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(2)真に実効的なマクロ経済・金融問題の解決試案

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■【経済・金融】政府紙幣を巡る議論

≪担当者のメモ≫岡本俊哉 〔2009年4月23日(木)〕
政府紙幣発行議論の高まりに対して、日銀は、それを牽制する姿勢を示しており、各機関の姿勢/思惑が交錯する状況にある。

政府内でも、大型財政出動の1手法として政府紙幣活用の議論が浮上している。


2009年3月11日、自民党の菅義偉選対副委員長は、政府紙幣と無利子国債などの発行を政府に求める「政府紙幣と無利子国債を検討する議員連盟」の提言書を麻生太郎首相に提出した。

これに対して、日銀は、国債の買い入れ額の大幅増加に踏み切り、政府紙幣発行を牽制する姿勢を示している。


2009年3月18日、日銀は金融機関が保有する長期国債の買い入れ額を月1兆4,000億円から1兆8,000億円に増額することを決めた。


ただ、日銀にはインフレ防止のため国債の購入規模は発行済み通貨の規模に抑えるとの“銀行券ルール”があり、白川方明総裁は「追加買い入れの余地は限定される」と、これ以上の購入額引き上げの可能性を否定した。
大きく分類して、3つの勢力により牽制している構図が見られる。

日銀 :政府が紙幣を発行するくらいなら、国債を買えば済む(「間接引き受け」=国債の「買いオペ」、金融調整の範囲で)。そもそも、政府紙幣の発行は、日銀は要らないと言われているようなもので、日銀の存在意義を否定することになるため、日銀総裁が反対するのは当然。


日銀白川総裁:日銀の財務の健全性が損なわれ、通貨の信認が害される恐れがある。国の債務返済能力や意志に対する懸念から長期金利の上昇を招く恐れもある。

財務省および増税派 :政府が紙幣を発行して、様々な歳出を賄ってしまうと、増税できない。税金は財務省の立場を維持しておくためのものであるため、総じて反対姿勢。


与謝野財務・金融・経済財政担当相:異説のたぐい。財政とか金融政策には全くなじみのない考えだ。

積極財政派 :積極財政により経済を活性化・浮上させることが狙い。


基本的には、麻生首相は積極財政派であるが、現在の内閣には増税派が多いため、政府紙幣には消極的にならざるを得ない面もある(通常の国債または無利子国債などを活用することで代替)。
現状では、大型財政出動の手法として、「国債発行」「無利子国債発行」および「政府貨幣(紙幣)」があげられており、また、それらの実施プロセスとして、政府から日銀に直接保有させるかさせないかという選択肢があげられている(国債を政府が日銀に直接保有させることは現状では財政法第5条で禁止されている)。

【図表】 国債および政府貨幣(紙幣)の概要
(出所)各種公開資料を基に日本総合研究所作成

【図表】 国債の保有者別残高(2008年12月末)
(出所)日本銀行「資金循環統計」(2008年12月末)を基に日本総合研究所作成

「政府貨幣(紙幣)」に関して、様々な反対理由が掲げられているが、基本的には、それぞれの立場を守る思惑や根拠のない感情論(もしくは当該組織の利権論)が多く見られる。

インフレ懸念。


現状のような大きなデフレギャップを伴う場合には全く問題ない。ジンバブエのように、何億倍ものハイパーインフレが生じる(裏づけのない膨大な通貨発行による通貨価値の大幅下落)可能性は皆無。

政府の信用力がないため、政府紙幣も信用がなく流通しない


日銀券自体が、国債の信用力を基に発行されているものであり、政府の信用力という意味の履き違え(例えば政権や内閣に対する信用)である可能性が高い。

発行主体が複数になると混乱する。


香港では4つの発行主体による紙幣が流通しているが全く混乱していない

流通せず、日銀に戻ってくるため、政府に回収義務が生じる。政府が回収した場合は、政府紙幣発行益が減少する(すべて回収されればゼロになる)ため無意味


硬貨や記念貨幣のように回収が前提とした場合とは異なり、日銀が保有し続けても全く問題ない。仮に日銀に戻ってきたとしても、途中経過において流通することに意味がある

日銀の利益が損なわれ、円の信用力が低下する懸念がある。日銀からの国庫納付金が減って、増税になる


日銀の利益は国債の利回り益であり、国債残高を一定に保つことで利益は毀損されない。BIS規制の制限はあるものの、政府紙幣の保有と併せて、一般の国債購入も実施すれば良い(資産側の政府紙幣に対して負債側で日銀券を発行、日銀券の発行分が増加するので、さらなる国債購入が可能)。

市場で流通する量は一定であるため、政府紙幣が増加すれば、日銀券の流通量が減少するだけ(単に預金が増加するだけ)である


そもそも、流通する量を増加させるための方策であるため、例えば、将来への投資になる事業や、企業や個人がどうしても支出を増加させたくなることに対して資金提供すれば自然と流通する量が増加すると考えられる。さらに消費を刺激するために期限付きで政府紙幣を発行することも考えられる。


また、全体としての貨幣が増加することに伴い、これを裏づけとして、銀行が信用創造を行えば、飛躍的に流通する資金量が増加し、経済が活性化するだろう。

政府紙幣の発行スキームには、直接企業や個人に配布する場合と、日銀や市中銀行を通じて発行する場合とに分かれる。

【図表】 政府紙幣の発行スキーム(100兆円を発行したと仮定)
(出所)日本総合研究所作成

【図表】 政府紙幣発行における日銀B/Sの状況
(出所)日本総合研究所作成

≪参考≫日本銀行法(平成9年6月18日法律第89号)とその解釈

日本銀行は政府と密接な関係を法的に規定されており、国が緊急事態であると政府(内閣)が認めた場合、政府は日本銀行に認可し、日本銀行はこれらの法的根拠を持って動かなければならないと解釈できる。

更にいえば、政府は、時限立法でも良いので日本銀行法に補足的な法律を加えより明確に規定化するか、あるいは法改正をもって日本銀行を動かすことも可能であると考えられる。

もっとも、法改正などでは時間もかかり、現在の緊急事態においては、法解釈の問題を解決し内閣によって権限を発動し、「政府紙幣発行」にこだわるか、あるいは、「無利子国債」という手段を取るかである。

政府による財政政策と綿密に連携することを意味する条文。
第4条 (政府との関係)

日本銀行は、その行う通貨及び金融の調節が経済政策の一環をなすものであることを踏まえ、それが政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない。 

政府紙幣発行に加担することはできないことの根拠とする条文。
第33条 (通常業務)

1.日本銀行は、第1条の目的を達成するため、次に掲げる業務を行うことができる。 
一  商業手形その他の手形の割引 
二  手形、国債その他の有価証券を担保とする貸付け 
三  商業手形その他の手形(日本銀行の振出しに係るものを含む。)又は国債その他の債券の売買 
四  金銭を担保とする国債その他の債券の貸借 
五  預り金 
六  内国為替取引 
七  有価証券その他の財産権に係る証券又は証書の保護預り 
八  地金銀の売買その他前各号の業務に付随する業務 
2.前項第五号の「預り金」とは、預金契約に基づいて行う預金の受入れをいう。
第34条 (国に対する貸付け等)

日本銀行は、我が国の中央銀行として、前条第一項に規定する業務のほか、国との間で次に掲げる業務を行うことができる。 
一  財政法 (昭和22年法律第34号)第5条 ただし書の規定による国会の議決を経た金額の範囲内において担保を徴求することなく行う貸付け 
二  財政法 その他の国の会計に関する法律の規定により国がすることが認められる一時借入金について担保を徴求することなく行う貸付け 
三  財政法第5条 ただし書の規定による国会の議決を経た金額の範囲内において行う国債の応募又は引受け 
四  財務省証券その他の融通証券の応募又は引受け 
五  貴金属その他の物品の保護預り

政府(内閣総理大臣と財務大臣)に従い、特別業務を行わせることができるという条文。
第38条 (信用秩序の維持に資するための業務)

1.内閣総理大臣及び財務大臣は、銀行法(昭和56年法律第59号)第57条の5の規定その他の法令の規定による協議に基づき信用秩序の維持に重大な支障が生じるおそれがあると認めるとき、その他の信用秩序の維持のため特に必要があると認めるときは、日本銀行に対し、当該協議に係る金融機関への資金の貸付けその他の信用秩序の維持のために必要と認められる業務を行うことを要請することができる。 
2.日本銀行は、前項の規定による内閣総理大臣及び財務大臣の要請があったときは、第33条第一項に規定する業務のほか、当該要請に応じて特別の条件による資金の貸付けその他の信用秩序の維持のために必要と認められる業務を行うことができる
第43条 (他業の禁止)

1.日本銀行は、この法律の規定により日本銀行の業務とされた業務以外の業務を行ってはならない。ただし、この法律に規定する日本銀行の目的達成上必要がある場合において、財務大臣及び内閣総理大臣の認可を受けたときは、この限りでない。 
2.第7条第4項の規定は、前項の認可について準用する。 

≪参考≫香港およびシンガポールの政府紙幣
香港では中国銀行(中銀香港)、スタンダード・チャータード銀行、HSBC(香港上海銀行)および香港特別行政区政府の4つの発行主体による紙幣が流通している。香港特別行政区政府発行の紙幣は政府紙幣に相当する。

上から、中国銀行(中銀香港)20香港ドル札、スタンダード・チャータード銀行20香港ドル札、HSBC20香港ドル札、香港特別行政区政府発行10香港ドル札。

【図表】 香港の流通紙幣

シンガポールは中央銀行はなく、政府(金融管理庁)が紙幣を発行している。

【図表】 シンガポールの流通紙幣

≪考察≫
政府紙幣を巡る議論は、それぞれの立場や影響力を維持したいための意見や反論などが目立つ。また、積極財政により景気を上向かせようとしていることは、現在の状況下では、正しい選択肢と判断されるが、選挙対策として活用している部分も少なからず見られる。
政府支出、財政出動の観点では、国債を利用する場合も政府紙幣を利用する場合も高い効果があると判断されるが、日本経済の他産業セクターからのマネーの移動に留まる(不胎化)、経済成長には中立的な国債発行型のマネー創出よりも、不胎化弊害のない新たなマネーの総量を増加させる意味では政府紙幣の方がより効果が高い

ただし、支出、配布、減税など、どういった形をとるにせよ、一定額を下回る(ケインズ流に言えば、貯蓄が減少もしくは貯蓄率が低下している)場合には、単に預金に廻ってしまうため、このような実施方法では全く効果はない。本質的な問題は、2~2.5%程度のインフレになれば止めるといった、デフレギャップ(年数百兆円)の範囲内で、総需要を喚起するかという点であろう。

公共投資を行う場合も、防災・減災という人命に関わる対策や将来的なリターンに繋がるものを実施することが必要であり、個人へ配布する場合も、どうしても支出したくなる(需要が喚起される)ようなことを実施することが良いと思われる。
この先5年間、これまでのようなデフレが続いた場合には、現在の日本の強みであるデフレギャップ(供給設備や良質な労働力)が失われる(供給設備の陳腐化や教育不足による労働者の質的低下)ことに繋がりかねない。今後の日本の発展を考える上でも、まさに今、迅速かつ大胆な対策が必要と判断される。
多くの貧困者を少数の人々が支配する構図とした方が、より強大な経済的、政治的支配力を得やすいがために、財政出動においても金持ちや大企業優遇として、格差をつけているという意見もある。

高度経済成長期のような中産階級が台頭する社会は、経済的、技術的発展には大きく寄与するが、労組の影響力が強いなど、現体制・為政者には望ましくない構図なのだろう。

戦前における「財閥」と「炭鉱夫などの作業員」、「地主」と「農民」のような関係は、現在の「為政者・経営層」と「派遣労働者に見られるような貧困な労働者」の関係と似通った構図である。
【以上では、新保豊が加筆など補足】


■【経済・金融】タックスヘイブンの成り立ち

≪担当者のメモ≫岡本俊哉 〔2009年4月16日(木)〕

(1)タックスヘイブンの起こり
タックスヘイブンは、1950年代末、イギリス(ロンドン)で自然発生したと言われている。

イギリスは産業革命によって工業化を成し遂げが、1900年代になり、産業力は米国にとって代わられる。産業力を失ったイギリスは、金融立国を目指したことが自然発生した理由であろう。


世界に通じる産業が減少した後に、金融立国を目指すのは、2000年からの米国も同様である。

タックスヘイブンで有名な、ケイマン諸島、バハマ、バミューダ諸島、チャンネル諸島、マン島、等すべてイギリスの海外領土(自治領)であり、産業革命により、イギリスが海外に帝国主義を押し進めて行く際に植民地になったところである。


1503年にコロンブスがケイマンにたどり着き、その後、1655年にイギリス軍がスペイン領であったジャマイカを奪い、1670年にマドリッド条約によってケイマンはジャマイカとともに正式にイギリス領となる。ケイマンの最初の住民は、イギリス海兵とされているようである。


その後、ケイマン諸島は海賊などの拠点となると共に財宝などの隠匿場所となった。ケイマンは1961年、西インド諸島連盟が結成されるまでジャマイカに属していた。


しかし、ジャマイカがイギリスから独立を果たす一方、ケイマンはイギリス領として留まることを選んだ。現在もイギリス領となっており、カリブの島々のなかでも治安と生活水準が高いようである。

【図表】 主なタックスヘイブンの所在地
(出所)Finance Forest(LINEMAP投資顧問)HP

(2)投機マネーの起こり
米国がベトナム戦争などで膨大なドルを世界にもたらしたことと、世界的な金融の自由化によるオフショア市場の発展が、国家の規制を受けずに世界を駆けまわる過剰流動性の投機マネーを誕生させる始まりと考えられる。
1971年のニクソンショック以前は、米国の経済力が維持されていたが、米経済力の衰えにより、基軸通貨であるドルの価値が低下し、資源価格の高騰(オイルショックなど)をもたらす原因の1つとなる(本質的な原因は資源国の供給不足ではない)。米国は、このような基軸通貨の価値低下や、国の資本力の弱体化を、日本やアジア各国に規制緩和を求めることによって、不足の資金の調達に動き、経済不況からの脱出をはかった。これが、世界的なマネーゲームの始まりと考えられる。

英米は、日本やアジア各国に対して、金融の規制緩和圧力をかけ、資本の流動性を高めた。その結果、英米に流れ込む資本により、経済を維持することが可能であった。またそのことが、世界的なマネーゲームの始まりとなったと判断される。


サッチャーやレーガンから今日に至る経済政策は、サブプライムに代表される昨今の金融危機以前までは、英米にとって資金流入による経済維持という観点で成功と見られていた。
一方で、日本は1998年に外国為替法を改正し、海外で自由に預金口座を開設でき、国内で自由に外貨を流通させる事が出来るようになった。これによって、海外のオフショア市場に日本の資金(企業や高額所得者の資金)が大きく流れ、オフショア市場を通じ、英シティー、米ウォール街の金融市場に日本の潤沢な資金が流れ、今日の、英米の金融バブルに繋がっている。

日本にとっては、規制緩和(外国為替法等の改正)により、かえって国内の潤沢な資金を海外へ流出させたことになっており、本末転倒である。日本に資金が流入しない理由は、日本のバブル崩壊による固定的な低金利状態も原因と判断されるが、これらも金融覇権を巡るグローバル市場の仕組みとして位置づけられたと言えよう。


日本の規制緩和・市場原理推進者の中には、構造改革の名の下で、政府の諮問会議の委員などになり、結果、企業や投機家の利益を図り、各種の規制緩和政策を提言してきたのではないかとも思われる節が指摘されている。


これらの人々は、大学の教授や各種団体の理事などを渡り歩き、さらにマスコミへの出演や投稿を繰り返し、少なからぬ所得を得ており、それらはタックスヘイブンに隠匿されているのではないかとも言われている。世界も個人の行動も、この種の“経済”に裏打ちされているだろうことは、論理の飛躍にはならないはずだ。

≪課題意識≫
タックスヘイブンは、主要な産業がない国や地域にとっては、社会・経済を存続するための1つの手段と判断され、その意義を全面的に否定はできないと感じる。情報の隠匿なども、より多くの資本を呼び込むための手段であると判断されるが、今回のタックスヘイブンへの規制強化は、様々な関係・利益を持つ人々・国にとって、それなりの戒めにはなるだろう。
1980年代頃に世界的に始まった規制緩和や構造改革の大合唱は、英米の経済不振脱却を図る戦略的なものであったと判断できるが、日本の政府や知識人やマスコミは英米とは異なる経済・産業構造の日本においても、英米の規制緩和を真似することが経済成長に繋がると論じた。規制緩和がどのようなことに繋がるのか、将来を見極める能力とセンスが必要と感じる。


■【経済・金融】ヘッジファンドおよびタックスヘイブン規制と諸外国の思惑

≪担当者のメモ≫岡本俊哉 〔2009年4月9日(木)〕
2009年4月2日にロンドンで開催されたG20金融サミットでは、米英が大規模な景気刺激策を推進したことに対して、独仏はヘッジファンドやタックスヘイブンを中心とする金融規制強化を訴えた。

表面上は、対立軸として同一線上には存在しないように思えるが、視点を変えることで、接点が見出せるのではないか。
国際市民団体TJN(Tax Justice Network:代表は英ジョン・クリステンセン氏)の2005年推定では、タックスヘイブンに預けられている富裕層の資産は総額11兆5,000億ドル(約1,200兆円)、脱税額は年間2,550億ドル(約26兆円)とされる。ただし、これはあくまで2005年の推計に過ぎず、未集計分や2005年以降の増加分を含めると、現在は最低でも倍以上は存在する(ヘッジファンドの運用資産残高の増加などを考慮)のではないか(タックスヘイブンの性質上正確な数値は集計できないものと判断される)。

TJN調べでは、タックスヘイブンに置かれた富裕層の資産のおよそ3分の1がスイスにあるとされる。

独連邦大蔵省はドイツで7,750億ドル(約78兆円)、米内国歳入庁(IRS)は米国で2,950億ドル(約30兆円)が税の徴収を逃れて国外に逃避していると試算。 

【図表】 ヘッジファンドの運用資産残高
(出所)日興シティグループ証券「ヘッジファンド市場2007 年」

ヘッジファンドは、アメリカ(デラウェア州に多いとされる)、ケイマン諸島、イギリス領ヴァージン諸島等に設立されるケースが多く、ファンドマネージャーの所在地を見ると、その多くが米英であることが把握できる。

【図表】 ヘッジファンド所在地の比率
(出所)日本銀行「ヘッジファンドを巡る最近の動向」(2005 年7 月)

【図表】 ファンドマネージャー所在地の比率
(出所)日本銀行「ヘッジファンドを巡る最近の動向」(2005 年7 月)

タックスヘイブンを巡る事件からも、タックスヘイブンにおける資金の流れは把握されている様子がわかる。

米政府は2005年9月、マカオの銀行「バンコ・デルタ・アジア」が北朝鮮の政府機関によるマネーロンダリングや偽造米ドル札の流通に関与している疑いがあるとして「資金洗浄の主要懸念先」に指定、米金融機関に同行との取引を禁止した。北朝鮮は、「完全なでっち上げ」と強く反発、2005年11月の第5回6カ国協議で「金融は国家にとって血液と同じ。血液が止まれば、いずれ心臓も止まる」として、制裁解除まで協議再開に応じないと主張してきた。米国は金融制裁と6カ国協議は別問題との立場を崩さず、北朝鮮の「不法行為」を財政的に封じるための取り組みを強めている
(出所)NIKKEInet(2006 年9 月29日)記事


アメリカは資金の流れを把握し、さらにマカオにある銀行の北朝鮮のドル預金口座を凍結すると言えば、中国の意向など関係なく、簡単に凍結できてしまう。

≪考察≫
タックスヘイブンの銀行は、かたくなに守秘義務を守り、現地の裁判所の命令がない限り、外国の税務当局からの問い合わせには一切応じない、といわれているが、実際には米英(+スイス)を中心として、その資金の流れを監視していることも考えられる。

英国やスイスはタックスヘイブンにある銀行の決済情報を通じて、米国は基軸通貨であるドルの決済情報を通じて、ほとんどのマネーの流れが把握できるだろう。

このことから、タックスヘイブンは税制優遇と言う措置をとることで、資金を誘導し、それらを監視するための、ある種のオフサイドトラップのような見方もできるのではないか。
先のG20における、英米の景気刺激策推進(流通するマネー量の確保)は、これまで実施してきたマネーの監視を継続することを目的としており、独仏の金融規制強化は、その流れを断ち切ることを目的としていると考えると、同一線上での対立軸での議論と見ることもできる。

市場中心かつ金融資本を優遇してきたシーパワーと市場管理かつ実物経済に重きをおくランドパワーの対立と言う軸にも比較的合致するものであろう。

≪参考≫OECDタックスヘイブンリスト(2009年4月2日OECD公表)
ブラックリスト(脱税の疑いがあっても税務情報の交換に応じない国・地域)

コスタリカ[Costa Rica]/ウルグアイ[Uruguay]/フィリピン[Philippines]/マレーシア(ラブアン)[Malaysia Labuan]


上記4カ国は、国際基準に見合うよう制度を改善すると約束によりブラックリストから削除予定(2009年4月8日OECD公表)
グレーリスト(OECD基準に従うと約束したが実施に至っていない国・地域)

アンドラ[Andorra]/アンギラ[Anguilla]/アンティグア・バーブーダ[Antigua and Barbuda]/アルバ[Aruba]/バハマ[Bahamas]/バーレーン[Bahrain]/ベリーズ[Belize]/バミューダ[Bermuda]/BVI(英領バージンアイランド)[British Virgin Islands]/ケイマン諸島[Cayman Islands]/クック諸島[Cook Islands]/ドミニカ国[Dominica]/ジブラルタル[Gibraltar]/グレナダ[Grenada]/リベリア[Liberia]/リヒテンシュタイン[Liechtenstein]/マーシャル諸島[Marshall Islands]/モナコ[Monaco]/モントセラト[Montserrat]/ナウル[Nauru]/オランダ領アンティル[Netherlands Antilles]/ニウエ[Niue]/パナマ[Panama]/セント・キッツ・ネイビス[St Kitts and Nevis]/セント・ルシア[St Lucia]/セント・ビンセント・グレナディーン諸島[St Vincent&Grenadines]/サモア[Samoa]/サンマリノ[San Marino]/タークス・カイコス諸島[Turks and Caicos Islands]/バヌアツ[Vanuatu]
◇(今回、新たにリストに追加された国)オーストリア[Austria]/ベルギー[Belgium]/ブルネイ[Brunei]/チリ[Chile]/グアテマラ[Guatemala]/ルクセンブルク[Luxembourg]/シンガポール[Singapore]/スイス[Switzerland]
ホワイトリスト(OECD基準を遵守し税務情報の交換に応じる国・地域)

アルゼンチン[Argentina]/オーストラリア[Australia]/バルバドス[Barbados]/カナダ[Canada]/中国[China]/キプロス[Cyprus]/チェコ共和国[Czech Republic]/デンマーク[Denmark]/フィンランド[Finland]/フランス[France]/ドイツ[Germany]/ギリシャ[Greece]/ガーンジー島[Guernsey]/ハンガリー[Hungary]/アイスランド[Iceland]/アイルランド[Ireland]/マン島[Isle of Man]/イタリア[Italy]/日本[Japan]/ジャージー島[Jersey]/韓国[Korea]/マルタ[Malta]/モーリシャス[Mauritius]/メキシコ[Mexico]/オランダ[Netherlands]/ニュージーランド[New Zealand]/ノルウェー[Norway]/ポーランド[Poland]/ポルトガル[Portugal]/ロシア連邦[Russian Federation]/セイシェル[Seychelles]/スロバキア共和国[Slovak Republic]/南アフリカ共和国[South Africa]/スペイン[Spain]/スウェーデン[Sweden]/トルコ[Turkey]/アラブ首長国連邦[United Arab Emirates]/イギリス[United Kingdom]/アメリカ合衆国[United States]/米領バージンアイランド[US Virgin Islands]


■【経済】景気刺激のための財政出動

≪担当者のメモ≫今井孝之 〔2009年4月8日(水)〕

最近の動き
GDP比2%の財政出動で一致日米財務相会談」(MSN産経ニュース、2009年3月14日)。

与謝野財務相・金融担当相がガイトナー米財務長官と会談。

日米英3カ国は財政規律より景気対策を優先させることで合意(他G20参加国へ協調呼びかけ)。
「G20が隠し切れなかった大きな溝」(ロイターブログ、2009年4月3日)。

G20は、2010年末までに総額5兆ドルの財政刺激策を取ることで合意。

巨額の財政刺激策をめぐる米英と独仏の見解の対立


メルケル独首相:一段の景気刺激策の実施が義務付けられることがなかったことを歓迎する趣旨発言。


サルコジ仏大統領:世界経済が「アングロサクソン型経済」から変化しつつあると述べた。

ある民間エコノミスト見解:


独仏が大規模な財政刺激に神経質なのは、財政赤字が急膨張するだけでなく、世界同時の財政刺激は必ず新たなバブルの発生を呼んで問題の解決にならないとみているからだ、と指摘。


一方、米英は大規模な刺激策で、この未曾有の困難から脱出することを最優先にし、その先の課題はそのときに考えるべきとの発想が隠されていると話す。
「首相、補正10兆円超指示 追加経済対策 税制改正も盛る」(日経ネット、2009年4月6日)。 

麻生太郎首相は、与謝野馨財務・金融・経済財政相と会い、追加経済対策の財政支出の規模について「国内総生産(GDP)比で2%を上回る対策を検討してほしい」と指示。


理由:「日本の経済成長率の見込みが先進国で1番落ちていること。もう1つの理由は国際協調だ」。

裏付けとなる2009年度補正予算案は10兆円を超え、過去最大規模になるのが確実。


4月10日にも正式発表。政府は財政支出の規模について11兆~14兆円の間で調整。
(以下、Fuji Sankei Business i.、2009年4月7日)

追加経済対策の重点項目(5本柱):


①非正規労働者への新たな安全網の構築、②資金繰り対策で政策金融機関のフル出動、③太陽光発電の拡大、④介護や地域医療への不安払拭、⑤自治体による地域活性化策への支援。

御手洗経団連会長:「真水で10兆円規模の追加経済対策というのは非常に強力だ」と高評価。

追加経済対策の規模については、需要と供給の差を示す需給ギャップが20兆円近くあることから、与党などからは20兆円規模の財政出動でその穴を埋めるべきとの声が上がっていた。

ただ、規模が大きいほど財源問題が課題。


景気悪化による税収減などからすでに2009年度当初予算で、新規国債発行額は33兆2,940億円(財政再建の目安としてきた30兆円を当初予算で4年ぶりに突破)。

≪参考≫財政出動の効果
「米国でケインズ政策がよみがえった?」「オバマを支えるニューケインジアン 財政出動策は「条件付き」で有効」(『週刊ダイヤモンド』、2009年4月4日号):土居丈朗慶應義塾大学教授による解説。

ニューケインジアンは、サプライサイドの問題を重んじて財務政策を講じる。

オバマ景気刺激策の根拠となった雇用創出効果(直接効果より間接効果が大きいという想定に留意)。

ゼロ金利下、金融政策当局と協調することで初めて効果(財政政策は市場の失敗等に関わるところに限定された「脇役」的な位置づけ、「穴を掘って埋めるだけ」の効果はない)。
※別途、「主な経済学派の「立ち位置」マップ」(供給中心/需要中心、政策有効/無効の2軸で整理)あり。
「効かない財政出動」(『エコノミスト』、2009年2月17日号)。

中岡望(ジャーナリスト)「史上空前の大規模財政政策 「ケインズの亡霊」が蘇ってもルーズベルトになれないオバマ」:主要国と主な新興国計画の総事業規模:466兆円(金融機関への財政支援含む)。

熊谷亮丸(大和総研経済金融調査部シニアエコノミスト)「事業規模75兆円「麻生版ニューディール」? GDP押し上げは1%程度 経済効果は「焼け石に水」」:「真水」は12兆円、多いバラマキ施策(乗数効果に大きな期待を持てない)、世界経済悪化の影響を最も受けるのは「輸出主導型」の日本。

≪参考≫日本の国家予算

【図表】 2009年度国家予算(当初案)

≪考察メモ≫
日本の財政政策の動き:米英協調の意味合いが強いかもしれないが、デフレギャップ存在下では有効と想定。

分野選定の適切性はどうか(①非正規労働者へのセーフティネット、②政策金融機関フル出動、③太陽光発電、④介護・地域医療、⑤地域活性化)。

国債発行の課題(GDP比等)。

日本と状況が異なる、米英での動き(財政政策)はどうか(バブル再燃懸念)。
ニューケインジアン等の経済学派の立ち位置(財政政策の有効性)。

≪議論内容≫
経済学派を分類する際に、金融政策と財政政策を一緒にして、政策有効/政策無効を議論すると十分に表現しきれない。また、基礎的なIS-LM分析で語られるように、状況下によって、政策の有効性が異なるだろう。
GDPギャップを踏まえて、額の適切性を検討することが必要であろう。「需給ギャップ20兆円」という公表情報(真のデフレギャップは1桁多いはず)、「10兆円規模」の財政出動で国民の期待を引き上げられるのかは留意が必要であろう。

投入額が、貯蓄ではなく消費にまわるためには、絶対額、投入方法(利用使途の限定等)が求められる。


■【経済・金融】金融危機問題

≪担当者のメモ≫岡本俊哉 〔2009年4月3日(金)〕
LCFI(Large Complex Financial Institutions:巨大複合金融機関)16社の総資産は、2001年に10兆ドル(約1,000兆円)弱だったものが、2006年には22兆ドル(2,200兆円)を超えている

LCFIとは、米英独仏蘭スイスの6か国に存在する巨大複合金融機関で、蘭ABNアロム、米バンク・オブ・アメリカ、英バークレイズ、仏BNPバリバ、クレディ・スイス、ドイツ銀行、米ゴールドマン・サックス、英HSBC、米JPモルガン・チェース、米リーマン・ブラザーズ、米メリルリンチ、米シティグループ、米モルガン・スタンレー、英RBS、仏ソシエテ・ジェネラル、スイスUSBを言う。

現在は、破綻合併を経て13社。
LCFI(巨大複合金融機関)16社もサブプライム問題で損失を計上しているが、その額は日本円にして30兆~50兆円程度でしかない

2001年以降に増加した資産はほとんどが住宅ローンなどの貸付による資産と思われるが、それらは、将来的には金利収入の源泉となるものである。
今回計上している30兆~50兆円の損失は、貸付(住宅ローンやヘッジファンドへの貸付)のうち、不良債権化したものを単年度に損失計上しただけに過ぎないとも読めよう。

資産を大幅に増加させたために、自己資本比率が低下し、株価の下落と僅かな損失により、BIS基準に抵触する状態となった。こうした状況下、公的資金注入へのプロセスを経るには、“大きな損失”を公表することに意義があったと言えよう。

【図表】 サブプライムローンの証券化イメージ
(注)☆「ABS」:Asset Backed Securityの略で、資産担保証券のこと。☆「MBS」:Mortgage-Backed Securityの略で、不動産担保証券のこと。☆「CDO」:Collateralized Debt Obligationの略で、債務担保証券のこと。☆「SIV」:Structured Investment Vehicleの略で、銀行がリスク資産をバランスシート上から消すために本体と分離させることを狙った投資専門組織のこと。
(出所)各種公開情報を基に日本総合研究所作成

図表中の①:例えば、債務者に100を貸付、将来的には金利を含め150の返済が見込める債権を、証券として120で売却する。
図表中の②:CDO商品は、CMEなどの市場で売買が可能であり、比較的短期で償還されるため、住宅価格が上昇する際には、保有し運用するか、転売益を得る。逆に、住宅価格下落時には、空売り益を得ることも可能。

米G社は、CDO関連商品(例えばCDOを指数化したABX-HE指数の先物)を売り持ちしておいて、証券市場の格付けの引き下げを行った。結果、市場全体の下落となった。


ABX-HE指数:HEとはHome Equityの略で、サブプライムローンの担保証券を対象とした信用デリバティブ指数のこと。

≪議論内容≫
LCFIに代表される大手金融機関における損失は多大に見えるが、膨大な総資産の多くがタックスヘイブンで処置されている可能性がありそうだ。そう考えないと数字の帳尻が合わない。
今回損失を短期間に計上し、公的資金注入などで、当面の財務健全性(BIS基準など、表面上の)を保っておけば、残された巨額資産から金利収入を得ることが可能。欧米金融危機の先を読む打ち手には、多いに学ぶべきことがある。






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