1.テレワークの長期化が変えるホワイトカラーの働き方
新型コロナウイルスの感染拡大防止策として、在宅勤務を中心としたテレワークへのシフトが急ピッチで進んでいる。コロナ流行前においても、働き方改革を実現するための柱の一つとしてテレワークに注目が集まっていた。しかし、今とは全く意味合いが異なり、「ワークライフバランス実現のためのテレワーク」という文脈で議論されることが大半であった。すなわち、出社による勤務と在宅勤務の互換性を高めることで、本人のワークスタイルやライフスタイルに応じて働き方の自由度を高めるという観点から議論されることが多かったのである。
これに対し、現在、テレワークが加速しているのは、ワークライフバランスが目的ではない。人との接触をできるだけ少なくするための緊急避難措置としてのテレワークであり、「出社と在宅勤務の互換性の確保」ではなく、「いかにして出社を極小化し在宅勤務を極大化するか」という観点から取り組みが進んでいる。
業種や企業規模によって通信インフラの整備に格差があり、同じホワイトカラーの仕事であっても、テレワークの実施状況は会社によって濃淡がある。しかし、営利組織・非営利組織を問わず、「出社から在宅勤務への切り替え」に向けて、史上空前の規模で試行錯誤が続けられている。その結果、テレワークには不向きであり対面形式が望ましい仕事や、逆にテレワークの方がむしろ効率的な仕事の切り分けが次第に見えてくるだろう。たとえば、同じ「会議」であっても、メンバーの半数以上が互いに面識がない場合には対面形式が望ましいが、そうでない場合はテレビ会議で代替可能などの知見が共有されてくる。さらに重要なのは、長期間にわたりテレワークを続けることで、業務の効率化が進むことである。対面形式を前提とした不必要な折衝・調整や不効率なワークフローが淘汰され、仕事のスリム化が実現する。
感染拡大防止策の長丁場に備え、政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議は5月4日、「新しい生活様式」の実践例として、テレワークやローテーション勤務、オンライン会議など、働き方の新しいスタイルを提示している。こうした経験を経て、新型コロナウイルス収束後の世界では、テレワークやローテーション勤務を当然のこととした新しい働き方が定着していることが予想される。もちろん、コロナ収束後には、現在、効率性を犠牲にして何とかテレワークで凌いでいる仕事については、元どおり出社ベースの勤務に戻るだろう。ポスト・コロナ時代でも依然として出社による勤務が主流であることは変わらないにしても、テレワークはもはや「例外」ではなく「当たり前」の勤務形態になるに違いない。ホワイトカラーの働き方は、業務効率最大化の観点から、出社による勤務と在宅勤務のベストミックスが追求されるようになるものと予想される。(図表1)
2.ポスト・コロナ時代のホワイトカラーのパフォーマンス・マネジメント
(1)パフォーマンス・マネジメントの現状
こうした時代におけるパフォーマンス・マネジメントのあり方について展望してみたい。
現在、ほとんどの企業では、成果と行動(能力・勤務態度)を組み合わせて人事評価を行っている。成果とは仕事の結果(アウトカム)であり、行動とは結果に至るまでの過程(プロセス)である。会社によっては、行動評価を能力評価や勤務態度評価で置き換える場合もあるが、結果(アウトカム)と過程(プロセス)の組み合わせで評価を行うこと自体は変わらない。
仕事のやり方が間違っていなければ中長期的には必ず結果がついてくるため、長い目で見ると成果評価と行動評価は一致する。しかし、短期的には「行動は問題なかったが、あいにく成果につながらなかった」「行動は拙かったが、たまたま運良く成果が出た」というようなケースがあり得る。多くの企業では、結果(アウトカム)と過程(プロセス)の両方を社員の「パフォーマンス」と捉え、両者をバランスさせることで評価の妥当性を確保しようとしているのである。(図表2)
(2)「行動観察を前提としないマネジメント」への転換
しかし、過程(プロセス)の評価は、テレワークやローテーション勤務が平常化した時代とは相容れない。行動評価は、上司が部下の職務行動を日々観察していることを前提としているからである。ポスト・コロナの時代では、「上司が部下の仕事ぶりを常時観察していること」を前提としない評価手法が求められる。結果として、パフォーマンスの評価は、「真面目に取り組んでいたか」「ガッツがあったか」「スムーズに連絡調整していたか」という仕事の過程(プロセス)ではなく、結果(アウトカム)中心にシフトしていかざるを得ない。
プロセスではなくアウトカムを重視した評価を行う前提として、社員に求められる「アウトカム」の中身をこれまで以上に明確にする必要がある。とかく日本企業では、部下に求める仕事のアウトカムを明確にしないまま、「以心伝心によるマネジメント」を続けてきたケースが少なくない。目標管理において設定される目標もあいまいな場合が多く、毎年同じ目標をコピー&ペーストして目標管理シートを埋めている社員すら存在する。これに対し、ポスト・コロナ時代のパフォーマンス・マネジメントにおいては、タスクベースできめ細かなゴール・セッティングを行うことが求められるのである。
もう一つの重要な点は、「行動観察を前提としないマネジメント」においてもなお、上司と部下のコミュニケーションの重要性は失われないということである。仕事のアウトカムをきめ細かく明示すればするほど、状況変化に応じた軌道修正の必要性も高まる。仕事の進捗状況を頻繁にチェックし、部下に対する丁寧なフィードバックを通じた軌道修正の指示が欠かせない。これは必ずしも対面形式の面談である必要はなく、ウェブ面談やスマートフォンのアプリを使ったコミュニケーションでも構わない。形式はともかく、これまでのような年一回あるいは半年に一回の面談ではなく、小まめなアウトカムの確認とフィードバックが重要になるのである。(図表3)
(3)ポスト・コロナ時代のパフォーマンス・マネジメント
人事労務管理に知見を有する方であれば、上記の評価手法が、GE、アドビ、マイクロソフトをはじめとして、近年、米国企業で広がりをみせている「ノーレーティング」の考え方にかなり近いことに気付くのではないだろうか。
ノーレーティングとは、「年間目標の達成度に応じてA評価、B評価…などの公式な評価記号(レーティング)をつけるのをやめて、その代わりに、上司は部下のパフォーマンスを注意深く観察し、部下に対して頻繁なフィードバックを行う。昇給・賞与等の報酬は、(評価記号ではなく)上司の裁量判断に基づき柔軟に決定する」というパフォーマンス・マネジメントの新たな手法である。
日本企業の場合、部下の報酬決定に関する上司の権限が限られており、また、評価のブラックボックス化を避ける観点からも、この手法はなじみにくいと考えられてきた。ポスト・コロナの時代においても、ほとんどの日本企業では依然としてA評価、B評価……などの評価記号づけ(レーティング)が存続するであろう。しかし、「きめ細かなパフォーマンスのチェックとフィードバック」というノーレーティング方式のエッセンスは、ポスト・コロナ時代の「行動観察を前提としないマネジメント」において中核的な要素になると予想されるのである。
以上をまとめると、ポスト・コロナ時代のホワイトカラーのパフォーマンス・マネジメントは次のようになることが展望される。
・長丁場にわたるテレワークの試行錯誤を経て、ポスト・コロナ時代のホワイトカラーのパフォーマンス・マネジメントは、上司が部下の行動を日々観察していないことを前提としたマネジメントにシフトしていく。 ・その結果、パフォーマンスの評価において、能力や勤務態度、職務行動などの過程(プロセス)の重要性が減退し、結果(アウトカム)が前面に押し出され、仕事のゴール・セッティングがこれまで以上にきめ細かく求められるようになる。 ・ポスト・コロナ時代のマネジメントにおいてもなお、上司と部下のコミュニケーションは重要であり、仕事のアウトカムの頻繁なチェックと丁寧なフィードバックの実施がパフォーマンス・マネジメントの中核を占めるようになる。 |
(了)
(参考文献)
ピーター・カッペリ、アナ・テイビス(有賀裕子訳)「年度末の人事査定はもういらない」『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』(2017年4月号)ダイヤモンド社
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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