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中国グリーン金融月報【2023年2月号】

2023年03月27日 王婷


中国グリーン金融月報【2023年2月号】をお届けします。

1.王の視点
カーボンニュートラル関連投資の好調と政府系基金の動向

 2020年9月22日、中国政府が国連総会でカーボンニュートラル目標を公表してから2年半がたちました。感染症の流行や国際情勢の不安定化の影響で、中国国内でのPE/VC投資市場は低迷しているものの、低炭素・脱炭素関連産業への投資意欲は依然旺盛です。2023年2月までに中国国内の証券取引所に上場した企業は約988社でしたが、うち約140社がカーボンニュートラル分野に関連するといわれています。太陽光発電、風力発電、エネルギー貯蔵、バイオマス、新エネ車、電池、水素などが主な投資対象だそうです。
 大型投資案件がカーボンニュートラル分野に集中するのも、もう一つの特徴です。2022年には新エネ車分野において、単独で10億元以上の投資案件が約34件あり、その最大規模のものは182.94億元で、新エネ車メーカの広汽AION向けのものでした。
 さらに、2022年には、水素産業への投資案件が爆発的に多くなりました。件数としては38件あり、公開ベースの投資金額は74.7億元超になるといわれています。昨年12月に、国氢(ケイ)科技は45億元のBラウンド資金調達を完了し、現在の同社の時価評価額は130億元にのぼっているとのことです。
 PE/VC投資が低迷しているにもかかわらず、カーボンニュートラル分野への大規模資金流入が出現した裏には、政府系基金の存在があります。カーボンニュートラル分野への投資の担い手は、これまでPE/VCを支える外資やプライベート基金、産業資本、民間の資産管理機関が中心だったのですが、徐々に政府系基金が中心になりつつあります。例えば、昨年12月の国氢(ケイ)科技の資金調達においては、国家級政府基金である緑色発展投資基金、国開製造業転換基金、国営企業混合改革基金や、地方政府級基金である四川省投資グループ、武漢経開投資、北京大興投資など、さらに国有投資会社の中国信達などが、そろって参加したのでした。
 カーボンニュートラル分野の技術開発や市場普及には莫大な資金が必要になります。これを政府だけで賄えば、巨額な財政負担になります。一方で、技術開発や企業の買収などは時間がかかり、すぐに利益を上げないとの見通しから、民間事業者単独での投資は荷が重いでしょう。このジレンマを解決するのが、2014年に導入された政府と民間が共同で出資する産業投資基金の仕組みです。政府が小額を出資し、この資金を呼び水とし、民間資金を誘致し、政府系引導基金を設立します。この政府系引導基金をマザーファンドとし、地方政府や国有/民間企業、その他ファンド会社が子ファンドや孫ファンドを作り、アーリステージの会社から上場直前の企業まで広く投資を担います。政府系引導基金は、一般的なファンド方式で運営され、収益目標も設定されています。投資分野の選定は、政府全体の産業戦略に基づきますが、具体的にどの企業に、どんなステージで投資するかを判断するのは基金の運営者です。代表的なのは、半導体分野の「国家集積回路産業投資基金」や、カーボンニュートラル分野の「国家緑色発展投資基金」です。
 PE/VC投資を研究する清科研究中心が公表したレポートによると、2022年に中国では合計2107の政府系基金が設立されており、規模は約12.8兆元だそうです。国家レベルの政府系基金は財政部や中央企業を中心に設立するもので、上述したような集積回路産業投資基金や緑色発展投資基金のように、政府が重点的に推進する産業分野に限定されます。一方、地方政府レベルの政府系基金は、省、市、県などの政府が中心に立ち上げるもので、地方の経済構造の調整や産業の高度化を進め、産業発展を支援する目的です。投資の分野は様々ですが、近年半導体、新エネ、新材料、医療健康、デジタル化などに様々な重点が置かれている事例が多いといえます。
 中国では、カーボンニュートラルの目標を実現するには、2060年までの合計で150兆元から300兆元の投資が必要だと様々な機関が試算しました。PE/VC投資機関にとって、エネルギー、製造業、運輸などの分野で巨大な投資機会が潜んでいることは間違いありません。特に今後10年間、太陽光発電、エネルギー貯蔵、水素は巨大な市場になると、投資家間の共通認識が形成されているようです。

2.今月のトピックス
【中金公司など】証券会社6社に炭素排出権取引への参加が許可
 中金公司、中信建設証券、申万宏源証券、華泰証券、東方証券、華宝証券は、証券監督委員会から国内法定取引所での炭素排出権取引への参加が認められた。東方証券は、炭素取引市場に参加することについて、3つ意義があるという。一つ目は実体経済を支援することができること、二つ目は炭素排出権取引に参加することで、カーボンニュートラル目標の実現を支援することができること、三つ目は、金融商品のラインアップを豊富なものとし、FICC(金利・債券・通貨・コモディティ)投資の発展を推進すること、だと説明されている。
2023-2-8 上海証券報
https://jrj.sh.gov.cn/ZQ199/20230208/d2bb0f91f0d44be283b677bb34db80a7.html
コメント:中国の全国統一炭素排出取引市場は、炭素排出削減を推進する目的で設立された市場で、金融取引や金融商品の導入は当初、排除された。一方、取引市場の発足から1年以上が経ち、生態環境部が公表した「全国排出権取引市場第1回契約履行期間報告書」では、取引が活発ではないという課題も指摘されました。市場全体の取引量が少ないうえに、「潮汐現象」が起こっているといわれています。つまり、契約履行期間に近づけば近いほど取引が活発になるものの、その他の期間は取引量が少ないという現象です。さらに、取引の種類が、単調であることが指摘されてきました。これまで多くの専門家は、金融機関の参入が取引市場の流動性を高め、市場をより機能させることにつながると進言してきました。生態環境部や銀行保険管理監督委員会が、リスク管理ツールの開発や炭素取引関連の金融商品の実証など制度整備を進めてきた経緯もあります。例えば、昨年4月に証券監督委員会が作成した「炭素金融商品基準(JR/T0244-2022)」では、炭素金融商品を融資商品、取引商品、支援商品の3つに分けて、それぞれの開発の基準と規格を示したのです。炭素金融取引商品の導入は、幅広い市場参加者の炭素取引への参加を促し、炭素取引市場の価格の形成と資源の配分の効率を高めることが期待されています。

【最高裁】CO2排出ピークアウトとカーボンニュートラル関連の初の規範文書を発表
 2月17日に、中国最高裁が「カーボンニュートラルの積極的かつ着実な推進に向けた司法サービスを提供する新発展構想の完全かつ正確な実施に関する最高裁の意見」を公表した。意見とともに典型事例も発表している。意見は、6部24項目で構成されている。第1部では、CO2排出ピークアウトとカーボンニュートラルを支援する司法的原則である。第6部は、環境司法改革と革新の継続的な深化について書かれている。第2部から第5部は、炭素分野の案件に関する裁判所判断の具体的なガイダンスである。意見書は、企業が環境責任に対する意識を強化し、法律に従って環境情報を開示し、資本市場における「グリーンウォッシュ」を抑制することを提案。最高裁は、司法が積極的かつ着実に炭素遵守とカーボンニュートラルを推進する11の典型的な事例を発表し、裁判所が炭素関連の各種紛争を適切に審理するよう指導した。
2023-2-17 Sina財経
https://finance.sina.com.cn/jjxw/2023-02-17/doc-imyfzcht9189768.shtml
コメント:報道によると、パリ協定締結してから現在まで、中国では審判済の炭素関連の裁判案件が約112万件にのぼるといいます。うち、1.4%は経済社会のグリーン転換に関連するもので、11.9%は産業再編に関連するもの、80.4%はエネルギー構造調整に関連するもの、0.06%は炭素排出取引市場に関するものとのことです。今回の意見では、代表的な11の事例が紹介されました。事例の種類も様々で、ビットコイン「採掘」サービス契約、温室効果ガス排出による環境侵害、セメント生産能力指標の譲渡、有害廃棄物処理費用が倒産費用として認められた倒産事件、炭素排出権譲渡、国家認証自主排出削減技術サービス、炭素排出権契約履行に関する行政処罰、炭素排出権強制執行、環境モニタリングシステム破壊事件、無差別伐採や森林樹の盗難による炭素吸収量の補償などが掲載されています。

3.今月のニュース
【生態環境部など】全国で公共部門車両の全面的電気化に関する先行区モデル事業を展開

 生態環境部、郵政局など政府部門は、公共部門用車両を完全電動化するパイロットプロジェクトを開始した。公共部門の車両には、公用車、市バス、衛生、郵便宅配などを含む。事業期間は2023~2025年。
2023-2-6 SOHUニュース
https://www.sohu.com/a/637651865_99933171

【国家エネルギー局】グリーン電力証書取引を積極的に推進
 グリーン電力消費を推進するためには、グリーン証書認証・取引の範囲を拡大させ、グリーン電力取引の規則を設定し、グリーン電力証書市場の主要メンバーの権利と義務を明確にするなど措置をとる。
2023-2-13 国家能源局
http://www.nea.gov.cn/2023-02/13/c_1310697040.htm

【人民銀行】炭素排出削減支援スキームの参加外資金融機関を拡大
 この度、Bank of East Asia (China) LimitedとDBS Bank (China) Limitedの2つの外資銀行が炭素排出削減支援スキームに組み入れられた。
2023-2-7 金融界
https://m.163.com/dy/article/HSVBI1DM0519QIKK.html

【中国共産党中央委員会・国務院】「質の高い国家の建設に関する要綱」を発表
 包摂金融、グリーン金融、科学技術革新金融、サプライチェーン金融の発展を促進させ、実体経済の質の向上とサービスの精度向上を図ると明記。
2023-2-6 中国政府網
http://www.gov.cn/xinwen/2023-02/06/content_5740407.htm

【江蘇省】初炭素排出オンラインモニタリングシステム構築地方標準が発表
 泰州市生態環境局、泰州市市場監督局、泰州市標準化研究所が共同で起草した「炭素排出オンラインモニタリングシステム構築規範」が正式に発表され、炭素排出モニタリング分野で初の地方基準となった。
2023-2-3 泰州市政府
http://ghj.taizhou.gov.cn/art/2023/2/3/art_27_3454497.html

【北京市】国家級グリーン取引所建設をスタート
 北京副都心で国家グリーン発展実証区と国家グリーン取引所の建設に向けた式典が行われた。北京グリーン取引所は、国家温室効果ガス自主排出削減取引センターの建設推進、グリーン金融商品の革新と発展を模索するという。市書記の尹麗氏、生態環境部長の黄潤秋氏、中国人民銀行総裁の易剛氏などが出席。
2023-2-8 人民日報海外版
http://www.xinhuanet.com/energy/20230208/37a6264ae31c493ebd9c49cfb7cd549c/c.html

【上海市】グリーンファイナンス行動計画がスタート
 8つの分野で30のタスクを提起し、2025年までにグリーン金融残高が1.5兆元になることを目標とし、国際基準に沿ったESG情報開示メカニズムの構築、グリーン金融基準の改善、炭素金融の評価基準の構築などを盛り込んだ。
2023-2-8 中国環境報
https://www.mee.gov.cn/ywdt/dfnews/202302/t20230208_1015768.shtml

【寧波】国内初のブルーカーボンオークション落札
 2月28日、浙江省寧波市湘西区西杭港で、約2,340.1トンのカーボンクレジットがトン当たり106元の価格で落札された。養殖スナゴケ由来のカーボンクレジットである。
2023-2-28 央広網
http://zj.cnr.cn/mlnb/syjdt/20230228/t20230228_526167365.shtml

紹介した記事の原文は中国語です。内容を日本語でより詳しくお知りになりたい方は、
下記アドレスまでお気軽にご連絡下さい。
100860-green-asiaatml.jri.co.jp(メール送付の際はatを@と書き換えての発信をお願い致します)

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

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