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コラム「研究員のココロ」

「真の業務改革のために」
~コンサルティングとコーチング~

2007年01月22日 久道 雅基


 「今回のプロジェクトは、どちらかというとコーチングに近いですね」、ある一部上場企業の取締役からの言葉です。業務改革を指導する立場となって16年経過し、現在まで、様々な分野の業務改革の現場に立ち会う機会に恵まれてきました。ここ数年、自らのコンサルティングのスタイルを変革した結果、前述のような評価を頂いたのです。これこそ、今の自分にとって一番のほめ言葉であると感じるのです。

 コンサルティングという仕事は、外部から見ると、「理論を振りかざしそれを押しつける」というイメージがなきにしもあらず、です。もし仮に、改革が成功しない場合には、「クライアントにそれを実行するだけの能力がなかったためであり、提案内容は悪くない」とコンサルタント側が開き直る場合さえあります。果たしてコンサルタント側には落ち度はないのでしょうか?
 これは何も、外部のコンサルタントを起用した時だけに起きることではありません。社内メンバーだけで業務改革プロジェクトを立ち上げ、推進していく場合にも当てはまります。これから実際にあたらしい業務を遂行していく社員が「なるほど確かにこの新しいやり方が、今のやり方より良さそうだ」と思わない限り上手く定着できないのです。ここに、業務改革成功のためのヒントがあります。

 改革プロジェクトの推進方法は大きく二通りあります。早期に対象部門の全社員を巻き込んで、一人一人に問題点や課題を考えさせ、解決策を検討させることによって全員のモチベーションを高めながら、新たな方法を実行させていく進め方です。新たな問題が起こった場合には、これを繰り返していきます。もう一つの推進方法は、強固な新業務が確立するまでは、限定メンバーで徹底的に議論し、新業務を設計するのです。業務設計が完了し、経営陣から承認を受けて初めて現場に展開するという方法です。
 筆者の最近のプロジェクト推進方法は後者です。しかも、出来る限り短期間に現状分析・新業務設計を行うというものです。役員や業務のキーマンを10名から15名ほどプロジェクトメンバーに選定してもらった上で、このメンバーと徹底的に議論していきます。プロジェクトによりますが、最短で2ヶ月から長くても6ヶ月程度で、新業務の本番稼働準備まで一気に進めていくのです。その間はかなり密度濃くメンバーと議論していきます。
 プロジェクトの初期段階で、まず、「あるべき姿(To Be Model)」を全員で定義・共有した上で、現在の業務上あるいは制度上の何を変えるべきかということを洗い出します。加えて現状の様々な外部・内部要因を考慮しながらどう適合させていくべきかを議論するのです。キーマンであるメンバー全員が納得しきれないような新業務では現場に展開してもまず上手くいかないのは当然です。
ここで、“短期間に密度濃く”ということが大事です。今まで、プロジェクトメンバーが専任メンバーとして参加したケースはまれで、ほとんどが兼任メンバーでした。従って、プロジェクトの検討ミーティングを終えると現業に戻るのです。これが曲者なのです。
 あるプロジェクトで実際に次のようなことが起きました。業務設計をほぼ完了し宿題として検討事項をいくつかお願いした後、10日後に再訪し検討内容をレビューしたのですが、ものの見事に現在のやり方に引っ張られ、新しい考え方が消えていたのです。人間というものは、きちんと自分の中に強固な新しい価値基準(Criteria)が確立できる前に、従来の情報が強く入ってくると、そちらに流されてしまいます。「今までやってきたこと」は居心地がいいものです。当然のことです。

 “改革”を進めていくためには、プロジェクトメンバー自身が絶対の自信・確信をもって、これがベストだと思えるまで徹底的に考え抜くことが重要なのです。だからこそ、この方法の場合には、彼らが悩んだときにいつでも議論し、指針が提示できる関係が必要なのです。月に1~2日程度の“指導会”では軌道修正も出来ないばかりか、適切なタイミングで悩みに応えることも難しくなるのです。
ただし、いつもすぐ答えを出すことをしません。自ら考えるということが重要なのです。筆者はプロジェクトメンバー同士が議論したり、宿題(分析や設計)を行ったりしている間に意識的に席を外すことが多いのです。意見が対立したときに自分たちで考えずにすぐに答えを求めてくるからです。自分たちだけでは解消できない対立や議論は、日に2~3回開催する定例ミーティングで、こちらがファシリテーターとなって議論を誘導するのです。
 副次的な効果も意外と大きいのです。席を外している間に、社員用のリフレッシュルームにいることがあります。ここに、メンバーがそっと相談に来るのです。「ミーティングの席上では上級の役職者の意見を否定しづらいが、実はこんな問題や悩みがある」といったものです。また、社員同士が「現在の業務上の問題点・疑問」などを話し合っているのを耳にすることも多いのです。これらの情報全てが、業務改革設計のインプットになります。実際に、その情報を元に、業務設計の変更を行ったこともあるのです。

 このように、プロジェクトメンバー自らが徹底的に考え抜き納得しながら設計すると、新しい業務の仕組みは有効に機能するばかりではなく、外部・内部環境変化による業務の見直しが必要だと判断された際には、プロジェクトメンバー自身の手によって(外部のコンサルタントに頼ることなく)再設計を行うことができるようになるのです。コーチングスタイルのコンサルティングによって「改革の方法論をメンバーに定着させる」ということが出来てこそ、真の業務改革が実現できると考えます。また、これこそが筆者の目指すプロジェクト完了後の姿です。
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