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カーボンフットプリントの制度検討がはじまります

2008年05月09日 青山光彦


 経済産業省が小売民間企業と連携をし、商品にCO2排出量を表示する制度の普及に向けた取組が始まります。これは商品のライフサイクル全体で発生するCO2の排出量を商品に表示する制度です。
 この制度は、企業に地球温暖化対策を促し、最終的には、製造工程を含めた商品のライフサイクル全体でのCO2排出量を減らすよう企業努力の促進がねらいとされています。
 この制度の肝はなんといっても、具体的な排出量の第三者機関による認証といえます。数値の信頼性が損なわれれば、「産地偽装」ならぬ「二酸化炭素偽装」の問題につながるからです。まずは、こうした認証機関のプラットフォームの構築が必須といえるでしょう。

 この制度を採用する企業は、CSRの観点から企業の取組姿勢を消費者へアピールでき、環境配慮に取り組む企業としてのブランドイメージの向上につながる効果が期待できます。
 一方で、表示するスペースが確保できるのかといった商品の形状特性に依存する問題や、商品の製造及び輸送時に発生するCO2に着目すると、フェアトレード問題、南北問題の視点からこの制度との親和性に課題があるなど、商品の流通特性に絡む問題もあります。また、そもそも、このようなラベリング制度による消費者向けの情報過多が、消費者の判断能力の低下を引き起こし、結果的には、消費者による選択的購買意欲の向上や消費の差別化につながらない可能性もあります。このため、制度構築に向けては、商品特性を十分に検証することが求められます。

 実際にこの制度が運用されるとどのようなことが起こりうるでしょうか。

【黎明期】
 カーボンフットプリントの表示がある商品とない商品が混在している時期には、同じ値段の商品であれば、多くの消費者はおそらく、表示ありの商品を購買するでしょう。表示することが商品及びその企業の信頼性につながると予想されるからです。これは、食品の安全性とトレーサビリティの問題と構造が似ているといえます。産地が明確に示されているもののほうが信頼できますし、そうした表示をしている商品を販売している企業はがんばっているな、と応援したくなるものです。

【普及初期】
 カーボンフットプリントの表示が普及し始めたころ、値段・機能がほぼ同じのA社、B社のそれぞれの商品のカーボンフットプリントが、仮に100g、80gだった場合はどうでしょうか。通常であれば、B社のほうを選択する消費者のほうが多いのではと予想されます。ただし、この場合、安かろう、悪かろう、ではないですが、CO2が少ないので、商品の質も下がっているのでは、という誤った認識をされないよう留意が必要です。

【普及中後期】
 普及初期で商品の競争力が弱まったA社は、その後、いくつかの対策が考えられます。カーボンフットプリントはそのままで、単なる価格戦略として、B社より安い商品を打ち出すのも対策のひとつですし、B社より低いカーボンフットプリントを目指し、製造工程を見直し省エネを促進する、流通経路を見直し効率的な物流体制を構築する、といった直接的にCO2発生量を抑制する取組みや排出権の購入によるカーボンオフセットの取組みを進めるのも対策のひとつです。
 後者の場合、対策の実施コストがA社の商品価格のアップとして反映されると予想されます。このとき、相対的にみて価格は高いがカーボンフットプリントが低いA社と、価格は安いがカーボンフットプリントが高いB社のどちらの商品が売れるのでしょうか。
 これは、商品の特性(ターゲット層、日常品・非日常品)によると考えられます。高くてもブランド価値に高額を支払うように、高くても環境価値にお金を払うLOHAS層もいるわけです。

 ただし、こうした付加価値型商品のマーケティング戦略上では、カーボンフットプリントの大きな特徴は、CO2排出量が「定量的に」示されている、ということです。また、その値が、企業努力により変化させることが可能であり、その数値やその変化を環境価値として消費者に「見える化」させていることが大きな特徴といえるでしょう。こうした取組自体が企業価値向上にもつながるといえます。

 迫り来る炭素制約社会の中で、カーボンマーケティング、エコブランディングといった企業の新たな対応が求められつつあります。
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