中国グリーン金融月報【10月号】をお届けします。
1.王の視点
技術力を生かしてグリーン消費を促す
11月11日(以下「ダブル11」という)は、中国で一年に一度のネットショッピングの大イベントが行われる日でした。14年前の2009年、アリババがネットショッピングを推進するため、11月11日零時から大規模なショッピングセールイベントを開催し、大成功をおさめたことから、以来毎年定番となりました。現在では、アリババだけではなく、京東など他のネットショッピング企業も参戦するようになっています。アリババの売上だけを見ると、2009年には5200万元だったものが、2021年には5400億元にまで拡大し、13年間で1万倍の成長を遂げました。
売上高規模の成長だけではなく、近年の「ダブル11」ネットショッピングは中味も変化しています。一つ目は、「国潮」(中国ブランド)が流行りになったこと、もう一つはグリーン消費が浸透しつつあることです。6月18日に開催された京東主導のECショッピングイベントに関しては、今年、ボストンコンサルティングが分析レポートを出しています。その中で、グリーン消費を選好した消費者がそうでない人より一人当たり72%多くの金額を支出し、とりわけ「食・住」を重視する消費者にその傾向が強い、との結果でした。京東のデータによると、618 期間中、4,200 万を超えるグリーンおよび低炭素製品が購入され、3C カテゴリ(コンピュータ、携帯電話などの通信機器、家電)の売れ行きが良かったとのことです。
グリーン消費を中国の消費者に浸透させる過程において、インターネット企業が大きく貢献したことは間違いありません。アリババは今年8月に「88カーボンアカウント」を考案しました。これはライフスタイルと炭素削減を結びつけるアプリです。一つのマスターアカウントにCainiao、Xianyu、Tmallなどのサブアカウントがぶら下がっている構成で、ユーザーはこれらのアプリを利用する際に、削減された二酸化炭素量を収集し、アカウントに炭素クレジットとして登録します。たとえば、食事を注文するときに使い捨ての食器を選ばない選択をする、Cainiao Stationを通じてダンボールをリサイクルするなどの行動を取ると、各アプリのサブアカウントに炭素クレジットを積み立てることができます。最後に、すべての炭素クレジットがマスターアカウントに集められ、各ユーザーの低炭素行動を定量化する仕組みです。これらのクレジットは、ポイントに転換され、アリババが運営するネットショッピングや、ワイマイ、中古品取引プラットフォームなどで使うことができるようになっています。
ネットショッピングや物流、交通系の企業以外にも、銀行や地方政府が脱炭素を推進するために開発したアプリも多数存在しています。例えば上海市政府は「上海グリーン口座」を作りました。アプリをダウンロードし、登録すれば、リサイクルや外出時の低炭素配慮などで自動的にポイントをためることができます。金融機関も同様の「個人炭素口座」のサービスを開始しており、電子決済など低炭素配慮行動を行うと炭素削減のポイントを計算し、様々なサービスに交換することができるようしてくれるのです。
こうした取り組みは、消費者のグリーン生活スタイルの醸成に役に立つでしょう。また、消費者ニーズをデータという形で生産者にも伝えることで、グリーン設計、グリーン生産を促すきっかけにもなるでしょう。
新技術を活用し、脱炭素、グリーン消費を推進するという動きが、一体どこまで浸透するか、どの程度の時間がかかるかは、更に検証しなければなりません。ただ、筆者自身の日常生活でも、関連アプリを利用するたびに、何らかのインセンティブが与えられ、知らないうちに行動様式や意識が変わっていくことを自覚します。長期的に、低コストで、政策目標を実現するためには非常に効果的なやりかただと感心します。
南方週報と小売業界のシンクタンクが共同で公表している「2021年ショッピングモールグリーン消費レポート」でも、回答者の6割以上が「グリーン消費」について知っており、90年代生まれ以降の世代では、「グリーン消費」を支持する意識を持つ層が、79%に達し、他の年齢層よりも大幅に高くなっています。これらの若者を取り込むようなマーケティング戦略が今後の市場の成長を牽引するようになるでしょう。
2.今月のトピックス
【香港取引所】国際炭素市場プラットフォーム Core Climate を立ち上げ
10 月 28日、香港証券取引所は、今後、資金を香港、中国本土、アジア、その他地域の炭素関連商品と結びつけることを目的とした、新しい国際炭素市場取引プラットフォームCore Climate の立ち上げを発表した。Core Climateでは、炭素の回避、削減、除去プロジェクトなど、世界中の国際的に認証された炭素プロジェクトから得られる自主的な炭素クレジットの調達、保有、取引、決済、償却ができるようにする。Core Climateで扱う炭素クレジットプロジェクトには、炭素回避、炭素削減、炭素除去プロジェクトなどが含まれる。また、すべてのプロジェクトは認証取得を前提としており、米国のNPO「Verra」の Verified Carbon Standard (VCS) などの国際基準を満たしていることを要件とする。プラットフォーム参加者は企業または金融機関である。
2022-10-28 香港取引所
https://www.hkexgroup.com/Media-Centre/News-Release/HKEX-Group/2022/221028news?sc_lang=en
コメント:中国においては、カーボンニュートラルの目標を実現するために、莫大な資金が必要で、国際的な資金との連携が避けて通れないのは言うまでもありません。国際資本との連携では、炭素市場の設立が有力と判断され、現在の国内の取引市場に国際資金を導入すること、または国際市場向けの取引プラットフォームを構築することが構想されたのだと思われます。香港証券取引所は、7月に香港国際炭素市場協議会を設立し、香港を「アジアおよび世界の主要な炭素ハブ」として確立すると宣言しています。中国工商銀行など中国系企業などが協議会メンバーに名を連ねています。また、今年3月には、香港証券取引所と広州炭素取引所とが協力覚書に調印し、べーエリアに適した自主排出削減メカニズムを構築することに合意していました。このように、香港証券取引所は、中国と世界の炭素市場との協力を促進し、国内の炭素市場を加速させる役割を担うようになっていくでしょう。10 月 28日、香港証券取引所は、今後、資金を香港、中国本土、アジア、その他地域の炭素関連商品と結びつけることを目的とした、新しい国際炭素市場取引プラットフォームCore Climate の立ち上げを発表した。Core Climateでは、炭素の回避、削減、除去プロジェクトなど、世界中の国際的に認証された炭素プロジェクトから得られる自主的な炭素クレジットの調達、保有、取引、決済、償却ができるようにする。Core Climateで扱う炭素クレジットプロジェクトには、炭素回避、炭素削減、炭素除去プロジェクトなどが含まれる。また、すべてのプロジェクトは認証取得を前提としており、米国のNPO「Verra」の Verified Carbon Standard (VCS) などの国際基準を満たしていることを要件とする。プラットフォーム参加者は企業または金融機関である。
2022-10-28 香港取引所
https://www.hkexgroup.com/Media-Centre/News-Release/HKEX-Group/2022/221028news?sc_lang=en
なお、国内炭素市場と国際炭素市場をつなぐという目的で、今年4月には、海南国際炭素取引センターの設立が許可されましたが、海南国際炭素取引センターは、ブルーカーボン商品を中心とした取引に重点を置いていく市場となる予定です。
【自然資源部】「海洋炭素クレジット算定方法」を公表
海洋炭素クレジットの算定方法に関して、適用範囲、参照文献、用語と定義、海洋炭素吸収能力の評価、付録の 5 つの部分で構成される文書で規定が公表された。海洋炭素クレジットについては、マングローブ、塩性湿地、海草藻場、植物プランクトン、大型藻類、甲殻類などが大気中または海水中の二酸化炭素を吸収および貯蔵するプロセスと定義したうえで、マングローブや塩性湿地などの有する炭素吸収能力を評価した。また、算定方法では、海洋炭素吸収源の算定に関するプロセス、内容、方法、および技術的要件を規定した点が特徴。今回の算定方法の策定にあたっては、海洋生態の保護と修復、カーボンニュートラルの実現について重大な意義を持っていると高く評価している
2022-10-18 Sina財経
https://finance.sina.cn/esg/2022-10-18/detail-imqqsmrp2989486.d.html
コメント:中国では2~3年前からブルー経済、ブルーボンドという言葉が流行るようになりました。ただ、ブルー経済の定義や取り組み重点、諸基準について明確な定めがなく、整備途中にあったということができるでしょう。2019年の「銀行業及び保険業の高品質発展に関する指導意見」において、グリーン金融、気候ボンドなどを推進する中で、ブルーボンドがグリーン金融の一環として初めて提起されました。2020年には中国銀行が銀行間取引市場、中国国内で初めてブルーボンドを発行しました。ただここでも、中国国内での定義と基準がなく、世界銀行のものを参考にして発行した状況でした。2022年7月に公表された「グリーンボンド原則」において、初めてブルーボンドの定義とブルーボンド発行の詳細が明記されました。現時点までには、青島水務、国電電力などの企業から相次いでブルーボンドが発行されています。電力関連会社が発行したブルーボンドでは、洋上風力発電を資金使途とするものが中心です海洋炭素クレジットの算定方法に関して、適用範囲、参照文献、用語と定義、海洋炭素吸収能力の評価、付録の 5 つの部分で構成される文書で規定が公表された。海洋炭素クレジットについては、マングローブ、塩性湿地、海草藻場、植物プランクトン、大型藻類、甲殻類などが大気中または海水中の二酸化炭素を吸収および貯蔵するプロセスと定義したうえで、マングローブや塩性湿地などの有する炭素吸収能力を評価した。また、算定方法では、海洋炭素吸収源の算定に関するプロセス、内容、方法、および技術的要件を規定した点が特徴。今回の算定方法の策定にあたっては、海洋生態の保護と修復、カーボンニュートラルの実現について重大な意義を持っていると高く評価している
2022-10-18 Sina財経
https://finance.sina.cn/esg/2022-10-18/detail-imqqsmrp2989486.d.html
3.今月のニュース
【人民銀行】G20財務大臣/中央銀行総裁会議に出席
同会議では、満場一致で「2022 G20 サステナブル ファイナンス レポート」を採択した。人民銀行トップである易剛氏は、ビデオリンクを通じて会議に出席し、(中国が)の策定を主導することへの支持に感謝し、すべての関係者と引き続き協力することを期待し、G20の作業を促進すると表明した。
2022-10-14 中国人民銀行
http://www.pbc.gov.cn/goutongjiaoliu/113456/113469/4681416/index.html
【生態環境部】「気候変動における中国の政策と行動に関する2022年次報告書」を公表
10月の生態環境部の定例記者会見で、生態環境部は「気候変動に関する中国の政策と行動に関する2022年次報告書」を発表した。2021年以降の中国の新たな展開と実績を整理し、国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)における中国の基本的立場と提案を説明した。
2022-10-27 生態環境部
https://www.mee.gov.cn/ywdt/xwfb/202210/t20221027_998171.shtml
【国家発展改革委員会など9部門】「CO2排出ピークアウト・カーボンニュートラル基準測定体系の確立と改善に向けた実施方案」を公表
適用分野と適用シナリオを中心に、CO2排出ピークアウト・カーボンニュートラルに関する全体フレームワークを構築することを目指すと表明した。
2022-10-22 中国政府網
http://www.gov.cn/zhengce/zhengceku/2022-11/01/content_5723071.htm
【深圳市金融局】金融機関の環境情報開示をさらに改善
深圳金融局などが共同で「深圳の金融機関の環境情報開示に関するガイドライン」を発行した。このガイドラインは、国際的な気候関連の開示慣行に沿って、金融機関がスコープ 1、スコープ 2、スコープ 3 の炭素排出量および投資と資金調達を実施するための会計と開示の要件を提示した。
2022-10-12 上海証券新聞
http://gdjr.gd.gov.cn/gdjr/jrzx/dfjr/content/post_4027245.html
【深圳市】「グリーン・低炭素開発を促進するための広東・香港・マカオ大湾区カーボンフットプリント
ラベル認証構築に関する活動方案 (2023-2025)」を公表
2023年に大湾区で全国初のカーボンフットプリントラベル認証システムを構築し、100製品のカーボンフットプリントラベル認証アプリケーションのデモンストレーションを実用化することを目標とするとした。
2022-10-26 深科信
http://fs.skx.getmind.cn/news/info-news-7942.html
【湖州】初のESGリンク中国シンジケートローンの発行に成功
マイクロマクロパワートレイン(湖州)有限公司は、8億元ESGリンクシンジケートローンを成功裏に発行。シンジケートローンは、中国銀行が主導で、建設銀行、湖州銀行、江蘇省商業銀行が、湖州金融主体ESG結果を活用し、評価した。資金は、年間4GWhリチウムイオン電池・システムの建設に充てられる。
2022-10-27 グリーン金融専門委員会
http://www.greenfinance.org.cn/displaynews.php?id=3892
【中国農業銀行】中国・EU共通タクソノミを踏まえたグリーン金融債の発行に成功
共通タクソノミーを踏まえた最大規模のグリーン金融債券の発行である。
2022-10-24 中国新聞網
http://www.chinanews.com.cn/cj/2022/10-24/9878918.shtml
【WEBank】国連責任銀行原則に署名した中国初のデジタル銀行となる
WEBankは、中国初のインターネットバンクであり、Tencentなどによって設立され、インクルーシブ・ファイナンス、中小企業向け金融サービス、農家向け金融サービスを中心に取り組んでいる。
2022-10-12 中国青年報
https://www.163.com/dy/article/HJFQSILC0514R9KQ.html
紹介した記事の原文は中国語です。内容を日本語でより詳しくお知りになりたい方は、
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