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国際戦略研究所 田中均「考」

【ダイヤモンド・オンライン】高市首相訪米で問われるトランプ米国との“距離感”、国益のため進めるべき「アジア外交見直し」

2026年02月18日 田中均・日本総合研究所国際戦略研究所特別顧問


|トランプ大統領を誰が止められるのか
|高市訪米を米国追随だけで終わらせるな


 衆議院選挙圧勝で続投が確実な高市政権の当面最大の外交課題は、3月19日に予定されるトランプ大統領との首脳会談だ。

 第2期政権の2年目に入った1月早々のべネズエラへの軍事攻撃や、デンマーク自治領のグリーンランド割譲を求めて、同盟国への欧州諸国に対しても高率関税賦課の動きをみせるなど、「力の支配」と「米国第一」路線を進めるトランプ大統領は、いまや世界にとって「最大のリスク」となっている。

 11月の議会中間選挙を控えて国民へのアピールから自国の国益確保を露骨に進める姿勢は一段と強まると予想されるが、トランプ米国の「暴走」を誰がどう止めるか、そのリスクをどう回避するかが、世界の課題となってきた。

 実際、欧州諸国などでは、国防費拡大などで自らの安全保障を確保する動きとともに、中南米諸国やインドとの自由貿易協定の合意、中国とも関係見直しに動くなど、トランプ米国と距離をとる取り組みが始まっている。

 日本はどう対峙(たいじ)するのか。首脳会談を前に、赤澤経済再生相が訪米、「80兆円対米投資」の第1号案件実現の調整が進められているほか、首脳会談では、中国をにらんだレアアースなどの確保での協力や防衛費増強など、日米の連携強化などをどう“演出”するかに日本政府は腐心しているようにみえる。

 安全保障を日米同盟に依存している日本が、完全な米国離れをすることは難しいにしても、日本は米国にただ追従するのでなく、時には米国に物申し、時には自立した外交で米国一国主義の欠陥を補うなどで、世界での存在感や米国に対しても発言力を強めることはできる。

 とりわけ、今後、「対米梃子(てこ)」として重要であり、取り組むべきはアジア外交の見直しだ。

|試されている米国の民主主義
|中間選挙後もトランプ流変わらない恐れ


 トランプ流の秩序は力の支配であり、普遍的な法に基づく統治ではない。力あるものが勝利する世界は、規範を欠く予測不可能な乱世だ。どう見ても好ましい世界ではない。それは、足元の米国内の状況を見てもはっきりしている。

 トランプ2.0発足から1年、共和党が両院多数を握る中で起きたのは、民主主義的機関による大統領権力のチェック機能を弱めようとするトランプ大統領の執拗な試みだった。

 本来、独立性を重んじられるべき大学、メディア、司法機関などは多くの場合にトランプ政権の強い圧力に屈した。ハーバードやコロンビアなどの有力大学であっても政府の補助金削減廃止の圧力の前に妥協を迫られた。

 鋭い調査報道で知られたワシントン・ポスト紙もトランプ氏に近いアマゾンのベゾス氏が買い取った後、政府批判が薄まっているといわれる。トランプ政権の看板政策である不法移民の取り締まりに至っては、移民・関税執行局(ICE)の強権的な取り締まりの結果、ミネソタ州では巻き込まれた2人の市民が射殺される事態が起きた。

 捜査官が路上に押さえ込んだ犠牲者に発砲する様子が動画に映し出されているにもかかわらず、トランプ政権が取り締まりを正当化するに至り、激しい反発が生まれている。

 三権分立の要である最高裁についても、トランプ関税をめぐる最高裁の審査結果が数週間中に出るといわれている。下級審では、大統領令による関税賦課は違憲との判決が相次いでいるが、トランプ政権が任命した保守派判事が多数を占める最高裁が、きちんとした独立性を示せるのかは、米国の民主主義に重い意味を持つ。

 トランプ大統領は米国で大統領が持つ強大な権力を行使し、「人事と資金」という民主主義社会における「力」を活用し、法治や公平性といった民主主義原則を損ねている。

 だが、米国社会の現状は、トランプ大統領の極端な統治であっても、支持率はほんの数%しか下降せず(昨秋の40%程度から2月時点に37%程度へ)、目立つことをすれば直ちに支持率が回復するような範囲の支持率の変化だ。

 中間選挙で共和党が仮に下院で多数を失うとしても、トランプ大統領の統治方式が大きく変わるわけではないのかもしれない。むしろ、より過激な統治になる恐れすらある。

|トランプ米国は世界の最大の地政学リスク
|東アジアは米国の関与弱まり不安定化!?


 国際社会にとっても、力による平和を唱え、国際法に縛られるものではなく、縛るものがあるとすれば唯一自らの道義心だ、と公言するトランプ大統領は、最大の地政学リスクといっていい。

 ロシアや北朝鮮のように戦争になるリスクが高い存在という訳ではないが、米国は世界一の軍事力、経済力をもつ唯一の超大国であり、各国とも米国との相互依存関係は高く、米国の行動は最も大きなインパクトをもたらす。

 特にトランプ大統領の行動には予見性が欠ける。トランプ米国には、同盟国の利益も重視するという気配はない。全てが「米国の利益を優先した取引」となっている懸念が強い。同盟国や友好国もWTOの原則を無視したトランプ相互関税の標的となっているし、トランプ大統領は関税を外交上の武器とし相手国を威嚇する。

 そして国家安全保障戦略や国家防衛戦略に盛られた「ドンロー主義」は、二つの大きな懸念を引き起こしている。米国の安全保障の焦点であるとされる西半球の諸国は、グリーンランドを含めベネズエラのように米国の軍事行動にさらされるのではないかとの懸念がある。

 一方で欧州や東アジアには西半球に優先度が移る結果、米国の安保コミットメントが薄れていくのではないかとの懸念がある。

|欧州諸国のデ・リスキングの動きは急だ
|対中関係見直し、南米やインドと自由貿易協定


 このようなトランプ・リスクをどう回避していくかは、各国にとっての深刻な課題だ。

 具体的には政治経済安全保障分野で米国に依存しすぎるのは危険であり、依存度を減らしていかねばならないという問題だ。

 とりわけ欧州諸国は、トランプ関税やロシア寄りのウクライナ停戦協議、グリーンランド領有意欲などで、トランプ・リスクへの対応で動き始めている。

 安全保障分野ではウクライナ侵略にみるロシアの脅威を前に、国防費を急拡大しNATO基準のGDP比2%を達成したが、さらにEU全体で8000億ユーロ(約130兆円)拡大が提案されている。NATO目標も2035年までにGDP比3.5%、防衛インフラを合わせ5%とされている。

 また米国のグリーンランド領有の動きに対しては、独や仏などはグリーンランドに部隊を常駐させる計画を進めている。トランプ大統領のグリーンランド領有のための動き次第で(トランプ大統領はグリーンランド領有についてはトーンを弱めてはいるが)、NATOにおける米欧関係は決定的に分断されるのだろう。

 ロシアの大きな脅威の前に、欧州が安全保障面で自立するのは、防衛産業の構築を含め、現状では時間のかかるプロセスだ。だが、経済分野では具体的動きが急だ。

 EUは長年の懸案だったメルコスール(ブラジル、アルゼンチンなど中南米4カ国)との自由貿易協定に署名し、インドとも20年越しの自由貿易協定締結に最終合意した。

 EUとインドの人口を合わせれば20億人の巨大市場だ。さらに中国との関係も見直しが急であり、この2カ月のうち、アイルランド、フィンランド、英国の首脳が北京を訪問し習近平国家主席との首脳会談を行い、今月にはドイツのメルツ首相も訪中の予定と伝えられる。

 欧州では米国への対抗力を強めるべきだとの議論は盛んであり、ドラギ元欧州中央銀行総裁は、EU連合は一つの国家に近い連邦に移行すべきだと論じている。

 ほかにもカナダのカーニー首相はダボス会議の演説で大国に迎合することはせず、中堅国の連携を説いた。カナダはトランプ政権との対峙を明確にするとともに、中国との貿易関係を正常化している。

 一方で対照的なのはメキシコで、米国以外の選択肢はないと判断したのか、シェインバウム大統領はむしろ米国との関与・協力関係の拡大にかじを切っている。

|日本はアジア外交で自立度、再び高めよ
|武器はCPTPP、中国、韓国の加盟実現で交渉を


 トランプ米国での対応で、世界はまた新たな国際秩序形成へと進むのだろうか。

 高市首相の訪米は、日本の姿勢を世界に示すことにもなるだろう。

 日米安全保障条約は二国間条約であり、かつ日本は米国の核抑止力に依存している。欧州のようにNATOが多国間条約でかつ英仏が核保有国なのとは対照的で、日本の米国への依存は圧倒的に高い。従って安全保障面で米国離れをすることは考えられない。

 しかし、できる限り自立度を増すという点では、日本の防衛費拡大の中で米国製の武器を買うことよりも防衛産業を含む防衛インフラの強化を行うことを優先すべきなのだろう。

 外交経済面では日本が自立していく余地は格段にある。実は日本のアジア政策は自律性が高かった。

 中国への長年にわたったODA(政府開発援助)供与、東アジアサミットなどの東アジア地域協力、ASEANやインド重視、小泉純一郎首相の北朝鮮訪問など、日本外交は決して米国追随外交ではなく、米国の反対があったとしても日本の国益として進められてきた。

 むしろ、そのような独自外交が結果的には米国との関係でも日本の地位を高めたということができる。しかし、この10年程度、日本のアジア政策は、「インド太平洋戦略」を中心に中国を“敵視”する米国と一体化してきた。

 これは中国の飛躍的な台頭に向き合ううえで、米国との関係強化の流れが定着し、中国を市場経済などに積極的に取り込んで中国の民主化などを促すという「関与政策」では中国は変わらないという米国の姿勢に、日本も同調したといえる。

 だが、いま日本が取るべき道は、メキシコのように「米国以外の選択肢はない」という黒白的な判断で、トランプ政権にいたずらに一体化するのではなく、日本としての梃子を持ち建設的な同盟国となるためにアジア政策を見直すことだろう。

 外交における日本の重要な武器はCPTPP(環太平洋経済連携協定)だ。これに中国や韓国、台湾を含めるのは相当な困難を伴う交渉になるだろうが、日本はCPTPPの拡大を目指して外交を活性化すべきだろう。

 高市首相の3月の訪米は、こうした日本が米国から自立した外交を世界に見せる機会にすべきだろう。顔合わせで終わった昨年秋の前回首脳会談と違い、今回は衆議院選挙で3分の2の議席を得る歴史的勝利で強い政治基盤を持つことになった。「世界のど真ん中で花開く日本外交」を掲げる高市首相の真価が問われる。

 これが単に米国追随を強めただけという結果となってはならない。

(日本総研国際戦略研究所特別顧問/元外務審議官 田中 均)

ダイヤモンド・オンライン「田中均の世界を見る眼」
https://diamond.jp/articles/-/384041
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