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日本総研ニュースレター 2010年9月号

アジアのエコシティー開発で日本のカイゼン思想を発揮せよ

2010年09月01日 赤石和幸


新成長戦略で注目される環境都市
 6月に発表された新成長戦略において、「グリーンイノベーションによる環境・エネルギー大国戦略」と「アジア経済戦略」が、それぞれ7つの戦略分野の一つとして位置づけられた。強みを生かせる環境・エネルギー技術をもって、アジア市場でのポジションを確保していくことは、新成長戦略の成否に重要な意味を持つことになった。
 アジア市場で注目されるのが環境都市(エコシティー、生態城)開発である。アジアでは年間で約1000万人規模の都市部への人口流入があるため、受け皿となる居住拠点や工業団地などの整備に迫られている。一方で、それらを持続可能とさせるために、エネルギーや交通、水といった基礎インフラは、資源を循環させ、環境負荷を低くさせる形での整備が欠かせない。つまり、新しい都市は環境都市である必要があり、その整備には最新の環境技術が必要となる。

官民連携強化による売り込み
 アジアで環境都市が最も多く計画されているのは中国である。政治的な支援や豊富な資金を背景とした都市計画が次々と発表され、その数は既に150地域を超えている。
 中国の環境都市の目標は高く、開発速度も非常に速い。例えば中新天津生態城では、地域内の再生可能エネルギー比率を20%以上とするなどの高水準の都市整備を、10年以内に完成させようとしている。これは売り込む側にとって、最先端技術の即実践投入が求められることを意味しており、ハイテクを誇る日本企業には有利な材料といえよう。
 さらに日本では既に官民を挙げ、新興国政府との政府間対話を中心とした上流からのアプローチやその受け皿となる企業コンソーシアム作りを急いでいる。経済産業省は約400社と「スマートコミュニティー・アライアンス」を組成し、国土交通省も「環境共生型都市開発の海外展開に向けた研究会」を立ち上げ、中国を中心とした市場創出や、日本企業を中心とした規格作りを図ろうとしている。

海外企業は一括受注
 しかし、ハイテクと官民連携だけで仕事が取れるほど世界の競合国の動きは鈍くない。中国・瀋陽ではIBMがスマートプラネット構想を軸としたエネルギー、交通、水マネジメントの実証試験を開始しており、インドのデリー・ムンバイでは、GEがエネルギー、交通インフラのマスタープラン作りから関与している。また、フランスのベオリアはインドネシアで都市の水マネジメントを一括で請け負う基本合意を得ている。海外企業は、都市のコンセプトや事業提案という上流からアプローチし、そこに自らの技術を当てはめていく方式で、プロジェクトを一括して受注することに成功している。

ハイテクよりもカイゼン思想を売り込め
 高い技術力は日本の強みであるが、諸外国の技術力の向上も著しく、いつまでも優位なポジションを確保できる保証はない。また、全体から見ればハイテク自体はパーツに過ぎず、最もうまみのある一括受注の武器とはなりにくい。
 実はハイテク以上に日本が誇るべきなのは、インテグレートされた都市機能を向上させ続けるカイゼンの力にある。例えば北京西駅の乗降客は1日約15万人に過ぎないが、常に混乱している。しかし東京駅では、1日400万人もの乗降客を鉄道、地下鉄、バスなどを組み合わせながら秒単位で処理する。一方で、高架化や路線の新規乗り入れ、そして乗降客の快適施設などに至る多くのカイゼンを、膨大な交通機能を損なわずに当たり前のように実現している。
 これらのカイゼン活動は、高度な施工技術などのハイテクだけではなく、動線の見直し、看板やサイン変更、駅ナカのサービス向上といった多様かつ地道な作業の集積である。エネルギーや水分野でも同様のことが言える。東京の都市機能は、短期間で構築されたものではなく、長い年月にわたるカイゼンの積み重ねの結果といえるものである。こうした公共サービスを止めることなく、カイゼンの繰り返しで都市機能を向上させるノウハウは、日本が誇るべき強みなのだ。
 アジアの環境都市作りは、基本的に人口ゼロからスタートするため、都市の成長に合わせて、多様な都市機能を向上させる必要がある。つまり環境都市の実現と持続的な発展には、日本が持つカイゼン思想は大いに必要とされるはずである。日本もハイテクだけではなく、都市を高度に機能させ続ける思想そのものを、都市が成長する時間軸に合わせて売り込むことを考えてはどうだろうか。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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