コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

イノベーション勉強会:第120回討議録

研究本_M&I勉強会(第120回)
「戦略のパラドックスを解く」討議録
(記録:武藤。その後、参加者による修正・加筆)

1. 日時、場所、参加者

日時、場所 2006年12月6日(水) 8:30~10:05 日本総合研究所514会議室

参加者 原田常務、中野本部長、伊藤史(ビジネス戦略デザインC、競争戦略C)、新保( TMT戦略C)、倉沢(同)、今井孝之(同)、武藤(同、研修生)
2. 発表の概要
「戦略のパラドックスを解く」( TMT戦略クラスター 今井孝之)
≪題材≫
丹羽哲夫著『戦略のパラドックスを解く』(ファーストプレス、2006/12)
≪主な内容≫
経営戦略を実現できない理由

多くの企業で、経営目標未達、再 策定が相次ぐ。

経営戦略を実現できない状態(筆 者はこれを「死の谷」と呼ぶ)は、理論・手法の提唱者と導入企業の認識ギャップから生まれる。

上記のギャップが、理論・手法を 忠実に導入・活用しても狙いどおりの効果を上げられない状況(筆者はこれを「パラドックス」と呼ぶ )を生む。
暗黙の前提が生み出す7つのパラ ドックス

7つのパラドックスを解決するた めには、組織としての戦略立案能力を高めていく、組織的に学習していくことが必要である。


[1] 分析を積み重ねても本来のコンテキストを発 見できない≪手法の表面的な活用では十分に機能しない≫


[2] ポジショニングをしても利益を分け合えない ≪静的なポジショニングでは変化に対応できない≫


[3] ゲーム理論の枠組みでは顧客利益を損なう ≪規格戦争のような競合を意識した戦略では顧客の視点が欠けるおそれが ある≫


[4] 戦略の上位下達のみでは実現しない ≪トップダウンだけではなくボトムアップ、創発戦略が必要≫


[5] 数値目標至上の戦略評価では変化に対応でき ない≪唯一の計数目標では変化に対応できない/定性・定量両面からの把 握が必要≫


[6] トップのみに求心力を求めると機能しない ≪経営陣のみではなく別視点の注入が必要≫


[7] 経営陣を合理的判断者とみなすと機会損失を 招く≪同一の経験しかしていないとメタ認知能力が落ちる≫
マルチ・ストラテジック・コア組 織の提案

戦略のパラドックスを解くために は、戦略オプションを複数つくる組織が必要である。


定常ルートである各事業部門、機能部門から出 された既存利益優先の戦略とは別ルート組織を作り、2系統の組織とする。


「戦略委員会」「経営企画部門の戦略スタッフ 、」「中核事業部門内の派遣スタッフ・チーム」から構成される。



- 経営陣と異なる視点・体験を移植する(社外取 締役・社外専門家、経営企画部門の部門長・専属スタッフ・派遣スタッフに優秀な人材を配置する)。



- 経営陣に対する戦略教育実施、ディベート習熟 により、経営陣一人ひとりの学習を促進する。
【図表】マルチ・ストラテジック・コア組織
(出所)丹波哲夫著『戦略のパラドックスを解く』
戦略委員会の役割と機能

重要な戦略について、ラインの執 行役・執行役員が作成した案とは異なる視点で対案を策定し、対立点・相違点から根本的課題を明らか にする。


要諦:①利害関係のない外部専門家による異な る視点の注入、②経営陣のメタ認知能力の向上
派遣スタッフの役割と育成

①中核事業部門において必要な情 報を収集するマルチセンサー機能、②事業戦略立案能力の強化を図る。


≪メモ≫「外部の経営コンサルタントを導入し ても、経営戦略と事業戦略の提案止まりで、実行まで関与しないケースが多い。外資系やシンクタンク 系は提案だけに終わらせることで手離れがよくなり、実行支援できる実力のあるコンサルタントが少な いことも背景にある。」

経営企画部門の戦力と中核事業部 門の戦略企画能力強化。
経営陣のディベート習熟

経営陣のメタ認知能力を高める。 (場合に応じて、外部専門家を活用する。)
≪考察(今井)≫
ゴビンダラジャン『戦略的イノベ ーション』で提案されている、「予測精度向上のための学習」を実現する組織と共通する部分が多い。
目的:経営の質を高めるという直 接的な目標と、それを実現していくための人材育成・組織整備の両面がある。

直接的・短期的な経営・戦略立案 の質の向上

人材の教育、継続的に人材を教育 していける組織作り
戦略立案の手法:それぞれの適用 範囲(企業規模、課題のレベル、業種、組織風土など)についての検討が必要

マルチ・ストラテジック・コア組 織:外部専門家・経営企画専門チームにおける全社的課題、および中核事業部門における課題に対する 戦略立案を実施

経営企画部門・営業部門横断の重 量級プロジェクトチーム

ジュニアボードマネジメント

(ボトムアップ型のマネジメント :現業に大きく権限を委譲)


cf. アメーバ経営:独立した細かいチーム(ア メーバ)に分割し、各々のチームでの課題解決能力を高める。



- 全体最適と部分最適を両立するための仕掛けが 存在【ソフト:経営理念の浸透、ハード:分かりやすい統一管理会計制度の導入、定例会議などの密接 なコミュニケーション機会の設定】
3. 議論の内容
「戦略のパラドックス」の定義は 。【新保】

言葉の使い方には若干違和感があるが、筆者は「戦略が上手くいっていると思っているが、実際は上手くいっていない状況」を「戦略の パラドックス」という言葉で表している。【今井】
どの程度の規模の企業を想定して いるのか。【原田】

筆者はイトーヨーカドーの本社ス タッフなどの経験を引用しており、比較的大きな企業を対象にしているのではないか。【今井】
成果を挙げられるためには、さま ざまな戦略を理解し、企業にあったものを厳選し適用することは重要だろう。コンサルタントとしてレ ベルアップする過程において、3つのステップがあるだろう。①アンゾフやミンツバーグなどの戦略論を しっかりと理解しているか。②コンサルティングの現場で企業の状況に応じて戦略を使い分け、適用で きるか。③それによって成果を上げられるか。今の若いコンサルタントには、①も十分にクリアしてい ない人も多いのではないか。

筆者が提言している「マルチ・ス トラテジック・コア組織」の図の中に「外部専門家」という言葉でコンサルタントが記述されているが 、こういう立場で関わっていくことは重要。大きなプロジェクトが終わったら、大きな企業にとって最 終的に外部専門家は不要になる場合もあるだろうが、薄くても良いのでかかわりを持ち続けられると良 い。

日本では、戦略論はよく読まれて いるのではないか。過去、戦略論=ポーターという時代もあった。経営企画部門は、ポーターの戦略論 だけでなく、ミンツバーグなどの対極にある考え方も学ぶと良いのではないか。大手印刷業X社は、新規 事業を課題としているが、経営企画部門のスタッフがアンテナを広げいろいろなこと勉強をしようとし ている。また、スタッフを海外へ派遣し、経験を積ませる企業が増えてきている。

こういった企業ごとの戦略の使い 分けや人材の育成も含めた統合的な戦略を製品化することが重要であろう。【以上、新保】
ゲーム理論の事が述べられていた が、ゲーム理論では、3×3程度のマトリクスまでなら有効であろう。【新保】

ここで筆者は、企業の評価者が顧 客であることを重視し、ゲーム理論の枠組みで競合のみを意識すると顧客に不利益をもたらすと述べて いる。【今井】
パッケージやモジュールだけでな く統合型のマネジメントを目指すのであれば、ゲーム理論などから最新の戦略論まで頭に入れておくべ きだろう。その中から顧客にあった戦略を選択し、あるいは組み合わせ、カスタマイズしていく力が求 められる。

過去に日本が行ってきたような産 業政策はマーケットの先行きが明瞭なときには有効であるが、現在は、情報、コンテンツ、サービスに 価値が求められる時代であり、非常に先行きが不透明な状況である。その場合、その不透明な市場に関 連する技量・ノウハウを相互にインテグレートできるような、「統合的戦略」を遂行できる者が強みを 発揮する時代である。【以上、新保】
題材の本は読んでいないが、さま ざまな書籍で語られている戦略論よりも稲盛氏(京セラ名誉会長)の言葉のほうが納得できる部分が多 い。心、企業文化、モチベーションといった経営の本質部分の問題を、稲盛氏は突いてくる。経営に正 解は無く、そのときどきの企業の状況によって違う。特に若い人には、企業文化など心の部分をどうマ ネジメントするかを考えてほしい。【原田】

稲盛氏の「アメーバ経営」は、独 自の会計制度など形がしっかりしているので、そこばかり取り上げられがちだが、心の文化が根底にあ るところが素晴らしい。心の部分で縛りつつ、TQM、QCサークルなど日本に根付いていた経営手法を会計 的に数値として見えるように進化させおり、ミンツバーグの創発戦略の日本版のような感じだ。【今井 】
心の部分は非常に重要だが、また 、それだけではミスリーディングする場合がある。企業が小さい初期段階は良いが、企業が安定し規模 が大きくなると心の問題だけでは上手くいかなくなる。【原田】

企業の成長のステージに合わせた コンサルティングができると良い。戦略論の多くは既存の比較的大きな企業を対象に作られている。そ れを念頭にコンサルティングにあたると良い。【新保】
企画部門という部署は、日本独特 のものではないか。米国などでは役員直属の企画スタッフなどは聞くが。【原田】

60年~70年代ごろGEのスタッフが 作ったのを日本企業が真似たのが始まりだろう。現状の経営企画部門は、計画を立てる事が目的になっ てしまっている。ある企業のコンサルティングを行ったとき、「そんなに早く進めると企画部門の仕事 がなくなるのでコンサルティング期間を延ばしてくれ」と思われるような、驚くようなことを頼まれた ことがある。スピード経営が望まれる今の時代に本末転倒だ。【新保】
企画部門が問題視されている企業 を多く見かける。彼らの計画重視の姿勢には違和感を覚える。【原田】

特に、金融機関などの中でも、企画と人事部門が問題視されている。彼らは非常に優秀だが現場や顧客を知らない。【中野】
筆者の組織図を見ると経営企画部 門への派遣が肝だと思う。派遣されたスタッフが特高警察のように見られ、争いの基になるのでは。製 造業のような事業部制がはまるような企業でないと上手くいかないのでは。【倉沢】

大手家電C社の財務部門が同じような手法をとっている。【原田】

企画部門と事業部門のローテーションを上手く回すことで特高警察的な状況は避けられるのではないか。【今井】

日本の組織にはなじまないように 感じるが。【中野】
事業部で人材を選別して送りこむ やり方もあるだろうが、ご指摘のとおり上手く回らなければ難しいだろう。日本の企業組織からいきな り経営企画部門をなくすことはできないだろうが、例えばトップがコミットできる特別なプロジェクト を経験させることで次期事業部長を狙える人材を育てられる。【新保】
私の経験上、上手くいっている企業は、トップダウンかボトムアップがしっかりしているところ。経営企画が立てたプロジェクトで成功 したものはあまり聞かない。【原田】

ミンツバーグの調査によると、事業計画書のほとんどは金庫にしまわれているか、すぐさま変更されているかのどちらかだそうだ。創発 戦略を取り入れて変わらなければならない。企画スタッフとしては不安だろうが変わらなければならな い。【新保】

企画部門の権限が強い企業、弱い 企業があるだろう。企業文化や業界にもよるかもしれない。私の経験上、企画部門が弱いほうが企業と しては生きの良さを感じる。ある意味アメーバ経営的なのかもしれない。【倉沢】
コンサルティングの経験のなか、 商社の企画部門にしっかりしている人が多い。大手ではA社はB社より企画部門が強いと聞いている。B社 の企画部門の人に聞いた話だが、商社における一番の問題は事業部間の縦割りの非効率性だそうだ。A社 はシナジー効果を活用した売上が非常に大きいと聞いている。【新保】

A社は、自立的にシナジーを起こ すような社風なのかもしれない。【倉沢】
規模、業種、業態など顧客をタイ プ別にマッピングをし、どこにフォーカスをあてるか検討すると良い。ある種のグループ活動だけでは 縦割りになってしまう。そのグループを統合する活動となれば、その組織はもう1ランク上の仕事(例: コンサルティングなど)ができるのではないか。

JSOXやリスク・セキュリティ管理 などの法律に関連するコンサルティングが増えているが、もっと前向きなプロジェクトに多く取り組む と良い。企業経営においては、失敗をして何を学ぶかがポイント。特に不確実性が高い近年の状況下で は学ぶことはマネジメントの観点からも重要だ。企業の学習過程のコンサルティングを商品化できると 良い。

最終的にはコンサルティング営業 部が活用できるようなドラフトまで落とし込めると良い。【以上、新保】
商社のような大企業なら良いが中 堅企業ではそうはいかない。スタッフが足りなくて、「マルチ・ストラテジック・コア組織」のような 体制は成り立たない。中堅企業向けのモデルも持っていないとだめだろう。【中野】

中堅企業での企画スタッフはスピ ードとタフさが必要。現業と兼ねながら特別プロジェクトを行うような感じだろうか。【新保】
機械メーカーは、I社長になって から好調な業績を上げている。社長のリーダーシップとともに、同社はミドルアップ・ダウンに強みを 持つ。【原田】

『イノベーションの本質』で野中 郁次郎氏が述べているが、正・反・合をミドル層に意識させる必要がある。【新保】

特に若手の人に是非研究してほしい。ミドル層に人材がいないという企業が多いが、本当は優秀なミドルにトップが気付いていないだけ ではないか。【原田】

大手家電C社は、ミドル層に厚みを感じる。【新保】
ミドル層は、背負っているものも 大きい世代。冒険しにくいこともある。【倉沢】

会社はセイフティーネットのよう な機能をそなえ、安心感を持てる状況をつくると良いかもしれない。【新保】
大手自動車X社なども、一生安心 して働けるからこそ、社員が活躍できているのだろう。ところで、この本はタイトルを見て選んだのか 。【原田】

タイトルと目次を見て、組織の話 が載っていたので購入した。【今井】

組織の話は重要だ。人事やマーケ ティングなど個別のコンサルティング分野に専門性を持つことも重要だが、全体を見渡せる力が必要。 オリンピックでたとえるなら十種競技で勝たなければならない。総合でトップを目指すということ。米 国デザインファームIDEOの創業者の弟トム・ケリー氏は『イノベーション・オブ・アート』という著書 のなかで、このことを強調している。

特に、シニア層は全体を見る力がないと勝負できない。若い人が組織に興味を持つことは素晴らしいこと。素晴らしい戦略も組織として 使いこなせるようにならなければだめだ。【以上、新保】
アメーバ経営に興味があるのでこちらも勉強してほしい。A社も一種のアメーバ経営だが、壁にぶつかっているのではないか。【原田】

京セラのアメーバ経営は、稲盛氏 のカリスマ的リーダーシップと独自の経営哲学という前提があってこそ、成功を収めている。A社の場合 、経営哲学の面に注力しなければ。【中野】

経営における心の重要性だが、ア ブダクション法では「心=夢」を起点(正)と置き換えられよう。強力な信念があると良い。これは「 正」であり、「反」となる経営課題があってアメーバ組織として取り組むことで、「合」すなわちアウ フヘーベンが生まれる。【新保】
戦略論の中での人材の重要性が指 摘されるが、最終的には人が大切ということは頭で分かっていても、しっくりこない。自分の中で違和 感を覚えているのだが。【伊藤】

私もそれが分かるまで時間がかか った。理解にはそれが重要だと納得できる知識のほか、経験と対話が必要だろう。【新保】
一度、社長を交えて、議論したい 。社長は、「組織こそ経営だ」常々おっしゃっている。【原田】

A社においても中間層がいないと いわれるが、優秀な若手がいないわけではない。人を育てるのには時間がかかる。【中野】

「経験の学校」を提唱しているマ ッコールは、「ハイフライヤー」すなわち経営陣に飛躍する、光る人材には、試練の場を与えるべきだ といっている。経験を通じて、人は学ぶものだ。【新保】
昔、人事を担当しているころに、 優秀な人材の海外派遣の提言をしたが、うまく進まなかったことを思い出す。このことは今でもIBMなど は取り組んでいる。【中野】

「海外留学」というよりも、海外 でのトレーニング、あるいは海外人材との接点の場をたくさん増やすことも有効。本格的に始めてはど うか。始めること、そして続けることが重要。【新保】
自分の中で経営と戦略の間に線を 引いていたのかもしれない。戦略の視点から人材の問題は経営課題だ。【伊藤】

ミンツバーグは、経営と戦略を分 けてはいけないといっている。【新保】
経営、戦略、企画など言葉が悪いのではないか。最高位のコンセプトのようなイメージを与えるが、それだけではだめ。切り離してはだ めだ。【原田】

元ITTのCEOハロルド・ジェニーン は、著書『プロフェッショナル・マネージャ』のなかで、「経営者は経営しなくてはならぬ!」といっ ている。それだけ経営していない経営者が多いということ。同書は、ユニクロの柳井社長の愛読書でも ある。【新保】
4. 次回予定

2006年12月20日(水)8:30~  514会議室 講師:未定
5. 記録者(武藤)の感想
 今回題材となった『戦略のパラドックスを解く』は読んでないので、詳細は分 からないが、筆者が提唱する「マルチ・ストラテジック・コア組織」は、皆さんのご指摘のとおり、派遣スタッフが定着し上手く回るかが肝になるように感じた。企業文化の違いなどを考えると、どの企業 でも上手くいくものではないだろう。
 常務、本部長が参加されたことに加え、企業組織という題材であったことが呼び水となり、今 回はいつも以上に熱い議論が交わされたのではないだろうか。皆さんの会社に対する想いを感じ取る事 ができた。そして、経営は組織であり、人であるということ改めて考えさせられた。人材育成のためには、試練を与えなければならないという話があったが、私は試練に飛び込んでいく勇気があるだろうか 。逃げ出しそうだ。
以上






経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ