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国際戦略研究所 田中均「考」

【ダイヤモンド・オンライン】トランプ政権の「イラン戦争」は泥沼化の懸念、高市首相は訪米で何を語るべきか

2026年03月18日 田中均・日本総合研究所国際戦略研究所特別顧問


|ホルムズ海峡封鎖は長期化の懸念
|イラン問題は日米首脳会談の焦点に


 米国とイスラエルによるイラン攻撃を機にした中東の緊迫は、原油輸送の要路であるホルムズ海峡の封鎖で世界を巻き込む事態になった。

 原油価格高騰に対応するためG7主要国での原油備蓄の放出などが始まったが、封鎖長期化やそれによる世界経済への影響が懸念される。

 トランプ大統領は、支持率が低下するなか、11月の中間選挙をにらんでイランに対する強硬措置で電撃的戦果を上げることを期待し求心力の回復を狙ったようだが、国内でも批判やインフレ再燃などの懸念が強まるなど、裏目に出た形だ。

 イランは、ハメネイ師をはじめとした政権指導部が殺害されるなどしたが、抗戦姿勢は変えておらず、ホルムズ海峡の事実上の封鎖を続ける構えで、戦闘は長期間にわたる可能性が色濃くなっている。

 直近では、トランプ大統領はホルムズ海峡を通航するタンカーの護衛を米軍と有志国の連合軍が担う構想をかかげ、各国に参加を呼び掛けている。

 3月19日に訪米する高市早苗首相とトランプ大統領との会談は、泥沼化が懸念される「イラン戦争」やホルムズ海峡封鎖への対応が最大の焦点として浮上することになった。

 積極財政路線とともに、「世界の真ん中で咲き誇る日本」を掲げた高市外交にとっては、いきなりの大きな試金石となる。

|軍事作戦はネタニヤフ首相からの働きかけ!?
|11月中間選挙にらみ不人気挽回を期待


 トランプ大統領が、なぜ対イラン核交渉のさなかにイラン攻撃に踏み切ったのか。交渉を攻撃の隠れみのに使いイランを油断させたとの見方もされているが、意図的であったとは思えない。

 イスラエルのネタニヤフ首相から、ハメネイ師や革命防衛隊の幹部を一掃できると強い働きかけがあった可能性もある。イスラエルは一貫して外交交渉による核問題の解決に懐疑的で反対しており、イラン体制打倒のチャンスと見たのではないか。

 トランプ大統領は、1979年のイランによる米国大使館員人質問題以降度々屈辱を受けたイランに対する国民の強い憤りを承知で、ベネズエラ急襲の成功を繰り返したいと思ったとしても不思議ではない。

 やはり、11月の中間選挙に向けた思惑があったと考えられる。

 第2次世界大戦後の米国中間選挙は19回行われているが、政権党が下院で勝利したのはわずか2回だ。

 それは、強い経済でクリントン大統領の支持率が65%を超えていた1998年と、9・11同時多発テロの直後でブッシュ政権への求心力が高まった2002年だ。

 下院全体が入れ替わる中間選挙では大統領の業績に対する評価という側面が強く、40%を下回る支持率の下でトランプ共和党が勝利する見込みはほぼない。

 特に、不法移民取り締まりに関するICE(移民関税執行局)による過剰な取り締まりとミネソタでのデモ参加者殺害事件、トランプ関税の最高裁違憲判決、そしてエプスタイン・スキャンダル(未成年者性暴力)などでトランプ政権への批判は強い。さらに決定的な要因となるのは経済、特に失業率とインフレだが、イラン戦争開始後の米国経済の見通し次第ではあるが、失業率とインフレは悪化する傾向であり、共和党は20~30の議席減となるのではないかと予想される。

 上院については、民主党が保有する改選議席13を維持したうえで、共和党が保有する改選議席22のうち4議席を獲得しないと民主党多数とはならず、接戦が予想されるジョージア、メイン、ミシガン、ノースカロライナ州でも、現状では民主党勝利の可能性は薄いと予想されている。

 共和党が多数を維持するのではないかとの見通しはあるものの、今後の選挙戦次第だ。

 核開発継続など、長年、反米姿勢を続けてきたイランに対して電撃的戦果を上げることで、支持率を一挙に上げたいと考えたとしても不思議ではない。

|世論調査は「攻撃反対」が56%
|原油高騰、インフレ再燃懸念で裏目に


 しかし、最近の米国内の世論調査(NPR/PBS/Marist)ではイランへの軍事攻撃を支持するのは36%、反対するのは56%でトランプ大統領の支持率も上がっていない。トランプ氏が攻撃の目的に対する説明を二転三転させているのも、国民の支持がないことが背景にあるのだろう。

 当初はイランの核能力を消滅させるということだったが、それが体制の変革になり、核、ミサイルをはじめイラン軍事能力の抹殺といったところまで広がっている。

 そして、イランがホルムズ海峡を通る石油を人質にして揺さぶりを始め、米国産標準油種(WTI)先物価格が1バレル=120ドルに迫るなど、原油価格が高騰、米国内でのガソリン価格上昇などインフレ再燃が現実味を帯びる状況で、「イラン戦争」はトランプ大統領の中間選挙対策という観点からもむしろ有害となりつつある。

 トランプ大統領は石油市場の高騰と世論の動きを前に、戦闘の継続について立場や考え方が揺れているのが実際のところではないか。

|国際法の上でも正当化はできず
|制裁緩和でロシアを利することにも


 国際的にもトランプ政権に対する不信は、さらに強まった。

 米国・イスラエルのイランに対する軍事攻撃は国際法上、正当化できる戦争ではない。第2次大戦後国際社会は戦争の違法化を論じてきたが、国際法上正当と認められるのは個別的・集団的自衛権の行使と国連安保理決議に基づく集団的安全保障によるものに限られる。

 西側諸国はロシアのウクライナ侵攻や中国の南シナ海での拡張的行動などを「軍事力による一方的な現状変更」として厳しく非難してきた。米国・イスラエルのイラン攻撃は自衛権の発動とは到底認められず、国連安保理でも議論が尽くされたわけではない。それゆえに国際社会の見る目は厳しい。

 西側諸国でもイランの核開発を阻止すべきだという点ではコンセンサスがあるが、イスラエル、米国の軍事攻撃については国際法上の正当性を疑う意見がほとんどだ。

 スペインや英国は軍事攻撃の正当性を認めず、スペインは米国による基地の使用を拒絶した。英国は、英国人の安全を担保するという目的でのみ艦船を出動するとしている。

 一方でイランは米国、イスラエルに対して明らかに劣勢だが、新最高指導者となったモジタバ・ハメネイ師は、徹底抗戦を掲げ、ホルムズ海峡の事実上の封鎖も続ける姿勢を表明している。

 戦争遂行の主目的は中東全体の不安定さを助長することと、ホルムズ海峡封鎖を通じて国際石油市場を混乱させ世界経済に強いインパクトを与えることだろう。

 宗教国家イランは今後長い期間、米国に対しテロを引き起こしていくと予想される。

 また戦争の長期化は、ウクライナへの侵攻後、同国東部などを占領し続けているロシアを利することにもなる。

 イラン戦争はウクライナ戦争への関心をそらし、長期化すればするほど弾薬をはじめ米国の武器ストックを圧迫する。米国が石油市場ひっ迫化に対応するためロシア産原油に対する制裁の一時的緩和に踏み切っており、例えばインドのロシア産原油引き取りは増加していくのだろう。

 ロシアはイランに軍事情報を提供するなど戦争長期化に向けてイランとの軍事協力を強化している。

 中国について見れば、米国の軍事行動を厳しく批判するが、トランプ大統領を批判することは避けており、米中首脳会談の成功裏の開催が当面のプライオリティーに見える。

 国際社会は、米国、ロシア、中国などの強国を中心に、力による支配で自らの国益を露骨に追求する舞台に変わりつつあり、米国のイラン攻撃はその流れをさらに強めることになる。

|簡単ではないタンカー護衛の自衛艦派遣
|機雷掃海の参加伝え、早期終結の流れ後押しを


 19日に予定されている日米首脳会談で、トランプ大統領はイラン戦争について日本の支持を求めるのだろう。

 しかし、日本国内の見方は米国イスラエルのイラン攻撃について批判的だ(3月15日発表の朝日新聞世論調査では82%が不支持)。

 高市首相も国会答弁などで、米軍攻撃の法的評価はしないとしている。それをトランプ氏との会談で、イラン攻撃を支持するとはやはり言えないだろう。

 米国はホルムズ海峡の船舶護衛のための軍艦の派遣を要請すると伝えられているが、自衛隊の派遣は日本にとって簡単に応じられる話ではない。

 イラン戦争が継続中であることを考えれば、タンカー護衛のためといっても、自衛隊の艦船はイランの攻撃対象になるだろう。まさに参戦するということになる。

 これは新安保法制の「存立危機事態」を宣言し、集団的自衛権行使のため艦船派遣ということにならざるをえない。しかし正当化されない米国の攻撃への支援は許されまい。

 ただ、安全保障を依存する同盟国である米国の要請に全く沿わないというわけにもいかないだろう。

 日本は現在の状況に鑑み、戦闘を早く終わらせるのが、米国および日本の利益であるとの点を強調することが重要だ。

 そして戦闘を早く終わらせるために、日本は正常な関係があるイランにも働きかけを行うこと、戦闘が終了すれば日本の掃海艇を送り機雷除去への協力を検討することを、高市首相はトランプ大統領に伝え、戦闘の早期終結に向けて後押しすることはできるのではないか。

 日本は米国の無理な要請に応えることはできないが、外交的に役割を果たし、日本の得意な機雷除去に協力することで米国との関係を維持し、国際社会にも貢献する努力をすべきだろう。

(日本総研国際戦略研究所特別顧問/元外務審議官 田中 均)

ダイヤモンド・オンライン「田中均の世界を見る眼」
https://diamond.jp/articles/print/386073
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