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国際戦略研究所 田中均「考」

【政治プレミア・毎日新聞】「リベラルな国際秩序」が音を立てて崩壊していく

2026年03月11日 田中均・日本総合研究所国際戦略研究所特別顧問


 トランプ政権はベネズエラを攻撃し、マドゥロ大統領を拘束し米国で収監した。そして外交交渉のさなかにイスラエルとともにイランに攻撃を加えた。戦後国際社会は戦争を違法化する努力を続け、正当な武力行使は自衛権の行使か国連安保理制裁決議に基づく「集団的安全保障」の場合に限られると理解されてきた。1990年代以降の戦争のうち湾岸戦争は国連安保理決議に基づく武力行使と理解され、米国のアフガニスタン攻撃は米国へのテロ攻撃に対する自衛権の発動、しかしイラク戦争は安保理決議もなく、結果的には大量破壊兵器も発見されず、自衛権の行使とは認められるものではなかった。

 トランプ政権はベネズエラ攻撃については、麻薬の取り締まりのための警察権の行使であるかのような説明をしたが、警察権が国境を越えて他国に及ぶものではありえず、主権侵害とみなされる。イランについては自衛権の行使と説明されているようだが、核開発が米国の自衛権の行使、ましてや最高指導者の殺害を正当化するとは考えられず、トランプ大統領は「米国が攻撃しなければイランに攻撃されていた」と説明するが、イランが戦争を始める用意があったとは認められない。ルビオ国務長官はイスラエルが攻撃を決めており、イスラエルが攻撃すれば米国は狙われるので先制攻撃をしたと述べるが、苦しい弁明としか聞こえない。近年、国連などの場で「人道的介入」が議論されてきた。深刻な人権侵害や大虐殺(ジェノサイド)が行われ当該政府が保護に当たらないとき、国際社会が軍事力で救済に当たることができる、という議論であり、内政不干渉の例外的措置である。イランの革命防衛隊が多くのデモ隊に対し発砲し多数の人々が殺害されたようであり、人道的介入とも思われるが、いまだ「人道的介入」が合法であるとの議論は煮詰まってはいない。

「力による現状変更は認められない」主張が根拠を失う?
 ロシアのウクライナ侵略や中国の海洋における攻撃的活動に対し「力による現状変更は認められない」と断ずるのは米国をはじめ西側諸国の決まり文句であり、日本も常に主張してきた。しかしイラン攻撃が「力による現状変更」ではないとは説明できず、権威主義国家に対する西側の主張も根拠がないと主張されるだろう。

 ロシアであれ、アメリカであれ、「力あるものが正義」であり、国境を越えた主権的行為も他国に対する軍事力の行使もこれを制する者はないという「弱肉強食」の世界に立ち戻っていくということであろうか。本来であれば国連安保理が平和を脅かす問題として審理し行動すべきなのだが拒否権の存在により機能は果たさない。

リベラルな秩序が壊されていくのは戦争だけではない。自由貿易は世界の繁栄の礎と考えられてきたが、トランプ関税もWTO(世界貿易機関)協定のもとではとても正当化されるものではないだろう。一定の手続きを持って関税を引き上げるのはダンピングなどの不公正貿易阻止のために認められているが、不公正貿易を明らかにする手続きなく貿易パートナーに一斉に関税を付するのはWTO協定違反だ。WTOは貿易の基本的ルールを定めるものであるが、GATT(関税及び貿易に関する一般協定)からWTOに移行した最大の理由は紛争処理機構としての確立だった。しかし紛争処理の最終審である上級委員会は米国が2019年以降、委員の任命を拒否し、機能は停止してしまっている。

トランプ批判はどこに向かうのか
 「アメリカ第一」を唱え、国際法は自分の判断を規律しないと強弁する米国大統領をだれが制することができるのか。米国内においてトランプ大統領の支持率は40%を下回り、11月の中間選挙でも共和党は少なくとも下院の多数を奪われるのではないかと評される。ICE(移民・税関捜査局)による過剰な移民取り締まり、最高裁によるトランプ関税の違法判決、そしてエプスタイン問題などトランプ大統領にとって厳しい状況が続く中で、いまだに岩盤支持層を保っているのは驚きだ。トランプ的なるものは大統領が代わっても続くのではないかと思わせる。


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続きは、毎日新聞「政治プレミア」ホームページにてご覧いただけます。
https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20260310/pol/00m/010/006000c
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