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イノベーション勉強会:第114回討議録

研究本_M&I勉強会(第114回)
「ILM①~同質競争によるイノベーションの非連続性の克服」討議録
(記録:武藤。その後、参加者による修正・加筆)

1. 日時、場所、参加者

日時、場所 2006年9月13日(水) 8:30~10:30 日本総合研究所514会議室

参加者 原田常務、梅田(コンサルティング営業部)、伊藤史(ビジネス戦略デザイン、競争戦略)、新保(TMT戦略)、倉沢(同)、浅川(同)、今井孝之(同)、武藤(同、研修生)
2. 発表の概要
「ILM①~同質競争によるイノベーションの非連続性の克服」(TMT戦略クラスター 浅川秀之さん)
≪主な内容≫
イノベーションの非連続性(イノベーションのジレンマ)を克服するためには、イノベーションの不確実性に対応したマネジメントが必要である。

「研究はコストであり、また投資なのだ。絶対確実の成果を上げるどころか、きわめて投機的で、きわめて不確実な取組みであり、成果を生むためには最大限のマネジメント能力を要する」ピーター・F・ドラッガー(1963年論文から)。

日本は、技術自体の研究開発は世界トップクラスだが、その技術をうまくビジネス、さらには国力へつなげるための戦略がない。

R&Dの不確実性に対応するため、当該技術の価値を継続的にモニタリングし、その結果を反映する仕組みが必要である。
新宅純二郎『日本企業の競争戦略』(1994年、有斐閣)を基に、米国と日本のカラーテレビ産業で起こった、真空管からトランジスタへのイノベーションについての事例紹介。

当時の日米両カラーテレビ市場における競争環境は異なっており、米国では異質競争状況(MBA的戦略、差別化競争、高い市場成熟度、個人主義的文化)、日本では同質競争状況(家電小売店の系列化、脅迫観念による企業間の追従競争、低い市場成熟度、みんなと同じもの的精神文化による市場の形成)にあった。この競争環境の違いが、新しいイノベーションへの移行に影響(トランジスタ技術への円滑な移行による日米カラーテレビ市場のシェア逆転)したのではないか。

イノベーションのライフサイクルに従って、同質競争と異質競争が、繰り返し連続的に出現するのではないか。また、イノベーションのライフサイクルに応じた、同質競争戦略と異質競争戦略の使い分けを念頭に入れ、マネジメントに反映させる必要があろう。

現在のディスプレイ業界は(液晶、プラズマ技術による)同質競争下にあり、何れ異質競争への転換が始まるはずである。その際、企業には当該産業を大局的に捕らえて中長期的な判断と指揮が下せるマネジメントグループが必要である。また、“有機ELディスプレイ”などの事例が示すように、企業レベルでのイノベーションは非常に難しいため、国策として何らかの支援が必要ではないか。

3. 議論の内容

フェーズの再確認をしたい。S字の乗り換えのとき(揺籃期)に同質競争が起こり、拡大期~成熟期に異質競争が起こるということで良いか。【今井】
ケーススタディの事例が悪いのではないか。文化の差など外部要因が多すぎる。【倉沢】
現在、メーカーは巨額の研究開発費を投資しており、今後も研究開発費は増加する傾向にある。そのため、経営者は、研究開発投資の評価方法に苦慮している。「えいやあ、でやるしかない」といっている、研究開発分野の専門の研究員もいる。【原田】
新宅氏(東大教授)のモデル化は、当時は斬新であっても、今となっては単純化しすぎており、モデルの背景を知らない読者においては、ミスリーディングしかねない事例になってしまっているかも知れない。もちろん仮設やモデルとは、新宅氏やクリステンセンのような努力と成果が世に現れるので発展する。そのアクティビティそのものには敬意が払われるべきである。そして、「単純化」を通じた物事の分析は、本質に迫ろうという行為でもあり、それが頭ごなしに否定されるものではない。クリステンセンのモデルにしろ、「単純化」は時に大変力強いものとなる。

RCAはラジオメーカーで真空管技術において、①当時、最先端レベルにあり、その時の最高と考えていた資産を手放したくなかったこと、一方、②ベンチャー(駆け出し)であったソニーの盛田氏が、大きなビジネスにはならないと米国企業が考えていたトランジスタ技術の特許を、幸いにも大変安価に買い取ることができたことなど、他に考慮すべき要因が多い。

P.18の競争戦略を「価格と機能の2軸」で分析している図のうち、特に機能を軸にとっているのが、ミスリーディングの根本なのではないか。コモディティ化が進むとたいていの製品は同図の右上(高価格・高機能)にはとどまれず、左下(低価格・低機能)でないと生き残れない。

ゼロックス(1台の高機能マシン)と日本のコピー機メーカー(個別の用途に最適化された複数のラインナップ製品)の競争事例がそれを示している。P.14で説明されている企業間競争は、いわゆる「模倣戦略」であり、ベンチャー市場では有効な戦略である。模倣戦略の典型的企業はIBMであり、松下も「マネシタ」といわれるほど同戦略に長けている。同戦略が見劣りするものだということでは決してない。両社ともマネジメント能力に強みを持つ。

また、製品の特性も考慮すべきで、価格弾力性が高いハイテク製品(半導体やディスプレイなど)と、価格弾力性が低い食品などの消費財(必需品)について、同じ扱いでの議論はできない。

ドイツ証券のアナリスト佐藤文昭氏は、日本の大手電機メーカーについて、ひとつのマーケットにプレーヤが多すぎて国際競争力がおちていると指摘し、韓国のように企業合併することを著書の中で述べている。そのイメージは、例えば、HHI(ハーフィンダール・ハーシュマン指数)で、5,000~10,000(1市場2社)程度を目指した方が良いといったところだろう。【以上、新保】
事例紹介が単純すぎるという指摘は同感であるが、米国が技術の乗り換えに遅れたのは、業界内での競争状況の影響であるという点は納得できる。【浅川】

P.19の国策について、真空管からトランジスタへの移行のアナロジーで国の支援があったわけではない。60年代の日本で起きた3種の神器(テレビ、洗濯機、冷蔵庫)の爆発的な普及の例でも、社会的な外部環境や社会のニーズ(家事の大幅な省力化)、さらには消費者の「認識の変化」の影響が大きい。【新保/倉沢】
技術の波乗りのマネジメントがうまい人は、ある意味ギャンブラーであり、マネジメントの天才でもある。ソニーのトランジスタ製品への移行や電通のテレビ広告への移行がその事例である。【倉沢】

電通の事例は詳しくないが、ソニーの井深氏、盛田氏は、市場や技術に対する洞察力が深く、システマティックかつプロフェッショナルなマネジメントを行う卓越した経営者だった。ドラッガーが『イノベーションと起業家精神』で述べている通り、リスクは極力小さくできる。そのためには、狭義の研究開発マネジメントだけではなく、経営全体の中で研究開発をとらえる幅広いマネジメントが必要になる。【新保】
OEMと国の政策についてはどうか。液晶のシャープなどのように国を代表するOEM企業を国策として育てるのはどうか。【倉沢】

OEMには、市場の成熟とモジュール化が必要で揺籃期(同質競争時期)には行われにくい。【浅川】

OEMとは、自社の市場シェアを競合他社に奪われないために、自社ブランドで常に市場を「自社商品」で埋め尽くすような働き(ねらい)がある。【新保】

池田信夫氏が指摘する第5世代コンピュータの事例(通産省の産業政策の失敗)に示されるように、企業は最先端技術の公開を拒むため、R&Dへの安易な国費投入は、投入した税金に見合った効果を得られない危険性を伴う。一旦始動すると止めることもできない。

また、R&Dの価値を計算するのは難しく、価値の最大化(絶対額)をねらうのではなく、ポイントは市場シェア(絶対値)の最大化をねらうこと。すなわち「ニッチ戦略」が向いているケースは少なくない。

また、研究開発者は、私も研究開発をやっていた技術者上がりであるが、極端な話、「売れなくてもよい。自分が技術的に満足のいくものであればよい。」といった技術至上主義にいまだ囚われている場合があるのではないか。全体的な(トータルウォー的)視点を見落としがちである。【以上、新保】
企業の研究開発者は、経営やマネジメントへの興味が希薄なのではないか。【倉沢】

研究者は、製品開発に興味が無い(売れるものを作りたがらない)。「売れるものは技術的にレベルが低い。給料は空から降ってくる。」的な考え方が強い。【浅川】
業務で、ある研究員とともに米国発の技術開発のための最先端メソッドに携わっており、今回の勉強会は経営者と話すときのヒントになった。マネジメントの重要性を感じた。【梅田】

同メソッドは営業ツールとして有効だと思う。このツールに加え、他社との差別化要素をJRIとしてより鮮明に出すことが重要。そのためには研究開発を、個別の事案や事象にフォーカスする分析的、戦略的なものに留めないことだ。すなわち、単機能としての「研究開発マネジメント」ではなく、研究開発を「包括的な全社マネジメント」の中で捉えるべきではないか。その中で同メソッドを位置付けると、もっと活きてくるだろう。【新保】
どうやったら正しく新しい技術へ移れるのか、新技術の選別か悩ましい。同質競争をしている各社が同じ新技術への移行をめざし、同時に失敗したら、集団自殺になりかねない。【伊藤】

ドラッガーは60年代からイノベーションについて書いており、今読み返しても新鮮で参考になることが多い。彼は新宅氏のような経歴とは異なり、生きた現場を知るコンサルタント出身であり、執筆に際してその経験が生かされているのではないかと思う。【新保】
4. 次回予定

2006年9月27日(水)8:30~ 514会議室 担当:今井孝之さん
5. 記録者(武藤)の感想
 はじめて、M&I勉強会に参加させていただいたが、議論のレベルの高さと内容の濃さに驚かされた。これだけ短時間に行われる質の高い議論は、今までほとんど経験が無かった。また、本勉強会が114回にも渡り継続されていることも驚きであり、その蓄積が研究員のレベルアップに繋がっていることも実感した。

 イノベーションについて、まったく知識が無いまま望んだ私は、浅川さんが解説する、新宅氏の「異質競争」と「同質競争」のモデルは、シンプルでとてもわかりやすく感じた。しかし、議論の中で、皆さんがその問題点を次々と指摘するのを聞き、皆さんの見識の高さに驚くとともに、質の高い議論を行うことの大切さと、他者の意見や論文をそのまま受け入れるのではなく、さまざまな角度から検証し賛否両面から検討することは大変有意義なことだと実感した。私にとっては、ハイレベルな議論でその内容を追っていくことがやっとであったが、クリステンセンとP・F・ドラッガーの話、3種の神器の議論、ソニーや電通、ゼロックスの事例との比較など、大変興味深いものだった。

 また、「研究者がマネジメントに興味を持っていないのではないか」という議論には、個人的に思い当たることもあり、日本の製造業において、経営的観点からの研究開発マネジメントが重要であると感じた。これらのテーマは、大変興味深いテーマであるとともに、研修後必ず役に立つと思われるので、関連書籍を読むなどして、勉強を進めて行きたいと思う。
以上
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