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中国グリーン金融月報【2023年1月号】

2023年02月21日 王婷


中国グリーン金融月報【2023年1月号】をお届けします。

1.王の視点
グリーン消費の促進と個人カーボンアカウントの連携
 
 昨年12月15日に、中国政府は「内需拡大戦略企画綱要(2022-2023)」を公表しました。ポストコロナと国内経済の循環的成長を見据えた計画です。その中では、グリーン低炭素消費も提起されました。日常製品のグリーン化、省エネ低炭素型建築の普及、グリーン商品の基準、ラベル、認証メカニズムの構築、新エネ車の普及拡大、車載電池や家電の回収と循環利用、環境に優しいライフスタイル推進などの項目が盛り込まれました。
 では、一体どんな消費行動が、グリーン消費としてカウントされてよいのでしょうか。現在試行中の個人カーボンアカウントでは、個人のグリーン・低炭素な購買行動を対象としていますが、アカウントを構築した金融機関やIT会社は、基準を政府の定義で作ったとしているものの、中身はバラバラです。ただ、昨年5月に、中国環境保護連合会(CEPF)が作った「市民のグリーン・低炭素行動のための温室効果ガス排出量削減の定量的ガイドライン」という分類体系が発表されました。衣・食・住・交通・その他生活における利用、オフィス・デジタル金融の7つのカテゴリーで40のグリーン低炭素行動を特定しています。詳細な項目は下記表のとおりです。

 もちろん、このガイドラインが、すべてのグリーン消費を網羅しているわけではありません、また、個々の行動によって発生する二酸化炭素排出量の原単位などを規定できていない点にも、物足りなさは残ります。それでも、今後、消費行動の標準化が進んでいく、大きな手掛かりになるでしょう。
 実際、現在試行中の個人カーボンアカウントの取組とグリーン消費促進という経済刺激策は親和性が非常によいと言えるでしょう。特に若者世代は、日常生活で99%の情報をインタネットを通じ入手しています。個人カーボンアカウントが豊富な消費シナリオを設定し、提供することで、個人の消費行動をグリーン化の方向に誘導することに貢献するでしょう。
 中国の若者世代は、気候変動や持続可能な発展などのテーマに高い関心を持っており、実際、日常生活においてグリーン消費を実践することも少なくありません。最近、Z世代(1990年代以後生まれた世代)を対象に行った消費意識調査結果によると、Z世代の58.09%が日常生活の中で環境保護や二酸化炭素排出削減を考慮していると回答しています。例えば、買い物領域で、Z世代に実践している行動を尋ねると、①買い物袋の持参、②レジ袋の使用削減、③過剰包装の拒否がそれぞれ67.42%、65.84%、55.43%となり、食事領域では、「注文量はほどほどに」、「水筒の持参」などが挙げられました。住居領域に関しては、①使わないときに電気製品の電源を切る、②こまめに照明を消す、蛇口を閉める、③家庭で水をリサイクル」がそれぞれ69.34%、65.21%、63.99%で、交通領域に関しては、Z世代は自転車シェアリングを長期的に利用している人は84.1%と回答し、他の年齢層よりも高いのです。
 2025年にはZ世代が中国の労働力の主流となるといわれています。彼らの消費行動が世の中のメイントレンドになることは間違いありません。Z世代をよく理解すれば、さらにグリーン消費を促すことができます。また、企業にとってより魅力的で競争力のある商品・サービスを作ることができるようになるでしょう。欧米先進国では、言い古された指摘ではありますが、中国もその例外ではないと思います。


2.今月のトピックス
【生態環境部】「全国排出権取引市場第一回契約履行期間報告書」を発表
 本報告書は、国内炭素市場の初の契約履行期間における取引を総括し記載した。排出枠の割り当てと契約履行に関して解説し、炭素排出の会計・報告・検証システムの構築状況を整理し、主要排出単位のデータ品質管理強化に関わる取り組みを紹介している。全体として、第一期契約履行期間を経て、炭素市場運営の枠組みが基本的に確立され、企業の排出削減意識と能力が効果的に向上し、特別監督と支援措置により炭素排出データの品質が向上し、期待した目標達成ができた。炭素市場の構築と運用は、社会全体の低コストでの排出削減を促進する上で、積極的な役割を担っているといえる。
2023-1-1 生態環境部
https://www.mee.gov.cn/ywdt/xwfb/202301/t20230101_1009228.shtml
コメント:中国では、全国統一炭素排出権取引市場が2021年7月16日からスタートしました。第1期は発電セクターの2162社の重点排出企業を対象としています。今回の報告書の対象期間は2022年1月1日から2022年12月31日となります。報告書では、成果を次のように数字で示しています。全国炭素取引市場の取引日数は114日間で、取引された炭素排出権の累積量は1.79億トンで、累積取引額は76.61億元で、平均取引価格はトン当たり42.5元です。2021年12月31日までに、履行率が99.5%で、合計1,833の対象企業が割当量償却を全額かつ期限内に完了し、割当量償却が一部完了となった対象企業は178にとどまりました。また、847社が割当量に対して不足があり、CCERを購入することでオフセットをしました。CCERの源泉は風力発電、太陽光発電、林業の炭素吸収源など189のプロジェクトで、総額9.8億元にのぼるといいます。ただ、対象業種と取引参加者が限定されているため、市場の活性化は限定的です。対象業種の拡大と現物以外の金融商品の新たな開発を通じて、今後の取引市場の拡大が期待されるところです。

【中国SIF】「中国における責任投資に関するトレンドトップ10 2023年」を公表
 2023年1月11日、商大融緑と中国責任投資フォーラム(China SIF)は共同で、「2023年中国における責任投資のトレンドトップ10」を発表した。その内容は以下の通りである。
①市場の混沌とESGの回復、②ESGが中国式の近代化に貢献、③トランジションファイナンスが急成長、④ネットゼロ目標を掲げる企業が増加、⑤ESG投資商品標準化、⑥投資後の監督とデューディリジェンス強化、⑦影響の特定と測定への注目、⑧ESG適用シナリオがさらに拡大、⑨新ISSB基準が気候情報開示を促進、⑩中央企業の持ち株会社と金融機関が情報開示をリード
2023-1-11 商道融緑
https://chinasif.org/pages/2023top10
コメント:中国SIFは2017年より毎年、責任投資に関するトレンド予測を発表しています。2023年の予測では、⑥投資後の監督とデューディリジェンス強化と⑦影響の特定と測定に注目が初めてランクインしました。2022年はグリーン融資拡大、グリーンボンドの発行、ESGをテーマとするファンドに代表されるESG関連商品が飛躍的に増加した年でした。2023年にはESG投資市場がさらに拡大すると予測しています。その一方で、グリーンウォッシュを回避するための管理監督、ESG投資のインパクト評価について、これまで以上に注目が集まるでしょう。


3.今月のニュース
【中国人民銀行】 グリーンボンド商品イノベーションを推進

 中国人民銀行の玄長能副総裁は第8回中国債券フォーラムに出席し、資金使途が明確なブルーボンド、社会的責任債などの革新的商品の発行を加速させるとともに、より償還までの期間の長いグリーンボンドの発行などを検討すると述べた。
2023-1‐9 緑金新聞
http://iigf.cufe.edu.cn/info/1019/6251.htm

【自然資源部】中国の海洋CO2地中貯留ポテンシャル、2兆5800億トンに達するとの予測
 1月12日に開催された全国地質調査作業会議2023で発表された。中国のCO2排出ピークアウトとカーボンニュートラル目標の実現に重要となる推計を明らかにした。
2023-1-16 地質調査局
https://www.cgs.gov.cn/xwl/ddyw/202301/t20230116_723106.html

【生態環境部】「生態環境統計管理弁法」を発表
 生態環境統計の管理を強化・標準化するために作成され、8章49項目で構成される。目的と任務、管理システム、責任、統計調査プロジェクトの設立、統計情報の管理と公表、監督と検査の要求、賞罰などが含まれる。
2023-1-19 生態環境部
https://www.mee.gov.cn/ywdt/xwfb/202301/t20230119_1013877.shtml

【中国人民銀行】炭素排出削減支援スキームの適用を継続実施
 中国人民銀行は、炭素排出削減支援スキーム、石炭のクリーン・効率的利用支援スキーム、輸送・物流に関する特別借款を継続して実施すると発表。炭素排出削減支援スキームは外資系金融機関にも拡大すると決まった。
2023-1-29 中国人民銀行
http://www.pbc.gov.cn/goutongjiaoliu/113456/113469/4778738/index.html

【海南省】海南国際炭素排出権取引センターで初の国境を越えた炭素取引に成功
 Verified Carbon Standard(VCS)に基づく国際認証排出削減量(VCU)が初めて取引された。取引量は10,185トンである。販売側はインドの企業で、購入側は中国の企業などである。
2023-1-4 海南省政府
https://www.hainan.gov.cn/hainan/zymygxwzxd/202301/5c1d7966ce7c45ce95cb27a67d52f047.shtml

【香港】香港で過去最大のグリーン発行が完了、総額58億米ドル
 4回分けて発行された米ドル建てのボンドは250億米ドル以上の申し込みがあった。オフショア人民元建て債券の2年物および5年物債券の最終利回りは、3%および3.3%になった。
2023-1-5 SOHU網
https://www.sohu.com/a/624982684_313745

【上海市】「上海銀行保険業第14次5カ年計画グリーン金融発展の促進、カーボンニュートラル戦略を支援するための行動計画」を公表
 2025年までのグリーン金融エコシステムを構築し、グリーン融資残高を1.5兆元、グリーン保険残高を1.5兆元を超えるようにするなどを計画に盛り込んだ。
2023‐1‐10 中国人民政府
http://www.gov.cn/xinwen/2023-01/10/content_5736063.htm

【Hengfeng銀行】山東省で初の持続可能発展リンクローンを実行
 山東省済寧市の炭鉱環境保護プロジェクトに対して5年ものの中長期持続可能発展リンクローンを実行。2022年末までに、Hengfeng銀行のグリーン融資残高増加率は99%にのぼることになった。
2023‐1‐30 中国経済網
http://finance.ce.cn/bank12/scroll/202301/30/t20230130_38366565.shtml?ivk_sa=1023197a


紹介した記事の原文は中国語です。内容を日本語でより詳しくお知りになりたい方は、
下記アドレスまでお気軽にご連絡下さい。
100860-green-asiaatml.jri.co.jp(メール送付の際はatを@と書き換えての発信をお願い致します)


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

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