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中国グリーン金融月報【2022年9月号】

2022年10月19日 王婷


中国グリーン金融月報【9月号】をお届けします。

1.王の視点
中国グリーンボンドに関する最新動向

 9月21日、中国グリーンボンド基準委員会は、「グリーンボンド評価認証機関市場化評価登録リスト」を公表しました。合計18の機関が適格な第三者認証機関として選ばれました。18の機関は、PWCやEYのような会計事務所、中誠信緑金科技や大公低炭科技のような老舗の格付け機関傘下の機関、東方金誠信用管理公司ような信用評価の機関、中国節能や中債資信のような国営企業傘下の機関、中財緑融や商道融緑のようなESGコンサルティングと評価サービス事業者など、多彩な顔ぶれとなっています。
 これは、7月に公表された「グリーンボンド原則」につづき、グリーンボンドの発行において基準の統一性、透明性、公正性を高めるため打ち出された重要な施策の一環です。第三者認証機関にはグリーンウォッシュを回避し、グリーンボンドの発行の高品質を守る役割が期待されているとされ、リストは実績に基づき、順次、更新されていくとのことです。
 気候債券イニシアティブ(CBI)と中央国債登録決済有限責任会社中国債券研究開発センターが共同で作成した「中国グリーンボンド市場年次報告書2021」によると、中国はグリーンボンド発行において米国に次ぎ、世界第2の規模だと報じられています。


出典:「中国グリーンボンド市場年次報告書2021」」2022年7月


 この7月に公表された報告書においては、2021年に中国は国内外で1,095億ドル(約7,063億元)のグリーンボンドを発行しました。うち、CBIグリーン定義に準拠した発行額は682億ドル(約4,401億元)で、前年同期比186%増加しました。(図表1)2021年末までの累積では、中国の国内外で発行された、CBIグリーンの定義に準拠するグリーンボンドの金額が約2000億元(約1.3兆元)といいます。(図表2)また、2021年1月、中国のラベリンググリーンボンドの62%がCBIグリーンボンドデータベースに組み入れられて、2020年同期比で10%増加したとの結果となります。
 中国のグリーンボンドをめぐっては、国際的に見て、適格性が不十分だとよく指摘されています。統一されたグリーンボンド基準の欠如しているほか、資金調達の使途が国際スタンダードに合致しない、情報開示管理が不透明、第三者認定機関の管理が不十分などがその理由としてあげられます。しかし、近年、「持続可能な金融の共通タクソノミーカタログ」、「グリーンボンド原則」、「グリーンボンド評価認証機関市場化評価登録リスト」などの制定を通じて、国際スタンダードへの歩み寄りが進んでいるのも事実です。環境問題の解決が急務となる中国政府にとって、国際的な資金を呼び込むには、国際スタンダードとの接近は避けて通れない道でしょう。前述のように、ラベリングされたグリーンボンドの発行額が2021年に1095億元に達したのですが、これは、この年に中国で発行された債券の全体1%に過ぎません。中国のグリーンボンド市場にはまだ成長余地があるでしょう。今後も注目していきたいものです。

2.今月のトピックス
【銀行間市場取引商協会】18のグリーンボンド評価認証機関を承認
 9月21日、グリーンボンド基準委員会は、「グリーンボンド評価認証機関市場化評価登録リスト」を公告した。合計18の機関が認定され登録された。
 「グリーンボンド評価認証行動ガイドライン(暫定)」(2017年)、「グリーンボンド評価認証市場化評価操作細則(試行)」(2021年)に基づき、グリーンボンド基準委員会は、申請のあった機関に対して審査を行い、2022年6月に関連機関を選定し、中国人民銀行など主管機関に報告し、今回、公表した。
 選定された機関は、年に一回、グリーンボンド評価認証業務を自主監査し、毎年3月末までに前年度の監査結果をグリーンボンド基準委員会に報告するよう定められている。
http://www.nafmii.org.cn/ggtz/gg/202209/P020220921639517942766.pdf
コメント:グリーンボンド基準委員会とは、グリーンボンド発行に関して業界の自律的管理と協調を行うために、人民銀行と証券管理監督委員会の許可のもとで、2018年に設立された業界組織です。銀行間市場取引商協会を筆頭とし、中国外国為替取引センター、中央国債登録決済会社、上海、北京金融資産取引所、上海証券取引所、深セン証券取引所、中国証券業協会などがメンバーとなっています。今回の適格な第三者評価認証機関の選定は、グリーンボンドの発行に際して認証機関の基準を強化し、グリーン事業を識別する能力を強化することになります。グリーンボンド基準委員会の発表によると、評価は定性と定量の両面から、認証機関の強み、専門能力、業績など、多くの観点を踏まえ実施されました。定性的な部分には、認証レポートの品質、包括的なサービスレベル、内部統制の品質、認証結果の市場信頼の観点からの評価などが含まれます。定量的な部分には、人員配置、他業務との分離、資格証明書、論文の発表、グリーンボンド評価、炭素検証など、さまざまな要素が含まれるとされています。

【人民銀行】「生物多様性保全のための金融支援調査報告書」を公表
 この度、中国人民銀行は「生物多様性保全のための金融支援調査報告書」を公表した。報告書では、雲南省、青海省、天津市、湖南省などの典型的な地域調査を例にとって、生物多様性保全のための金融支援スキームを整理した。総じていえば、金融機関の貸し出し、保険、特別債券、ファンド、またはこれらの資金の組み合わせなどの支援スキームが存在していることが明らかになった。報告書では生物多様性保全のための金融支援が最初の成果を上げていることを説明しつつ、融資の制約、関連政策不備など課題も指摘した。
2022-9-18 中国人民銀行
http://www.pbc.gov.cn/redianzhuanti/118742/4122386/4122510/4654097/index.html
コメント:昨年10月に生物多様性条約第15回締約国会議首脳サミット(前半)が中国雲南省で開催されたことをきっかけに、中国では生物多様性保護に関連する取り組みが加速されました。中国銀行が生物多様性をテーマとしたグリーンボンドを発行したことや、興業銀行が生物多様性保全向けの金融ソリューション提供を開始するなどの動きがありました。一方、気候変動対策と比較すると、生物多様性関連対応が不足していると報告書では指摘しています。「生物多様性保全を重視し、生物多様性保全政策が厳しくなる中、金融機関は大規模なプロジェクトファイナンスにおいて環境・社会リスクの増大に直面する可能性がある」と警鐘を鳴らしてもいます。一例として、中国初の絶滅危機にひんする野生動物保護防止公益訴訟「雲南グリーンピーコック事件」があげられました。プロジェクト開発により絶滅の危機にひんする種が生息地を失うと訴訟され、すでに数十億元を投じたガ・スプリンクラー水力発電所の建設プロジェクトが途中で中止せざるを得なかった事例です。
 報告書では、今後の対策として次の提言を行っています。①生態資源の最適化を強化し、生物多様性保全関連プロジェクトに一定の市場投資価値を付与する、②金融機関による生物多様性関連リスクの評価・管理を強化し、生物多様性リスクをリスク管理プロセスに反映する、③生物多様性保全のための資金調達モデルと製品イノベーションを推進し、民間資本を動員し、政府担保や資源・環境権益に基づく資金調達手段を検討する、④情報共有・情報開示など関連施策を整備する、がその内容です。

3.今月のニュース
【生態環境部】「気候変動適応のための地方行動計画の策定に関するガイドライン」を公表

生態環境部は、地方レベルの気候変動適応のための行動計画の策定に関するガイドラインを公表し、地方生態環境局(局)の共同関連機能部門に対し、特別な作業メカニズムの確立、作業計画の策定、気候変動適応のための地方行動計画の策定をできるだけ早く開始するよう指導。
2022-9-15 北極星環境
https://huanbao.bjx.com.cn/news/20220915/1255140.shtml

【人民銀行】グリーン金融システムを改善し、グリーン・低炭素・高品質の開発を促進
この度、人民銀行が発表した研究論文において、今後の業務の重点について言及がなされた。①金融機関の炭素会計・環境情報開示要件を強化、②2021年末までの累積では、中国の国内外で発行された、CBIグリーンの定義に準拠するグリーンボンドの金額が約2000億元(約1.3兆元)といいます。気候リスクストレステスト方法を改善し、テスト対象産業の範囲を拡大、③トランジション金融の基準を研究し、トランジション金融商品を増やす、④グリーン金融実験区拡大、がその内容。
2022-9-27 中国人民銀行長沙
http://changsha.pbc.gov.cn/changsha/2927606/4671143/index.html

【人民銀行】設備の更新と改修のための特別な再融資を設立
この度、人民銀行は「設備の更新と改修のための特別な再融資」政策を公表。支援分野は、教育、健康、文化・観光スポーツ、充電施設、都市地下総合管路、新基礎インフラ、産業デジタルトランジション、主要分野における省エネ・炭素削減に向けたアップグレード、使用済み家電リサイクル処理システム整備など10の分野における設備の取得・更新だと明らかにした。
2022-9-28 中国人民銀行
http://www.pbc.gov.cn/goutongjiaoliu/113456/113469/4670802/index.html


【江蘇省】塩城市:最初の湿地修復炭素シンクローンに成功
江蘇省初の湿地修復長期契約ローンが成立。塩城市大豊区に1000万元が融資され、湿地修復と保護のために用いられる。興業銀行は、全国の炭素排出権取引市場における同日の炭素排出取引価格をもとに、湿地の炭素削減の長期収益権を試算し、融資額を確定。
2022-9-3 新華財経
https://www.cnfin.com/cq-lb/detail/20220903/3701135_1.html

【中国外国為替取引センター】最初のESG外貨買い戻し事業が成立
9月5日、中国外国為替取引センターは、ESG債券バスケットを担保とする外貨買い戻し事業を開始。ICBC、中国建設銀行、浦東銀行、招商銀行など最初の参加機関として取引を行った。
2022-9-6 金融時報
http://iigf.cufe.edu.cn/info/1019/5756.htm

【天津市】「CO2排出ピークアウト実施計画」が公表
計画によると、2025年までに、GDPあたりのエネルギー消費とCO2排出量を、国が設定した目標にあわせ設定。非化石エネルギー消費の割合は11.7%以上に達する。2030年までに、GDP当たりのCO2排出量は2005年比で65%以上減少させ、非化石エネルギー消費の割合は16%以上として、2030年までにCO2排出ピークアウト目標を予定通り達成する。
2022-9-14 天津市政府
https://www.tj.gov.cn/zwgk/szfwj/tjsrmzf/202209/t20220914_5987984.html

【深圳証券取引所】社債イノベーション商品事業ガイドライン第1号グリーン社債(2022年改正)の公表に関するお知らせ
CO2排出ピークアウトとカーボンニュートラル、および目標の達成に対するグリーン企業債の支援の役割をさらに果たすことを狙いとして、深セン証券取引所は社債イノベーション・シンボル・ビジネス・ガイドラインの第1号である「グリーン社債 (2021年改正)」をさらに改訂し、発行日から施行。
2022-9-16 深圳証券取引所
http://investor.szse.cn/lawrules/rule/allrules/bussiness/t20220916_595886.html

【ブルームバーグとMSCI】中国ESGインデックスを発表
9つのESGインデックスを含むブルームバーグMSCI中国ESGインデックスシリーズが発表された。ブルームバーグとMSCI指数ファミリーの最初のインデックスシリーズであり、人民元建て債券と中国ドル建て債券市場のパフォーマンスを追跡し、ESGと社会的責任投資(SRI)要因を考慮に入れている。
2022-9-20 上海証券報
https://news.cnstock.com/news,bwkx-202209-4959186.htm

紹介した記事の原文は中国語です。内容を日本語でより詳しくお知りになりたい方は、
下記アドレスまでお気軽にご連絡下さい。
100860-green-asiaatml.jri.co.jp(メール送付の際はatを@と書き換えての発信をお願い致します)


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

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