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国際戦略研究所 田中均「考」

【政治プレミア・毎日新聞夕刊】衆院選後の課題は重い

2026年02月11日 田中均・日本総合研究所国際戦略研究所特別顧問


 総選挙は自民党の歴史的圧勝に終わった。2024年の衆院選と昨年の参院選は裏金問題や世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題を中心とした「旧態依然とした自民党政治」への有権者の手厳しい審判だったのだが、今回の選挙は高市早苗首相の圧倒的人気に乗ったポピュリズム的色彩の強い選挙だった。

自民党の歴史的大勝の背景に何があったのか
 自民党はインフレと国民生活の窮乏に対する不満、強い反中感情、国内の外国人への嫌悪感といった国民感情の高まりを吸収するようなアプローチをとった。高市首相は「自分を選ぶか、他の人を総理に選ぶか」といったテーマを掲げ、初めての女性首相として歯切れのよい「非永田町政治家」を演じ、「高市フィーバー」を巻き起こした。自民党は本来食料品消費税減税には消極的だったが、野党にポピュリズムの流れがいかないように食料品に2年間の消費税不適用を打ち出した。高市首相の台湾有事発言はレアアース規制など厳しい対抗措置を誘発し選挙にはマイナスの要因と考えられたが、国民の反中感情を背景に選挙イシューとなるのを避けた。むしろ高市首相が中国に厳しい姿勢を維持することが評価されたようだ。オーバーツーリズムや外国人による土地取得が国民生活を圧迫していると捉えられ、参政党躍進の最大要因であった外国人問題を自民党自身が課題とした結果、参政党のさらなる躍進は食い止められたと思われる。ポピュリズムに乗った自民党選挙戦の前に立憲民主党と公明党による新党「中道改革連合」はむしろ選挙目当てだけの新党と捉えられ、新鮮味に欠け、全くインパクトを与えることはできなかった。

選挙後の公約実現は容易ではない
 ポピュリズム選挙であっただけに選挙後の課題は難しい。ポピュリズム的公約はいずれも国民感情に即応すべく打ち出されたものであり、長期的かつ総合的視野に欠ける。「責任ある積極財政」も歳出改革や国債に依存しない財源の手当てができれば良いが、既に膨らんだ歳出の下で消費減税の財源を見いだすのは困難だろう。特に消費税減税は社会保障経費に穴をあけるわけにはいかないし、高市首相の目玉政策である強い安保を裏打ちする防衛費の増大も歳出圧迫要因となる。市場は既に放漫財政的傾向に反応しており、さらなる円安、日本売り、長期金利の上昇、食料・エネルギーを輸入に頼る日本の国内輸入インフレの加速は防げない。マーケットのネガティブな反応を鎮静化させることができなければ、公約の実行は困難になる。

 高市首相は3月にも訪米することが伝えられるが、トランプ米大統領は主要7カ国(G7)の連携が崩れつつある中で、米国に従順な数少ない首脳として高市首相を歓迎するだろう。選挙戦のさなかに高市首相支持のメッセージを発出したのは異常な内政干渉であるが、トランプ大統領はそのような規範には縛られないとする。トランプ大統領が要求するのは防衛費の拡充と対米投資の迅速な実行なのだろうが、防衛費の飛躍的拡大を進めたいと考えている高市首相にとってはトランプ大統領の要求をむしろ「外圧」として最大限利用しようとするだろう。従って日米2国間関係においては鋭く対立する懸案はない。おそらく最も重要となるのは、大きく変化しつつある米国の外交安保政策の中で日本がどのような位置づけとなるかなのだろう。

米国の新しい国家安全保障政策と欧州
 今日国際社会が直面しているのは、西半球に重点を移すとするトランプ政権の国家安全保障戦略にどう向き合っていくのかだろう。カナダのカーニー首相はダボス会議の演説で中堅国が連携して大国の横暴に立ち向かう必要性を説いたが、安全保障を米国に依存する北大西洋条約機構(NATO)諸国や日本にとっては難しい課題を抱えることになる。もしトランプ政権がデンマーク自治領グリーンランドの奪取に向けて強権的措置に至る場合には、NATOの分裂に至る。もっともNATOから距離をとってきたトランプ氏はこれをNATOからの離脱の機会と捉えるかもしれない。しかし欧州諸国はロシアの脅威に欧州だけで対応できるとは考えておらず、決定的に米国と対立することは望んでいまい。そのような状況下で欧州はソフトランディングのための対応策を進めている。まず国内総生産(GDP)比5%を新たな目標として国防費を拡充させ、防衛産業や防衛インフラへの投資を進め、米国に依存しない安全保障体制を目指すとしている。英や仏の核抑止力を欧州に拡大することも協議されている。さらに独仏など欧州諸国はグリーンランドに軍を常駐させNATOベースでグリーンランドの安全保障を担保する動きを加速させている。米国への依存の軽減は安全保障に限らず、経済面でも具体的動きが急だ。欧州連合(EU)は長く合意に至らなかったメルコスル(南米南部共同市場、ブラジル、アルゼンチン、パラグアイ、ウルグアイ)やインドとの自由貿易協定を成立させた。さらに、一時警戒心が強かった中国との関係を見直す動きも急であり、この2カ月の間に仏、英、加、アイルランド、フィンランドの首脳が北京を訪問し習近平国家主席と会談している。ドイツも近々に首脳会談を持つようだ。

国際政治構造の変化に日本はどう対応する?
 選挙戦ではほとんど議論されなかったが、国際秩序が壊されつつある時、日本外交の座表軸をどうしていくのかという課題は極めて重要だ。高市首相の安保外交政策からは日米安保関係強化という既定の方向性しか見えないし、欧州のように米国依存を少しでも減らそうという議論は存在しないかのようだ。

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