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日本総研ニュースレター 2014年10月号

地方創生は「鉄道事業者と連携したまちづくり」で実現すべし

2014年10月01日 丸山武志


経済活動の「単位」を無視して失敗を重ねた「地方創生」
 政府は、日本再興戦略の主要テーマとして「地方創生」を掲げる。「雇用創造により人口減少に歯止めをかけ、自律的で持続的なまちをつくり自治体経営の安定化を図る」ことを主眼とした政策が、次々と検討され始めている。
 ところで、地方創生の取り組みは、地方では従前より「地域活性化」というキーワードの下で継続されてきた。政府も「ふるさと創生」に始まり、「中心市街地活性化」「地域活性化総合特区」など様々な支援を続けている。しかし、取り組みの多くは「局地的」かつ「産業へのインパクト」が少ないまま終わったのが実態といえる。結果、雇用は十分に創造されず、地場産業は衰退傾向が続き、人口減少に歯止めがかからない。地方創生は「地方に中央がカネをつける」議論に終始することが多いが、これまで成功事例が少ないという事実は、問題の所在が資金面ではないことを表している。
 地方創生の取り組みにおける最大の問題点は、地域に暮らす住民の経済活動の単位が、必ずしも行政区割りと一致していないことである。例えば、居住エリアはA市でも、公共交通がA市の中心部には出ていないため、普段の買い物や病院は隣接するB町の駅前、といったことは比較的多い。そのような状況の中で、エリアマネジメント等を取り入れ、官民連携した地域活性化の取り組みを進めても、実施主体が自治体である以上、事実上自治体単位での施策に限られてしまう。その結果として、隣接した自治体同士で同じような機能を持つ施設づくりを行ってしまうなどの例も少なくない。つまり、細切れによる予算不足や経済活動観点からのサービスの重複が発生し、十分な効果を得にくくなる。
 モータリゼーションが発達した現代でも、過疎地域を除くと地域住民の経済活動や人口流動は、公共交通、特に鉄道をコアとすることが多い。今後はさらに、高齢化社会の進展で自動車分担率の大幅な低下が予想される。高齢の交通弱者が増加する社会において、交通条件ではなく、自治体という単位でまちづくりを考えることは、機能的にも財政的にも極めて非効率的な状況に陥りかねない。

経済的なつながりのある「鉄道沿線」単位で考えよ
 これからのまちづくりは、自治体という単位に縛られるのではなく、経済活動に即した観点から広域に再編した上で行われるべきと考える。つまり、自治体の枠を取り払って地域住民の経済活動の単位である「鉄道沿線」を「ひとつのまち」と見立て、「鉄道事業者のビジネスの視点」から沿線の価値向上を図る形でのまちづくりが望ましい。
 経済的なつながりを持ち、相応の人口集積が見込める「鉄道沿線」を一つの「広域経済圏」と見立てて機能を効率的に集約すれば、住みやすく、また、マーケットとしての魅力を備えた中核都市圏の創出が可能になる。例えば、大型商業エリアの設置は「概ね時間距離20分圏内人口20万人が最低ライン」といわれるが、自治体の単位では誘致が難しいエリアも、駅をコアに鉄道沿線を広域経済圏と見立てると、マーケットとしての魅力は向上する。
 また、「住みよいまち」「都市機能が集積したまちの実現」は、住宅の価値(=地価)上昇をもたらす。これは鉄道事業者の成長戦略の要である「沿線の価値向上」そのものであり、自治体側と利害が一致する。鉄道事業者は、新しい公共の担い手としてのポテンシャルが高く、住みよいまちづくりに対する活動推進・実現の意欲が大きい存在といえよう。

鉄道事業者の改革を自治体が後押しする形に
 多くの鉄道事業者は、中期計画で「地域共生」を謳い、沿線地域の価値向上に資する新事業への投資と駅前開発を進めている。効率的で効果的な広域のまちづくり推進のためには、思い切って「地域の住みよいまちづくりや人の集まる仕掛け」はこうした鉄道事業者の活動に任せ、自治体は都市計画の柔軟な変更、事業開発に係る各種規制の大胆な緩和や行政サービスの民間事業者への積極的な開放など、「極力民間に委ねる」ことが必要ではないか。
 鉄道事業者がまちづくりを主体的に取り組む形とすれば、民間のノウハウを生かした高水準な住民サービスが期待できるばかりでなく、広域の取り組みで発生する自治体間の機能重複の調整も自治体同士で行うより迅速になるであろう。経営地盤の強固な鉄道事業者であればサステナビリティも担保できる。行政コストの低減と行政機構の効率化にも貢献すると予想されるなど、自治体、そして住民のメリットは大きいと考える。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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