国際戦略研究所 田中均「考」
【ダイヤモンド・オンライン】トランプに「NO」と言えない日本、対米“従属”路線はイラン問題・対中関係で国益損なう
2026年04月15日 田中均・日本総合研究所国際戦略研究所特別顧問
|対米アプローチ「トランプ追随」では限界
|結果的に日米関係に亀裂入る可能性
米トランプ政権の「米国第一主義」は、国際社会の安定や自由貿易などの原則を脅かす最大のリスクとなっているが、4月10日付のフィナンシャル・タイムズ紙は、「日本はトランプにNOとは言えない。米国への依存から脱却するプランBを必要とするが、そのようなプランは存在しない」との趣旨の論調を掲載している。
この場合のプランAは米国追随路線を言うが、高市政権ではその傾向はさらに増した。プランBは米国の核の傘から離れた核武装、中国を含むアジアの安保体制の構築を言うのだろうが、その可能性はないとして、要するに日本はアメリカの恫喝(どうかつ)に屈するしかないとの趣旨を論じている。
高市政権がプラン「A+」ともいうべき突出した対米従属路線を追求しているように見えるのはその通りだろう。米国第一で国際法にも縛られないとするトランプ大統領に対して、欧州やカナダは米国依存を脱却しようともがいているのにもかかわらず、高市政権は全く逆の対応をとっている。
トランプ氏の関税による恫喝に対し他国に先駆け膨大な投資計画に合意し、高市首相の訪米時には投資の具体化や米国防衛装備品調達の前倒しに合意した。トランプ政権がベネズエラやイランへの武力行使をめぐり強い批判を受けているにもかかわらず、米国批判は棚上げしトランプ氏をこの上なく持ち上げた。
米国依存から脱却しようという動きは見せていない。
歴代の自民党政権も基本的には対米追随路線をとってきたことは確かだが、高市政権の場合はむやみに従うだけの追随路線だ。
このままでは、高市政権の対米アプローチは破綻する恐れが強い。対米追随外交のもとで、イラン戦争とホルムズ海峡封鎖問題では、結果的に日米関係には亀裂が入る可能性が高い。
対中関係でも、日本ははしごをはずされて孤立する懸念がある。
|米国・イランの和平交渉は不調に
|ホルムズ海峡封鎖長期化の懸念
4月11日、パキスタンのイスラマバードで行われたイランでの戦闘終結、和平に向けての米国とイランの直接交渉は、不調に終わり、合意は達成されなかった。
トランプ大統領は、交渉決裂を受けて、「米海軍がホルムズ海峡を封鎖する」とSNSに投稿、イランの原油輸出などを封じて攻勢を再び強める姿勢を示している。
交渉の内容がほとんど明らかではないので、米イラン協議がどのような状態にあり、今後どう見通されるのかは明らかではない。しかし双方とも戦闘を停止したいと考えているのだろうし、国内的に勝利宣言できるか否かが争点なのだろう。
イランにしてみれば、核兵器不拡散条約上非核国に許されている原子力平和利用の権利を放棄するわけにはいかないだろうし、60%に濃縮されたウランおよび今後の濃縮を認めさせることは、譲らないとの姿勢だ。一方で米国にしてみればホルムズ海峡の管理権をイランに認めるわけにはいかないし、今後ホルムズ海峡を閉鎖させない工夫をどうするかという問題が残る。
もし事態が収拾されず交渉が決裂し、戦争が泥沼化するようなことになれば、石油価格の大幅高騰は続き、世界経済は減速、へたをすれば経済危機に陥る可能性がある。そうなれば、日本も大きな打撃を受ける。
トランプ政権への支持、連携強化で日米関係は黄金時代だと、とてもいえるものではない。
|歴代自民政権とは異なる対米追随路線
|米国へ耳に痛いことも言った中曽根、小泉元首相
自民党政権が、代々、対米追随路線をとってきたことも確かだ。しかし、高市政権のようなやみくもな対米従属ではない。
中曽根康弘元首相は日本を「西側の一員」として遇されることを目的として「ロン・ヤス」関係を築いた。小泉純一郎元首相は「対米関係を緊密化することは日本の対アジア外交に力を与える」として、北朝鮮をはじめアジア諸国との積極的外交を進めた。
安倍晋三元首相は大量の米製戦闘機購入などトランプ大統領(第1次政権時)を喜ばせる施策をとり、個人的にも極めて親しい関係を築いたが、その半面、中国、ロシア、イランなど米国とは対立関係にある国々とも積極的な外交を進めた。
これら自民党政権は、米国との緊密な関係と日本の自主的外交は両立すると考えたのだろう。その結果、この時代の日米関係は一方的な従属ではなく相互を益する関係だった。
「ロン・ヤス」「小泉・ブッシュ」「安倍・トランプ」の各首脳は、いずれも相手を尊重し相手の話を聞こうという姿勢が強かった。筆者はロン・ヤスと小泉・ブッシュの首脳会談に何度も同席したが、日本の首相は、米国の耳の痛いことでも日本の主張を行うことに躊躇(ちゅうちょ)はなかった。
だが、「高市・トランプ」にそのような雰囲気があるとは思えず、自主的外交とは程遠い。米国の批判を受けないための懐柔でしかないように思える。
|対中関係で日本ははしごを外される懸念
|トランプ政権、中国との「G2」重視
中国との関係でも、トランプ米国への一方的な追随は危うい。
5月中旬にはトランプ大統領が訪中し、米中首脳会談が予定されるが、米中ともこの首脳会談を成功させるために慎重に動いている。
すでに米中間ではこの3カ月で6回の閣僚会議が行われ、貿易問題で双方を満足させる結果が作られるのではないか。米国産農作物などの大量購入、ハイテク製品輸出規制、レアアース輸出規制などについての一定の了解のほか両国への貿易投資の監視機構などで合意される見通しがあるようだ。最も注目されるのは台湾問題なのだが、少なくとも対決にはならないのだろう。
中国は連携を強めてきたイランに対し軍事協力などは控え、停戦交渉にイランを引き出すのに貢献したと伝えられており、米中関係を損ないたくないという意識が強い。ベネズエラやイランへの軍事攻撃をめぐり米国が国際社会の批判を受け続ける中で、中国の地位が相対的に上がっていることは否めず、米中首脳会談後、トランプ大統領が度々言及している「G2」の印象が色濃くなる可能性もある。
日本は過去10年あまり、中国の台頭をけん制することを外交政策の柱とし、インド太平洋構想や日米豪印、日米韓、日米比、などの戦略的連携を強化してきた。高市政権は台湾有事の存立危機事態に関する国会答弁にもみられる通り、対中強硬姿勢が目立つ。
しかしこれらの外交姿勢は米国が背後にいてこそ成り立つものだ。だが、直近の状況はそのような構図にはないとの見方もできる。
イラン戦争は、トランプ大統領の当初の思惑とは違い、支持率を上げる要因ではなく、その長期化がむしろ支持率を下げると考えられており、実際、そうなってきている。
中間選挙を控えるトランプ大統領にとってみれば、特に経済面で中国から譲歩を引き出し、米中関係を管理している姿を示すことを欲しているのだろう。欧州諸国も対米依存度を引き下げる観点から中国との関係を見直しており、ことさら中国と対決する雰囲気はない。
このような国際関係の変化の中で、高市政権が隣国中国と強硬姿勢で関係悪化を招いているのは異様だ。このような状況が推移していくと、中国は、日本に今度、さらに強硬な姿勢で臨んでも、米国が日本支持に回ることを想定しなくてもよいと考えるのかもしれない。
|日本は「プランA+B」で臨むべきだ
|米国との協調維持しつつ自律性高めよ
高市政権が対米従属度を高めても日米関係が良くなる展望も開けず、中国との関係でも米国が日本を強力に支持するという図式にはなりがたい時、日本が構想すべきは、「プランA+B」の外交だ。
つまり米国との協調路線を維持しつつ、日本の自律性を高めるということだ。過度な対米依存は日本を当然視されることにつながりかねず、外交の自律性を高めることが必要だ。
イラン問題について、日本はただひたすら米国を支持し歩調を合わせるのではなく、伝統的に友好関係にあるイランとの関係に立脚して自律的な外交を展開すべきだ。
特にホルムズ海峡の安全通航問題では、日本は、海峡の自由航行が回復された際の最大の受益者だ。決して傍観者であってはならず、知恵を出すべきだ。自由航行を保証するための基金を創設するなど、安全航行を管理する国際的枠組みを創設することを含め、受け身ではなく積極的にかかわっていく必要がある。
対中関係については「対話について常にオープン」(高市首相)といった開き直った態度をとるのではなく、日中関係を良くしたいという積極的な態度を見せるべきだ。
高市首相は国会などで、なぜ日中関係は重要であるかについてきちんとしたビジョンを語るべきであり、同時に日中政府間の高いレベルで日中関係を良くする方策について協議する体制を構築すべきだ。
高市首相は今後、武器輸出政策や安保三文書の前倒し改定、防衛予算増額、ひいては憲法改正といった課題にとり組む意向を語っているが、中国に対しては、疑心暗鬼を抱かせないよう常に対話を尽くすべきだ。
トランプ政権の国際協調を忌避する姿勢から、世界が抱える諸課題へのグローバルな取り組みが難しくなり、地域主義の傾向がさらに強まることを考えても、日本の外交の立ち位置は、対米追随ではなく、中国を含む「アジア太平洋協力」に立ち戻ることだ。
TPP(環太平洋パートナーシップ協定)への中国、韓国、台湾加盟を含め地域でルールに基づく自由貿易体制を拡充し、気候変動やエネルギー問題への協力を活性化させるべきだ。
(日本総研国際戦略研究所特別顧問/元外務審議官 田中 均)
ダイヤモンド・オンライン「田中均の世界を見る眼」
https://diamond.jp/articles/-/388144
