日本総研ニュースレター 2013年4月号
LABV(官民協働開発事業体)で複合的な公有地開発を
2013年04月01日
中心市街地の空洞化と進まない対策
人口減少が進み、また、人々のライフスタイルが大きく変化するなか、これらに対応できないわが国の多くの中心市街地は空洞化に苦しむようになった。
これまで、インフラや公共施設の整備は自治体が行い、また、民間事業者は、自治体の都市計画の用途指定に従って商業施設をはじめとした自らの収益施設を整備するなどして中心市街地の再生に取り組んできた。しかし、この手法には民間事業者に開発義務がないため、景気悪化の影響などで開発が遅延、中止しかねない欠点がある。民間収益施設の開発が進まないと人々が集まらず、地域活性化も進まない。また、自治体主導で開発を行おうにも、資金不足や開発ノウハウの欠如といった課題があった。
LABVで財政負担低減と確実な施設整備を両立
一方、官民連携の先進国である英国では、自治体が公有地を、民間事業者が資金と開発ノウハウをそれぞれ出し合う形の地域開発が始まっている。公有地の資産価値を後ろ盾として開発資金を調達する“LABV”(Local Asset Backed Vehicle)と呼ぶ手法では、自治体が公有地を現物出資、民間事業者が土地価格に相当する資金を出資して作った事業体が公共施設と民間収益施設を複合的に整備する。PFIの対象が特定の公共施設に限られるのに対し、LABVでは複数の公有地に商業施設やオフィスビルなどの民間収益施設も組み合わせた開発やマネジメントまで行う。
自治体にとってLABVの魅力は、財政の負担を大幅に減らしながらも、景気に左右されず、確実に開発を行える点だ。LABVでは、自治体の財政負担は原則的に公有地の現物出資だけにとどまるうえ、パートナーとなる民間事業者は、公共施設や民間収益施設を、契約時に合意した地域ビジョンや施設整備計画に沿って整備する義務を負うからだ。
一方、民間事業者側のメリットは、長期間ほぼ独占的に公有地の開発事業に関与できることにある。また、民間事業者は地域のニーズやポテンシャルに合わせて「公共施設」「公共施設+民間収益施設」と、事業採算性が高まる最適な開発を提案できる。さらに、事業体に自治体が出資することで、開発事業に対する信用が高まるため、資金調達の円滑化も期待できる。
英国で、地域再生手段としてLABVを大々的に採用したのは、ロンドン市中心部から電車で約20分に位置するクロイドン特別区だ。繁栄していた1960年代から徐々に経済的地位を低下させている同区の中心市街地は、民間事業者による開発も一向に進まず、空きテナントが目立つ。
しかし2008年にLABVを導入してからというもの、その中心市街地には公営のレクリエーションセンターや公的住宅などの整備が次々と進む。特別区の新庁舎の完成予定も2013年5月と間近だ。今後も残りの公有地を活用した民間住宅整備などが計画されており、28年間で総額4億5,000万ポンド(約630億円。1ポンド140円で換算)のビッグプロジェクトとなることが見込まれる。民間事業者による開発が停滞していた過去10年間では考えられなかった光景だ。財政負担の少ないLABVの活用が奏功しつつある例といえるだろう。クロイドン特別区では、この事業展開が軌道に乗れば、開発対象の公有地をさらに追加する予定という。
地域再生の有力な手段として検討を始めるべき
潜在的な活性化の可能性はあっても、民間から自主的な意欲が高まらず開発が進まないという、クロイドン特別区が抱えていた課題は、わが国における、老朽化が進む郊外都市や空洞化が進む地方中心都市の悩みそのものだ。クロイドン特別区が再生しようとする姿は、それらの都市にとっても大いに参考になると考えられる。
ただし、LABVは万能の手法ではない。そもそも開発に適した公有地を提供できなければ民間開発事業者の参入意欲は上がらない。また、長期にわたる官民連携を保証する必要があるため、政治動向に極端に左右されない意思決定の仕組みの事前整備が必要となる。実際、英国では自治体の政策変更で解散に追い込まれた事業も存在する。
それでも、官のビジョンと公有地、民の開発ノウハウ・資金力を結集した融合させるLABVが、公的および民間事業を総合的に実施する手法として、地域再生のけん引役を担う期待は大きい。クロイドン特別区などの動向を見極めながら、わが国自治体の地域再生手段の一つとして検討していくべきではないか。
※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません