 Sina財経
https://finance.sina.com.cn/esg/2023-03-16/doc-imykzwvv7766048.shtml

【海口】「海洋経済の革新的発展のための産業計画」を公表
 同産業計画は、中国の海洋経済革新発展モデル都市15都市のうち、最初に発行された海洋経済産業の発展に関連するものである。
2023-3-2 海口市政府
http://www.haikou.gov.cn/zfdt/hkyw/202303/t1227661.shtml

【浙江衢州】生物多様性保全を支援するグリーンファイナンスの初の基準
 中国人民大学や中国人民銀行、野生生物保護協会が共同で作成した基準は、金融機関が生物多様性リスクを回避し、プロジェクト開発の生物多様性への影響を軽減する方法論である。
2023-3-22 グリーン金融委員会
http://www.greenfinance.org.cn/displaynews.php?id=4003

【北京銀行】環境効果を定量化したグリーンファイナンス商品「BOBカーボンeローン」を販売開始
 システムによって自動的に測定されたプロジェクトの炭素排出量に基づき、炭素排出削減強度が異なるプロジェクトに対して、融資率や融資額をマッチングさせる。
2023-3-14 中央財経大学国際グリーン金融研究院
http://iigf.cufe.edu.cn/info/1019/6556.htm

【IEEE・国家電網など】初の「ブロックチェーン+炭素取引」国際標準が公表
 国家電網デジタル技術が主導する「IEEE P3218(炭素取引アプリケーションにブロックチェーンを使用するための標準)」が正式に発表された。
2023-3-7 北極星ニュース
https://news.bjx.com.cn/html/20230307/1293042.shtml

紹介した記事の原文は中国語です。内容を日本語でより詳しくお知りになりたい方は、
下記アドレスまでお気軽にご連絡下さい。
100860-green-asiaatml.jri.co.jp(メール送付の際はatを@と書き換えての発信をお願い致します)


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

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