オピニオン
「伊藤レポート3.0」により求められる金融機関の方向性
2022年12月13日 小林建介
2022年8月、経済産業省が、「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」・「価値共創ガイダンス2.0」

「伊藤レポート3.0」において、SXとはサステナビリティ・トランスフォーメーションの略称で、「社会のサステナビリティと企業のサステナビリティを同期化させていくこと、及びそのために必要な経営・事業変革を指す」と定義されています。加えて、SX実現に向けた具体的な取組みとして、①社会のサステナビリティを踏まえた「目指す姿」の明確化、②長期価値創造を実現するための戦略の策定、③長期価値創造を実効的に推進するためのKPI・ガバナンスと、実質的な対話を通じた更なる磨き上げ、の3点を挙げています。自社固有の長期的かつ持続的な価値創造ストーリーに基づく経営を行うことが必要となる点を重視しているのは、同時期に発表された「人的資本可視化指針」と同様で、今後の大きな方向性の一つになるでしょう。
「伊藤レポート3.0」では、投資家や証券アナリストに対して長期的な目線での企業との対話を求めています。一方で、銀行等の主に間接金融の領域で活動する金融機関については言及がありません。それでも「伊藤レポート3.0」の内容を踏まえれば、今後、銀行等の金融機関が考慮すべきこととして、以下の2点が挙げられると、筆者は考えています。
1つ目は、企業と接する法人営業担当者が長期的な目線での企業と対話を行うことです。
近年のESGやSDGsの機運の高まりを受けて、顧客とサステナビリティに関する会話を行うことに注力する都市銀行や地方銀行は増加しつつあります。投資家や証券会社と同水準の内容の会話を企業と行うとすれば、各銀行においても、サステナビリティの表面的な取組みについての対話に終始するのではなく、長期的・持続的な経営の観点からの対話を重視することが重要となります。そのため、日々企業と接する法人営業担当者にこそ、社会のサステナビリティを把握したうえで、各企業に固有のサステナビリティ戦略を提言できる人が登用されることが望まれます。
2つ目は、融資に代表される業務に必須となる企業審査の過程に、サステナビリティや長期的かつ持続的な価値創造ストーリーの評価を織り込む手法の開発です。
日本では、人的資本への投資など継続的な企業経営に繋がる取り組みであっても、企業側が短期的なコスト増を嫌い、取り組みが進まないということが多々ありました。また、サステナビリティ課題の解決に取り組むことによる利益創出は簡単ではないと見做され、本業として取り組む事業者は数少ない状況が続いて来ました。もちろん、銀行が企業に融資を行う際に、財務諸表等を用いて審査を行うことは当然といえます。ただ、さらに一段踏み込んで、財務諸表の数字の個別要素を紐解き、社会のサステナビリティ実現に貢献している要素については同業他社と比較して優れているのかなどを考慮することによって、数字とサステナビリティ要素を連動させた審査手法が今後有効になると考えられます。
企業を取り巻く環境変化が激しい中だからこそ、こうした取組みを進める銀行が、長期的な経営のパートナーとして企業に選ばれるための必要条件になるのではないでしょうか。
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。