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イノベーション勉強会:第117回討議録

研究本_M&I勉強会(第117回)
「静かなリーダーシップ」討議録
(記録:武藤。その後、参加者による修正・加筆)

1. 日時、場所、参加者

日時、場所 2006年10月25日(水) 8:30~10:00 日本総合研究所514会議室

参加者 原田常務、磯内(コンサルティング営業部)、梅田(同)、新保(TMT戦略C)河 野(同)、倉沢(同)、浅川(同)、今井孝之(同)、吉田賢哉(同)、武藤(同、研修生)
2. 発表の概要
「静かなリーダーシップ」(TMT 戦略クラスター 吉田賢哉さん)
≪主な内容≫
近年のリーダーシップ論(『経営 革命大全』を基に整理)

偉大なリーダーとは?

リーダーとマネジャーの違い

リーダーシップの役割変化


経営戦略家⇒構想家


命令者⇒語り部


システム構築者⇒変革の促進者/ 奉仕者

リーダーは、個別の事象を超人的 な能力によって解決していくのではない。

リーダーはビジョンを提示し、行 動の規範を示し、率先してビジョンや規範を実践し、人々をその気にさせ、自発的な活動を促し、良い 結果へと導いていく。
ジョセフ・L・バダラッコによる 『静かなリーダーシップ』論

ヒットしない商品を集めればヒッ ト作に匹敵する市場が作れる。
ロングテール時代の姿:6つの特 徴

実践的な、真のリーダーとは、大 衆のヒーローではない。


広壮な理想を掲げた人、掲げようとする人ではない。


倫理的な使命感を持って周りを率 いている人ではない。

真のリーダーは、(バダラッコは 「静かなリーダー」と呼ぶ)


忍耐強くて慎重。


段階を経て行動する。


犠牲を出さない。


自分自身、周りの人々、自分の組 織にとって正しいことを考え、目立たず実践する。

静かなリーダーは穏健さと自制心 で、素晴らしい業績を成し遂げる。

劇的な名場面・英断によって問題 を解決するのではなく、大きな問題も小さな努力の積み重ねにより解決する。

静かなリーダーの特徴


「現実主義者」である。


物事には、複雑で様々な動機が存 在することを認識する。


良い結果を導くために、時間を稼 ぐ。


影響力をよく考え、賢く影響力を 活用する。


難しい問題を、具体的に考えて対 処する。


時に、規則を曲げる。


少しずつ徐々に行動範囲を広げる 。


妥協策を考える。

「自制」、「謙遜」、「粘り強さ 」を持つ。


自制



- 性急に意見や感情を表現せず、抑える。



- 難問を解決するためには、多くの場合、前提条件として自制が必要である。


謙遜



- 自分の知識や自分が各種の計画で 果たす役割に対して、本当に謙遜している。



- 勝利や成功といった発想に疑念を 抱き、価値あることが壮大に永続することはないと考える。


粘り強さ



- 慎重でありながらも、自分にとっ て重要な戦い・譲れない点について、最後までやり遂げる。



- 自制と謙遜というブレーキに対し て、問題解決の道を進むアクセルは粘り強さである。
考察

偉大な「ヒーロー型リーダー」に 対するアンチテーゼとして「静かなリーダー」を捉えることができる。

静かなリーダーシップは、『ビジ ョナリーカンパニー2』および特別編の「第五水準の経営者」にも通じる。

近年のリーダーシップ論の、実践 方法を提示したと考えられる。
3. 議論の内容
私の経験上、クライアントの経営 者には、地味な人が多い。「静かなリーダー」と対比される「ヒーロー型リーダー」とは、どんな人だ ろうか。カリスマ経営者は、マスコミが作り上げたリーダー像であり、組織の中では地味な人なのでは ないか。【河野】

確かに、メディアが経営者をカリスマ的に取り上げることで、ヒーロー型リーダー像が蔓延しているように思う。「ヒーロー型リーダー 」と「静かなリーダー」の違いには、ヒーロー型には、偶然あるいは突然経営課題を解決できた、その 人だからこそ解決できた、といったドラマティックな経験をしたという印象がある。静かなリーダーは 、偶然やその人個人の先天的な資質に課題の解決を求めていないように思う。【吉田】
『静かなリーダーシップ』には、 分析事例として、経営トップを挙げているのか、あるいは中間管理者を挙げているのか。【今井】

同書およびバダラッコの著書『決 定的瞬間の思考法』では、新人からトップマネジメントまで、すべての階層を取り上げ分析している。 結果として事例数は中間管理者が多くなっているように思う。どの階層にも当てはまる普遍的な法則を 模索したものだが、中間管理職によりフィットするかもしれない。【吉田】
同書の地道な多数の事例分析には 敬意を評したい。しかし、今回聞く限りで恐縮だが、厳しく言えば、実際のマネジメントに使えないよ うな気がする。使えなければ価値はない。P12で扱っている課題のレベルがばらばらで、どのような状況 下で実効性があるのだろうか。マクロ的なレベルあるいは本質的経営課題から、細かな社内プロセスに いたるまで、同じレベルで取り扱われている印象がある。【新保】

企業には、変革期の企業、安定期 の企業、それぞれの状況がある。理想のリーダー像は、目的によりさまざまで、1つに当てはめるのは難 しいだろう。【原田】

P4にある、「戦略分析を社員に説 明して、社員は本当に動くのか?」、「常に好業績を挙げる組織にするためには、戦略だけでは無理。 」という指摘は、まさにそのとおりで、クリステンセンは、成功のパターンによりこのことを法則化し ている。目標のレベル、「一時的な成功」、「持続的成功」、「全く新しい市場を作る革新的な成功」 によって、リーダーに求められる資質は異なる。特に破壊的な改革に成功した企業は数%しかない。【 新保】

ここでいう「静かなリーダー」は 、確かに「破壊的成功をもたらすリーダー」ではなく、持続的なリーダーであろう。ただしそれは、持 続的なリーダー自身は破壊的成功をその手で起こすことはないかもしれないということであり、持続的 リーダーの部下が破壊的成功をもたらすことはあるのではないか。【吉田】
企業の存亡は、経営者によらない と仮定するならば、経営者は広報タレント的存在として必要。投資家対策として、カリスマ的な広報タ レント的経営者は必要だが、本当に天才である必要はないかもしれない。人が求めるリーダー像と現実 の経営者本人は違うのではないか。X自動車会社のY氏は「静かなリーダー」に当てはまるだろうか。『 静かなリーダーシップ』は、カリスマ経営者が去った後の処方箋として理解できる。【倉沢】
企業組織の経営状況とともに、規 模によっても求められるリーダー像は、異なるかもしれない。【原田】

売り上げ数千万で粗利率7割の企 業と、売り上げ数千億で粗利率7割の企業を同列で比較はできない。マス生産の場合、営業などのコスト がかさみ、新しい成長企業へ容易にタッチできない。【新保】
近年プロ野球の世界で、バレンタ イン、ヒルマンなど外国人監督が活躍しているが、米国でリーダーシップの技術論を身に付けているか らではないか。ところで、バレンタインやヒルマンは、わが国の自動車会社の社長となりうるか。外国 人監督の成功要因は、人を動かすテクニック、効果的に語るテクニック、マネジメントのしくみなどを 身に付けているからだと思われる。日本では精神論的なチーム運営が中心だ。【原田】

国や環境、商習慣の違いもあるか もしれない。プロ野球に関しては、リーダーの役割変化の前段にあたる、戦略やスキルの面で米国のほ うが上ということも考えられる。日本の監督は、タレント性が重視されている一方で戦略面が十分に鍛 えられていないのではないか。【今井】

近年のリーダーシップでも、リー ダーが戦略を十分踏まえていることはやはり必要と考えている。その他の+αの部分も大いに必要であ るということで、そこにフォーカスされたリーダーシップ論が繰り広げられている。【吉田】

最近の広報タレント的なリーダー として、ブッシュ大統領、小泉元首相、ゴーン社長などが上げられる。ブッシュ大統領は国際政治、小 泉元首相は経済政策などでミスを犯した。ゴーン社長はコストカッターとして成功したが、中長期経営 の面で現在苦戦している。カリスマ性だけではなく、社内の資源(人材、技術など)をうまく活用して 、価値(売上高)を生むためにはプロセス(意匠デザインと設計とのつなぎ、製造・流通過程など)が 不可欠。そして、そのプロセスを社内関係者すべてがきちっと共有していないと駄目。この資源、プロ セスについて熟知していないと、リーダーは務まらない。【新保】
2つの観点で、カリスマ的タレン ト社長におけるリスクを述べたい。

1つは、知らず知らずのうちに、 トップに依存する体質ができてしまう危険性があること。タレント的リーダーと経営判断する機関・機 能の分離が上手くなされていれば持続的に発展できるかもしれないが、トップに依存すると、知らず知 らずのうちに組織が依存体質へと徐々に変化・劣化してしまうだろう。

もう1つは、内と外とのバランス の破綻をきたす恐れがあること。例えば、若い勢いのある企業が増収増益を続けると、「いけいけ」の マインドが組織に根付くことがある。従業員が若く、人件費が抑えられるうちは、「いけいけ」マイン ドで構わないが、年数を経て企業が大きくなってくると、成長は難しくなり、従業員の人件費も増えて くる。このような場合、カリスマ的タレント社長は対外的な「いけいけ」の象徴である反面、内部では 伸び悩み等の問題が発生し、内と外のギャップが発生してくる。この時、社長の象徴度が強ければ、ギ ャップ・組織の抱える問題の深刻度は増すのではないか。【以上、吉田】
『ビジョナリーカンパニー2』は 、いかに偉大な企業になるかがテーマで、持続している事例ではなく、短期的な事例が多いと記憶して いるが、変革しているときにも、「静かなリーダー」が必要だといっているのか。【今井】

そのとおりで、変革期にも静かな リーダーが活躍する場合があると思う。同書では、銀行の事例を挙げ、偉大な企業への転換点となった 時の社長が無名であることが語られている。【吉田】

P18の「第5水準の経営者」につい て。何度か破壊的なイノベーションができている企業の事例として指摘されているのは、世界中でHPと ソニーの2社だけ。HPは、インクジェットプリンターなどのイノベーションで2回、ソニーはなんと12回 も自ら破壊的イノベーションを繰り返している。これは、例外中の例外。ソニーの場合も盛田さんが経 営に中心的に携わっていたときだけ。変革期に上手く舵取りできるリーダーが求められる。野中郁次郎 さんらは、MBAホルダーが多数ソニーへ入社し、現場主義や直感で感じ取る能力を大事にする社風が薄く なってきて、ソニーがおかしくなったと指摘している。【新保】
リーダーとして優秀な人は、人格 も素晴らしいのか。例えば、松下幸之助は人格も持ち合わせたリーダーとして定評があるが、ジャック ・ウェルチは、経営手腕は評価されているが、人間として好かれていない。徳川家康や川上哲治は、名 将として知られるが、付き合いたくないと評価する人もいる。上司にしたくないと思わせる人が優れた リーダーかもしれない。【原田】

松下の中村会長は、ゴーン社長と 対比的だ、マスコミ受けしない、暗い、というように世間では言われている。しかし、中村社長(当時 )の改革プロセスにより松下はよみがえった。確かに、テレビのインタビューにこたえる中村社長(当 時)の語り口は、上手とは言えない印象を与える。反面、その様子が誠実な印象を与えるのも事実だろ う。【新保】

必ずしも人格とリーダーシップは 、一致しないと思う。日本では、人格とリーダーシップを同一視する風潮が強いが、一致しないと考え たほうが理解しやすい。【今井】

クリステンセンは、リーダーシッ プに人格を問わない。コスト構造が決まると、製品やプロセスの内容やレベルがほぼ決まる。組織とし て学習し、知見が蓄積されれば、経営は持続すると言う。イノベーションの成功には、必ずしも「人格 者であるリーダー」が不可欠ではなく、むしろ資源、プロセス、価値基準で決まってしまうことを強調 している。【新保】

歴史的、儒教的影響だろうか、日 本のリーダーはとかく人格を問われがちだと思う。例えば、リーダーとしてあまり語られないが、日本 の古くのビジネスの大御所である、三井の創設者はどのような人格的だったのだろうか、といったこと も興味深い。【吉田】
堀田さん(住友銀行も元頭取)の 経営は、どうだろうか。当時は、住友が通ったあとは、ぺんぺん草も生えないとまで言われたが、今思 えば、利益を追求する姿勢は当たり前。相対的価値判断に踊らされず、本質を追求したがゆえに誤解を 受けることもあった。【新保】
「人格≠リーダー」というのは、 理解しやすい。企業がつぶれたら、元も子もない。しかし、個人的には「人格=リーダー」であってほ しい。リーダーの指導環境によりイノベーションが創発されるという書籍を読んだ事がある。当然、製 品や産業によって、求められるリーダー像も変わるだろう。【浅川】
ビジョンの元に従業員を集結させ るためには人格が重要な時が多いが、必須ではない。経営するスキルに大きく頼っての方法もありうる 。【吉田】
“To Be(なるべき姿)”を示す リーダーと、“To Do(やるべきこと)”を示すリーダーがいる。信長のような“To Be”型のリーダー は、誰しもがなれるものではない。もちろん、いろんなタイプのリーダーがいてよいだろうが、『静か なリーダーシップ』にあるようなリーダーに、私は個人的についていけないと思う。個人的に理想とす るリーダー像に必要な条件を満たしていない。日本にはそぐわないかもしれない。米国では、戦略論あ っての実践論。【磯内】
プロ野球の場合、1年の間に結果 を出さなければならないし、メンバーも流動的だ。短期的マネジメント能力が要求される。テクニカル な米国的マネジメントが有効だろう。一方、古田のような生え抜きの監督は長期的視点でマネジメント を行う。落合は、後者。リーダー論的視点でも日本シリーズを注目したい。【浅川】
磯内さんがリーダーになるとき、 どのようなタイプのリーダーを目指すのか。【吉田】

今、自分がリーダーになろうとか 考えているわけではない。どちらかといえば、コンサルティングするのであれば、どういう経営者と仕 事をしたいかという話。【磯内】

バダラッコは、ビジネスに関わる 人間のキャリアの観点から研究をしており、カリスマになれない人のリーダー像を模索している。【吉 田】
コンサルティングの仕事をしてい れば別だろうが、花王の社長といって、名前が浮かぶ一般の人は少ないだろう。社長の名前が前に出な い会社は、意外と良い会社かもしれない。【原田】

4. 勉強会終了後のメールでのやりとり(原田常務→参加者全員)
今朝の勉強会で、最近眼にした書 評に触れましたが、思い出しました。

10月23日号の日経ビジネスで紹介 されている、ジョン・マクスウェル著『あなたがリーダーに生まれ変わるとき』(ダイヤモンド社)で す。

これによれば「リーダーシップと 銘打った書物は・・その殆どはマネジメント(組織の職務や目的が徹底されていることを確認するプロ セス)について書かれたもの・・・マネジメントを学ぶだけでは”リーダーシップのあるマネジャーに はなれない・・・リーダーシップとは・・ビジョンを生み出し、周りの人達に仕事に取り組む意欲を持 たせるものと定義・・すなわち他者への影響力・・・地位を第一レベルと認識し、相互理解、成果、人 材育成、人間性までの各ステージをクリアできてこそ真のリーダーになれる」とのこと。

著者は「米国の企業や軍、プロス ポーツ機構などでリーダー養成のための講演や研修を数多く行っている」人のようですので今朝の議論 とは次元が違うのかもしれませんが、リーダーシップを考える際には、組織論・組織運営と、人として のリーダー論を分けて整理する必要があるかも知れませんね。
5. 次回予定

2006年11月8日(水)8:30~  514会議室 講師:未定
6. 記録者(武藤)の感想
 今回の勉強会では、プロ野球の監督論から、個人的に理想とするリーダー像に ついてまで、幅広く意見が出て非常に面白かった。ちなみに、私が好きなのは王貞治監督。「自制」、 「謙遜」、「粘り強さ」を持つ点では、「静かなリーダー」だろうか。偉大な「ヒーロー型リーダー」 に対するアンチテーゼとして「静かなリーダー」を位置づけていたが、一方、長島さんや新庄選手のよ うに、たぶんどうがんばっても「静かなリーダー」になれない、生まれつきの「ヒーロー型」の人もい る。この人たちにリーダー論は不要なのだろうか。
以上






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