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日本総研ニュースレター 2013年3月号

コモディティ化の波は新興国との「共闘」で乗り越えろ

2013年03月01日 赤石和幸


小規模な再エネ施設で求められる一層の費用対効果
 再生可能エネルギーの買取制度の活用を見込み、メガソーラーや大規模なウインドファームの導入が各地で盛んだ。しかし、国内ではそれらの適地が限られるため、やがて地熱、小水力、バイオなどによる小規模開発がメインとなるはずだ。ただし、大規模設備に比べ発電効率が落ちる小規模再エネ設備には、一層の費用対効果が求められる。つまり、今後の再生可能エネルギー普及の鍵は、数百kWから1,2MW程度までの小規模な再エネ設備による分散型システムをいかに経済的に構築するかが握るといえる。
 例えば、複数の小規模分散型システム網が構築されれば、インターネットによる効率的な制御ネットワークの活用が期待できる。そうなると、末端の設備には高度な制御機能が必要なくなる部分が生まれ、そこに中国をはじめとした新興国のコモディティ品を使えば大幅なコストダウンが可能だ。

中国製バイオ発電装置には、日本製の精製装置が不可欠
 ただし、中心となる装置の性能を充分引き出すには、蒸気、流入水やガスなどのインプット性状の安定化が必要だ。例えば、バイオ発電の場合、バイオガスにはメタン以外に硫化水素や二酸化炭素などの不純物が含まれており、そのままでは中国製装置は基本的な性能さえ発揮できない。しかし、日本製の精製装置で不純物を除去してインプット性状を安定化させれば、中国製装置でも実用可能であり、全体で2~3割程度のコストダウンが見込める。この組み合わせのシステムが確立すれば、小規模再エネ設備の導入に弾みがつくだろう。

新興国のインテリジェンスを取り込みイノベーションを
 ただし製品のコモディティ化は、高付加価値が生命線の日本企業には厳しい流れだ。しかし一方で、新興国との「共闘」による成長を目指す方法も存在する。
 GEやP&Gなどのグローバル企業は、まだ新興国市場が小さかった90年代、自国で開発した製品を新興国用にカスタマイズして販売してきた。しかし、市場が急拡大してからは、現地のニーズと予算に最適な製品開発を行うため、人材、資金、権限などを現地の特別組織に移し、製造ノウハウやパテントなどを彼らに使わせつつ、初期段階からの開発を行っている。
 この方法は、特に現地向けの低価格品の開発で効果的だ。また、新興国において開発した製品は、他の新興国への横展開、そしてこれからその国のレベルに追い付いてくる国々への将来の展開が行いやすい。世界銀行の推計によると、例えばアフリカのGDPは数年のうちに今のインドを追い越し、そしてインドはいずれ現在の中国やASEANに並ぶ。このような新興国の発展の時流に乗せることは、今後のグローバル展開の要となるはずだ。
 さらに、新興国市場の製品が、先進国のニーズを顕在化させることもある。もともと新興国向けだった製品が、開発・販売後に改良が加わり、先進国で展開されるケースも現れるようになったのだ。従来よりも低価格に抑えた、GEのポータブル超音波診断装置はその一つだ。医療機関が少なく、移動型の医療に頼る途上国では、ポータブル型の装置への強いニーズがあるために開発された。一方、先進国では、医療機関が充実していることから据え置き型で十分とされ、その必要性は顕在化してこなかった。結局、価格と使い勝手のよさが受け、今では先進国の救急の現場や緊急医療室での活用といった新しい使われ方がされるようになったが、これは製品がニーズを顕在化させた典型といえるだろう。
 日本企業も、新興国のインテリジェンスを取り込む現地組織を設立し、日本の技術と新興国ならではの事情と価格を重視する視点との組み合わせによるイノベーションに取り組み始めるべきではないか。
 小型再エネ設備は、経済的な観点から事業が成立しにくい一方で、経済的な製品が開発されれば市場が顕在化される可能性が高い。再エネ事業はこれからのグローバル展開が期待できる重要な分野であり、新興国のインテリジェンスを取り込んだ共闘を推進し、大きなイノベーションを狙うべきだ。
 なお、「共闘」とはいえ、我々が新興国側から捨てられる危険性は常に存在する。共闘を続けながらも、彼らのインテリジェンスを学び取り、いずれ単独でグローバル展開できる開発力を身に付ける努力は欠かせない。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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