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イノベーション勉強会:第126回討議録

研究本_M&I勉強会(第126回)
「イノベーションと説明責任」討議録
(記録:今井孝。その後、参加者による修正・加筆)

1. 日時、場所、参加者

日時、場所 2007年8月29日(水) 8:30~10:00 日本総合研究所309会議室

参加者 原田専務、水谷(コンサルティング営業部)、篠崎(マーケティング革新クラス ター)、片桐(地域戦略クラスター)、新保(TMT戦略クラスター)、河野(同)、浅川(同)、吉田( 同)、今井孝(同)
2. 発表の概要
「イノベーションと説明責任」( TMT戦略クラスター 浅川秀之)
≪問題意識、テーマ設定の背景≫
特に大企業では既存事業の成功体 験、これまでの華々しい歴史などが、新たなイノベーション創出を阻害する原因となることがある。
イノベーションを絶え間なく創出 するために企業はどのような対応が必要なのか、については様々な研究等がなされているが、日本企業 の現状に即した、現実的な解を明示したものは少ないように思われる。
今回の勉強会では、「研究者や開 発者らの、経営層や営業部門に対する説明責任」が、イノベーションや新規事業を創出するための第一 歩として重要ではないか、という仮説を立て、いくつかの論文等を引用し、検証を試み、討議を行う。
≪参考文献等≫
デイビッドA.ガービン他「大企業 の新事業マネジメント」『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』(2007年8月)
モーガン・マッコール『ハイ・フ ライヤー、次世代リーダーの育成法』(2002年1月)
≪主な内容≫
【「大企業の新規事業マネジメント」からの引用】
大企業ではなぜ新規事業がうまく いかないのか?
新規事業ならではの3つの課題が ある。

新規事業には実績というデータが 足りない。

イノベーション、斬新なアイデア が必要。

既存の業務システムとのミスマッ チ。
新規事業を育成するには「新規事 業のバランス感覚」が必要。

「試行錯誤による戦略プラン ニング」と「秩序と規律」のバランス

業務経験の蓄積」と 「新規軸」のバランス

「新規事業のアイデンティティ」 と「既存事業との統合」のバランス
既存事業、システムの慣性力 VS  新規事業(イノベーション)

本論文では、「具体的に何をすべ きか」という視点が弱いように感じた。
【「ハイ・フライヤー(リーダー・シップは開発できる)」からの引用】
不幸なことに、人は成長に反することを好み、企業にもその傾向がある。

人は、自分の「強み」を利用する こと、成功すること、一番になることを好む。そのため、のちに必要となる新しいスキルを開発せずに 、既存のスキルを使用して・・・(略)。

人は、自分が優れていると信じよ うとする。そのため、自分に関する記事を信じ、「弱み」を深刻に捉えない傾向がある。

うまくこなしていた仕事を離れて 新しく何かを習得するということは、精神的な面からも仕事の保証という面からも、大きなリスクを伴 う。
究極のところ成功するリーダーは 、過去の成功の誘惑に抵抗する勇気を持っているといえる。

継続的な成長、転換、変革がその キーワード。
将来のために何を学んだか 」、「経験からの教訓」が重要。

戦略的イノベーションを実現する ためには「忘却」「借用」「学習」の3つの課題を克服するケイパビリティが必要(ビジャイ・ゴビンダ ラジャン)。
【新規事業やイノベーションをマネジメントするとは】
企業内で新規事業やイノベーショ ンを創出するための具体的な「仕組み」を作り込まなくてはならない。

新規事業やイノベーションの創出 ⇒勿論そんなに簡単なものではない

「仕組み」⇒新規事業やイノベー ションを創出しやすい土壌をつくること
具体的にどうするか(アクション )を、明記した文献等は見当たらないのではないか(コンサルティングで顧客に示すには弱いという問 題意識がある)。

文献等は様々なものが存在(参考 ①:「医薬品開発を成功に導く要因分析」(桑嶋健一『不確実性のマネジメント』))
【「イノベーション」と「説明責任」】
CTOには担当事業に関して、CEOや ステークホルダーへの説明責任(プレッシャー)が必ずある。

様々なツール(NPV、RO等)の活用 ⇒ステークホルダーへの説得力強化

説明からの乖離が見られると厳し く追及される⇒乖離の原因を説明 ⇒なぜ乖離したのか因果関係が蓄積される⇒次年度の戦略へ反映
こういったサイクルがイノベーシ ョンの発生する現場でも必要ではないか。

イノベーション創出の確率を高めるのは、これまでの現場での経験であり、つまり失敗や成功の因果関係を学習すること。

失敗や成功の因果関係をどれだけ 学習し、蓄積してきたかが当該企業のイノベーション創出力に直結するのではないか。
そのための第一歩が「研究者 や開発者の説明責任」。

特に日本の企業では当事者の意識はほとんどないのではないか。
【成功/失敗との因果関係の把握、蓄積、学習】
説明責任とは、「開発者が営業部 門や上位層に説明する責任」、「研究者が開発者に説明する責任」のこと。

技術的なことだけでなく、自らの考える市場性、ビジネスモデルも含め説明。

NPV、シナリオ・プランニング、 リアル・オプションなどを簡易に活用。

常に状況の変換に応じて変更する 。
上位層(経営層)は、現場から上 がってくる各説明に対して、成功/失敗との因果関係を把握、蓄積し、学習することが重要。

説明責任⇒研究開発者の考える将 来シナリオの説明 ⇒上位層、営業部門からのフィードバック ⇒(時間の経過) ⇒実行 ⇒当初の シナリオとの乖離(成功/失敗) ⇒因果関係分析⇒問題点の把握・蓄積(学習) ⇒次のアクション( 新アイデア等)への反映 ⇒新アクション実行のための説明 ⇒・・・

武田薬品の事例(参考②:「学習 する研究開発組織例:絞込み戦略」、「武田薬品の蓄積された能力」(桑嶋健一『不確実性のマネジメ ント』))
説明責任を果たすプロセスがあっ てはじめて、学習が促され、イノベーション創出へと連鎖するのではないか。

デス・バレーの捉え方(参考③: 「デス・バレーの認識⇒説明責任の必要性」)
【何を考え、どう行動すべきなのか】
具体的なアクションをとるためには、ステップを意識してステップごとにモニタリングすることが重要ではないか。

技術的なノウハウや顧客情報などの知識を企業内で偏在させないことが、イノベーション創出のために重要。

商品や市場の状況に応じて当該部 門が適切な知識を「知りうる」仕組みを作ることがはじめの1歩。

知識を「知る」だけでなく、知識 を持った上で実際に「経験」することが次に重要。

さらには、経験によって開発プロ セス上の重要な因果関係などを組織的に「学習」しなければならない。

学習成果を組織マネジメントへ具体的に「フィードバック」することにより、1つのマネジメントサイクルが終了。

このサイクルを回し続けるこ と(蓄積)がイノベーション創出の可能性を高める戦略に他ならない。
3. 討議の内容
発表において、「研究者や開発者 の説明責任」に対して「日本の企業では当事者の意識はほとんどないのでは」という説明があったが違 和感がある。日本の企業においても、事業計画書・企画書を作成するはずだし、一定の説明は行われて いると考える。シナリオ・プランニング、リアル・オプションなどの様々なツールが活用されていない 、市場性、収益性を測る指標が不十分である、という意味だろうか。【河野】

事業計画書の中では、当然、市場 性について触れられているだろうが、事業計画書作成段階では、既に、色々な調整も終えて意思決定が 完了しているという印象がある。もう少し前の段階で、現場で感じているレベルのことをうまく簡単に 説明する機会を増やすこと、その説明内容自体をデータベースとして蓄積していくことが重要ではない か。【浅川】

知識を偏在させない、情報を共有 するということには同意できる。情報共有の場は、必ずしも、リアルの会議でなくてもよくて、例えば 、社内イントラネット上で情報共有を行うというやり方もあるのではないか。【河野】

確かにそうである。簡単に第一歩 を踏み出すという意味で、社内ブログなどは有用であろう。【浅川】
研究者・開発者が営業部門や上位 層に説明する際に、説明する側だけでなく、聞く側が上がってきたものに対して正確に判断するための 基準をもっているかどうかが重要だろう。過去の成功体験に引きずられているのは、聞く側の営業部門 ・上位層であるケースが多いように感じる。聞く側の判断基準のルール化が必要ではないか。

参考文献で取り上げられている IBMの事例では、マイルストーンごとに評価指標を置いている。各段階で評価を行う仕組みを作ることは 重要であろう。【以上、河野】
参考で取り上げられている、武田 薬品において研究開発する新薬を絞り込むノウハウは興味深いものである。ただ、この事例は、あくま でも、同社の本業である医薬品事業におけるノウハウであって、新規事業開発とは異なるであろう。本 業のノウハウが、新規事業開発に活かされているかどうかを知りたい。【河野】

新薬承認には、製造承認と輸入承 認の2種類があるが、武田薬品は他社に比べて、製造承認の比率が高い。同社は、輸入承認に頼ることな く自社開発比率を高めて、自社内にノウハウ・知識を蓄積することを重要視している企業と言えるだろ う。【浅川】
発表で述べられている具体的なス テップは、研究者・開発者レベルですべきこととして適切だと思う。一方、その前提として、企業全体 としてどのような方向に向かうのかの方向付け、ドメインの設定も重要だろう。

比較的、新規事業が成功している 例として、花王が挙げられることが多いが、同社は、ドメインを「清潔」から、「健康」、「美容」に 広げていくという決定を行った。そのドメイン設定を踏まえて、今までの技術、チャネルをいかに活か していくかを考えている。このように、トップ方針と開発とのリンクが重要ではないか。【以上、河野 】
参考の論文で、原文では「新規事 業」はどのように記載されているか。本業とは異なる新規事業を起こすか、単なる商品開発までを含め るのか新規事業のレベルによって取り組みも変わってくるだろう。【河野】

「エマージング・ビジネス」と記 載されているので、まさにこれが新しい市場を開拓するような大規模な新規事業を指すのではないか。 【新保】
研究者・開発者がノウハウを共有 すべきという点には納得できる。ただし、研究者・開発者が共有すべき知識、説明すべき内容について 、市場性をNPV、シナリオ・プランニング、リアル・オプションなどを活用して説明するのがよいのだろ うか。武田の事例でもどちらかというと、技術的なノウハウが共有・蓄積されているようである。また 、実際に、研究者・開発者が市場性を語ることが可能だろうか。【今井孝】

携帯電話のような大人数、大規模 のプロジェクトにおいては、少なくとも製品を世に出す製品化フェーズの一歩手前で、先頭に立ってい る責任者が説明することが必要であろう。製品開発において、プロダクトチャンピオン的なリーダーが 存在するが、そういう人は無意識に実践しているのではないか。

また、プロジェクトの先頭に立っ ている責任者ではなくても、個々の研究者・開発者が、自分の使える時間のうち、5%~10%程度でも、 こうした市場性を考える時間を確保していくべきではないか。財務的な成果を定量化してみせるシナリ オ・プランニングなどの手法も簡易に使うことは可能であろう。【以上、浅川】
新規事業開発を議論する際に、ど ういう目線、どの立場でやっているかをはっきりしないと議論が拡散するのではないか。イノベーショ ン・新規事業は、技術の観点で考えるのかビジネスモデルの観点で考えるのかで大きく異なる。

経営者の観点からいうと当然ビジ ネスモデルの観点が重要である。一方、技術者がビジネスモデルまで考えていくことはレアではないだ ろうか。両者は、思考パターンが大きく異なる。

例えば、「大企業の新規事業」と いう視点で整理すると、見え方は異なるのではないか。【以上、原田】

現在の大企業では、技術者が経営 層に上がるケースも多い。技術者が経営層となった際には、どのように判断すべきか、ということが念 頭にあったかもしれない。【浅川】
例えば、公共分野では、機能・組 織が縦割りになっているので、他の部門に説明し、知識を共有するという意識が低い。民間企業におい て、技術者が、他部門に説明するインセンティブはあるだろうか。会社の利益追求のための責任として 強制すべきものだろうか。【片桐】

技術者には、よいものを作りたい 、世の中に出したいという思いがあるだろう。多少、性善説的だが、世の中に出すためには説明まで含 めてやらなければいけないという意識付けが機能するのではないか。【浅川】
開発者・研究者が知識を説明して いくことは重要である。一方、「責任」という文字になると、一担当者のレベルを超えているように思 う。「説明と責任」というとやや語調が強いように感じる。

新規事業の研究・開発において、 NPVやリアル・オプションを活用するのは、難しいのではないか。論文中にも、「科学的当てずっぽう」 とあるように、手法には限界もある。リアル・オプションは既に確立しているビジネスや市場における 不確実性を扱うのには適しているが、新規事業として、まだ確立していない未知の市場を扱うのには不 向きではないか。


とかく、定量がよくて定性が悪いと考える人もい るが、定量は定性の一部分をとらえたものにすぎない。定性面まで含めて多面的に評価することが重要 であろう。

「常に状況に応じて変更する」と いう説明があるが、その場合、R&D部門の責任が不明確になる可能性がある。研究開発分野を変更す る場合には、追加コストが発生し、現場の混乱も生じるだろう。論文でとりあげられているIBMの事例で は、できるまで何度もやるということが徹底されている。研究開発において、やり通すことも重要であ ろう。【以上、新保】


何としてもやり通す際における説明責任の必要性 についても考慮する必要があるだろう。【浅川】
今回の提案の問題意識に関する所 在、適用領域を確認することが必要であろう。

提案の適用・議論の対象とするタ イミングは、研究開発・事業が動き出した後のGo or Killの判断なのか、これから新たに始める際の判 断なのかを意識した方がよいのではないか。

また、技術者・開発者が情報を集 めてマネジメント層に提供し、マネジメント層が判断をするのか、あるいは、技術者・開発者が情報を 集めた上で、自分たちで分析してマネジメント層に報告し、マネジメント層がその報告を元に判断する のか、どのような主体を意識して議論しているのかを明確にした方がよいのではないか。

今回の提案は、研究開発・事業が 動き出した後のGo or Killの判断の適切な進め方について論じているような気がする。【以上、吉田】


希望としては、動き出した後よりも、新たな種を 発掘する際の手法を検討できないかという思いがある。【浅川】

分析・説明主体としては、開発部 門の責任者、CTOなどが適切ではないか。そうした人であれば、例えば、自分の時間の10%といった、一 定割合を分析・説明に対して割くべきであろう。一方、通常の研究開発担当者は、視野が狭く、市場性 の説明までしたいということは稀であろう。【新保】


研究開発者は、ビジネス的にインパクトがあるこ とがやりたいというよりも、自分の興味のある分野をやりたいという意識が強いのでないか。【吉田】
大企業の経営者は、イノベーショ ンのビジネス面を重視する。極端な例かもしれないが、例えば、アップルの成功要因はどこにあるのだ ろうか。【原田】

一つには、「Be Different」の精 神があるだろう。論文の中では、「ただ自分は違うと言いたいがために、わざと違いを作り出していた 」という失敗例が記載されているが、他者と全然違うんだという気概が、成功するまで何度も何度もや るという行動につながり、成功に結び付いている側面もあるのではないか。


紹介されている論文も、ビジネスの側面から見る と、興味深い、心に響く内容が記載されているように感じる。【以上、新保】
150名位の研究員を抱える研究所 を保有している機関の一員(日本総研へ現在研修中)として、技術者が技術の採用のされ方を説明する 機会を作ることは重要でないかと感じた。初めは、トップの意思で始まった研究も、長年続けられるう ちに、担当している特定開発担当者に周辺分野情報を含めた知識が集中しその人しか判断ができないと いう事態が起こりがちである。その情報を会社全体の知識として使えるよう共有していく取り組みが重 要だと思う。

また、今回は、技術者の視点で考 えていたので、ビジネス面をコンサルティングの視点で見ることも必要だと感じた。【以上、篠﨑】
新規事業開発・マネジメント支援 は、コンサルティングニーズが高く、今後もより掘り下げていくべき研究テーマであろう。【原田】
4. 次回予定

2007年9月5日(水) 8:30~   担当:片桐
以上











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