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リモートワークを阻害する紙・印鑑文化からの脱却

2020年05月15日 渡邉敬之


課題の多いリモートワーク
 新型コロナウイルス感染症による非常事態宣言を受けて、本格的にリモートワークを導入・運用し、課題を感じた企業が多いのではないか。
 FAX・紙伝票などの紙書類を利用した業務、それら紙書類への押印という旧態依然の業務プロセスのために出社を余儀なくされるなど、リモートワークが実現できない課題が発生した。加えて、リモートワークは実現したが、出社して実施するより非効率となった業務も多くあった。
 これら業務の特徴は手段を電子化したのみで、業務の効率化は図られなかったものが多い。例えば、「従来の紙のチェックリストをそのまま電子化し画面上でのチェックとしたため、作業効率が落ち余計に時間がかかった」「押印者の多い書類をそのまま電子承認へ移行したため、承認者数はそのままであり、リモートワーク環境下では承認依頼の声掛けが難しい、コミュニケーションが取りにくいなど、承認完了まで余計に時間と労力がかかった」などである。
 このような、ただ電子化しただけの非効率な業務プロセスは、突発的な強制リモートワークの実施という非常時対応としては許容されるが、リモートワークが常態化する業務環境では改善が必要になる。リモートワークの実現・業務範囲を拡大するためには、リモートワークでの効率的な業務プロセスの実現が必要となる。

リモートワーク推進には紙・印鑑文化の脱却が必要
 リモートワーク推進の阻害要因は、①情報基盤の未整備・脆弱さ、②セキュリティ確保のための制約、③紙・印鑑文化、④業務分担が不明確、⑤コミュニケーションの必要性、⑥リモートワークを想定しない勤務管理など多様である。その中でも重要性が認識され、最も対応が難しいのは、「紙・印鑑文化の脱却」と考える。

 「紙・印鑑文化の脱却」は、紙・印鑑利用が残っている資料をペーパーレス化・電子承認へ移行することである。社内では、①社内稟議・申請資料、②内部統制の統制行為・証跡対象資料、③上司への説明資料・各種会議資料などが対象となる。社外では、④取引先との取引で利用する紙の契約書・見積書・発注書・請求書などが該当し、これらの書類は、社印・社長印などの押印が必要になることが多い。

 企業や部署によりペーパーレス化の進捗度合いは異なるが、紙・印鑑利用が残っている業務・資料を棚卸してみると、意外と数が多いことに気付く。理論的にはすべてをペーパーレス化・電子承認に移行しなければ、出社が必要になるが、現実的には発生頻度、関与者数、処理の時間的余裕などから、対応が必須のものを見極めることが必要である。
 また、紙・印鑑文化の脱却は、社外と社内を分けて検討する必要がある。社外は、取引先企業の事情や業界の取引慣行に依存する部分があり、電子契約など対応手段が注目されているが、より中長期の対応が必要になる。一方、社内は自社内で対応が進められるため、対応が進んでいる企業とそうでない企業の差が発生し、出社の要否に大きく影響したと思われる。今回は、対象を社内に限定して、「紙・印鑑文化の脱却」の検討を行う。

ペーパーレス化に加え業務プロセスの効率化・標準化が必要
 繰り返しになるが、紙のチェックリストを利用した方が画面上でのチェックより作業時間が短い場合もあり、ペーパーレス化によって非効率となるリスクもある。この点がこれまでペーパーレス化が進まなかった原因のひとつでもある。勘や経験に依存したチェックや、書類への押印者が多いなどの非効率な業務プロセスを、ただペーパーレス化しても非効率は解消できない。「紙・印鑑文化の脱却」は、ペーパーレス化・電子承認への移行だけではなく、業務プロセスの効率化・標準化による生産性向上までを含めた活動とすべきである。従来の常識が変わるこのタイミングを利用して、社内の慣習やタブーを改めて見直し、生産性向上を実現してほしい。
 その際、業務プロセスのデジタル化を意識して取り組んでもらいたい。取引発生時点からシステム上で処理して取引データを作成し、これを活用して後続工程の作業をシステム内で完結するプロセス構築が重要である。これにより紙伝票・チェックリストの不要化、承認プロセスの電子化や、取引や業績のシステム上での進捗管理等を実現する。業務プロセスのデジタル化により、ペーパーレス化によるリモートワークの実現に留まらず、将来的な業務の自動化やAI活用への拡張が可能になる。

「紙・印鑑文化の脱却」に必要な4つの対応
 「紙・印鑑文化の脱却」を実現するためには、①社内意識・企業文化改革、②ペーパーレス化を前提とした業務プロセス設計、③ペーパーレス化に対応したルール整備、④システム整備の4つの対応が必要である。なお、必ずしも4つ全てが必要なわけではなく、各社の状況に応じて判断することが肝要である。そもそも、「紙・印鑑文化」が障害となってリモートワークが実現できていない場合は「社内意識・企業文化改革」から対応すべきである。一方、リモートワークは実現しているが、非効率な業務プロセスとなっている場合は、「ペーパーレス化を前提とした業務プロセス設計」以降の対応が必要である。自社、または検討対象の業務は、どの点が弊害となっているかを見極めて取り組むことが大事である。

①社内意識・企業文化改革
 筆者の経験から「社長、役員、上司が紙資料による確認を要求する」「システム承認の仕組み導入を却下された」企業は意外と多い。まず、スタートラインとして、紙・印鑑文化脱却の社内意識改革、およびトップダウンの取り組みとして推進する。新型コロナウイルス対策としてのリモートワーク実現は、事業・業務の継続性の確保や、従業員・取引先とその家族の生命を守るためでもあり、経営層の責任において対応が必要である。
 また、「紙・印鑑文化の脱却」は、リモートワーク実現のために必要なだけではなく、生産性向上への貢献、および業務の自動化やAI活用の礎になる点も訴求する。

②ペーパーレス化を前提とした業務プロセス設計
 各資料や押印者の役割を改めて整理し、業務の効率化・標準化に踏み込んでペーパーレス化・電子承認を実現する業務プロセスを設計する。
 業務プロセスを設計するうえで、最も重要な点は、業務の効率化・標準化の観点であり、①承認プロセス(承認者)の削減、②承認者の重点確認対象の明確化、③資料の統合・削減、④添付書類の削減、⑤担当者ごとの利用資料・作業手順の統一などが挙げられる。
 また、内部統制導入時に紙資料への押印を統制の証跡として設計したため、そのルールに縛られて、紙運用が継続していることも多い。ペーパーレス化に合わせて統制行為とその証跡、および証跡の保管方法の見直しも必要である。
 参考として、業務の効率化・標準化の観点でも特に取り組みとして重要な「①承認プロセスの削減」、「②承認者の重点確認対象の明確化」の具体的な解決施策例を以下に記載する。


最後に
 継続的に生産性向上のための業務プロセス改善、レガシーシステム脱却やシステム統合などのシステム整備を進めてきた企業は、業務のデジタル化を実現しており、リモートワークでも先んじて対応できる状況となっている。新型コロナウイルス対策としてのリモートワークの実現に留まらず、継続的な業務プロセス改善、長期的な視点での社内システム整備に取り組んで欲しい。
 なお、今回は、社内に限定してペーパーレス化の検討を行ったが、社外の取引先とのペーパーレス化では、サプライチェーン全体を含めた対応が必要になる。これについては、後日、本稿と同じコーナーに掲載する別稿『コロナショックで浮き彫りになったITシステムの弊害をいかに見直すべきか~対外取引への対応が引き起こすITシステムの複雑化解消策~』を参照してほしい。
 また、今回の強制的なリモートワークの実施により、自社が直面したトラブルや発生した問題を現場からしっかりと収集し、課題整理することをお勧めする。自社が実際に直面した課題を検証することで重点的に対応すべき業務改善のポイント等を明確にし、効率的かつ効果的な対応が可能になる。
以 上


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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