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聴講の間:【情報通信】AR(Augmented Reality)に関する勉強会(2009年2月18日)の紹介


 当『聴講の間』ページに、私たちJRI 日本総合研究所の研究員の社内外におけるセミナー・講演会・研究会などで聴講したものについての、感想やコメントを記したいと思います。
≪担当者のメモ≫山浦康史 〔2009年2月19日(木)〕
「AR(Augmented Reality)に関する勉強会」(K大学大学院 メディアデザイン関係 I氏)
≪ARとは≫
ARとは、サイバースペースに「移住」するのではなく、実空間に情報空間を重畳することで生活空間を豊かにすること

ARの技術や考え方は昔から存在するが、ネットワークカメラの普及、カメラ付きモバイル端末の高性能化、通信インフラの充実など、ARを実現するためのハード面での環境が整ってきたため、ARが今注目され始めている
≪ARを実現する基礎技術≫
例えば、QRコードの大きさが既知であれば、カメラで撮影した時の大きさ、歪み、角度などから、QRコードとカメラの位置関係を計測することができる。

リアルタイムで位置関係を計測し、画像として情報を重ねることで、画面上の現実空間の映像に対して仮想空間の情報を重ね合わせる(実空間へ情報空間を重畳する)ことができる。
現在、ARアプリケーションを簡単に開発できるフリーソフト(AR ToolKit[ARTK])が公開されている

ARTKで作られた有名なアプリケーションのひとつに「電脳フィギュアARis」がある。パターンが印刷されたサイコロ上のものをカメラで撮ると、画面上にメイドの格好をしたフィギュアが現れ、現実空間上でインタラクションができるというもである。1万円という価格でも、初期ロット5,000個が即完売になった程のインパクトがあった。


例えば、同じものをPCの画面上だけで、マウスを使ってインタラクションするのでは売れなかっただろう。しかし、ARによって、自分の机の上に動くフィギュアが来るという仮想空間から現実空間への歩み寄り(稲見氏は2.0から1.5へ降りてくると表現)があったからこそ売れたものである。ここにARの本質の1つを感じることができる。
最近では、QRコードのようなランドマークを置かずに、画像の特徴点を自動的に抽出して、xyz軸や平面をリアルタイムに検知する研究がされている(Parallel Tracking and Mapping[PTAM])。

ラップトップコンピューター程度の計算能力で次のようなことができる。


揺れる電車の中で、机の位置や平面を常にトレースして、グラフィックと重ねる。


日本庭園とシューティングゲームを重ねる(例:ダースベーダーが庭園を駆け回る)。


展示会の会場を一周するだけで、会場の特徴点Mapを作成する。


動物をトレースして、情報を表示する(例:鹿のトレース)。
ハード面では、ヘッドマウントのカメラ+ディスプレイの研究もされている。
≪ARを用いた事例≫
人物を景色と同化させる、透明人間化技術。米軍も興味を示した。
自動車の内壁を透明化して、外部の景色を全面に見せる技術。
途上国等の医師不足の地域で、セルフ注射を支援するために人の血管を浮かび上がらせる技術(Vein Viewer)
モーターショーで、車の内部構造を見せる(米GM社)。
紅茶缶を小人が押しているように見えるアプリケーション。

使いやすさと親しみやすさを与える部分が重要で、応用先としては家電の使用法がわからない時などに、操作方法をわかりやすく説明してくれる等が考えられる。
ロボット開発のために、ヒューマノイドロボットが現実世界をどの様に認識しているかを可視化する技術。
ディスプレイに映し出された仮想サーキットを現実のラジコンロボットが走るゲーム

ロボットだけ、CGだけでは面白くないが、両方あることでエンターテイメント性が生まれている

技術的に複雑で難しい部分をソフトウェア側へ持っていくことで新たな可能性を生み出している。
≪ARの今後≫
今後ARは、「五感への広がり」と、「Augmented RealityからAugmented Realへ」など、よりリアル世界と密接に絡んだものへと進んでいくのではないか。
「五感への広がり」

触覚:触覚拡張技術。


卵の白身だけを切るようにアシストするメス。手術現場に応用可能。


見えない定規があるように振舞うペン。美しい円形を描くことが可能。


光センサーと触覚発生装置。目が見えなくても形を感じることができ、タッチパネル等に応用可能。

嗅覚。


香りを特定の場所にだけ発生させる装置。
前庭感覚インターフェース

電極(低周波発生装置等)により、人に重力を感じさせる。


歩行者を誘導することで、交通事故を回避する。


レーシングゲームで加速度を感じさせる。
「Augmented RealityからAugmented Realへ」

マスプロダクト時代から、誰もが「ものづくり」を行う時代へと変化する


CADデザイン⇒すぐに3Dプリンターで試作する流れにより設計⇒試作⇒修正のサイクルが短くなることによって、ものづくりの考え方に変化が起こるのではないか。


既存のものづくりは、設計段階で(Virtual空間で)最適化を行う。


未来のものづくりは、実物を作りながら(Real空間で)最適化を行う。
≪質疑応答≫
ARの実用化時期はいつごろか。

2世代後の携帯電話端末にはARの技術が入るのではないか。最初はデジタルサイネージ的に入って、ユーザーは広告を見る代わりにパケット代が安くなる等のモデルができれば使うのではないか。
ARは、情報の足し算の側面も重要だが、情報の引き算に興味がある。

情報の引き算に可能性があるのはご指摘の通りと考える。例えば、Googleマップでの航空写真と地図の関係に類似している。情報をシンプルにしすることで、より重要な情報を浮かび上がらせることができる。


ARの例で考えると、例えば鍵を無くした時に、周囲の景色を消して、鍵だけを浮き彫りにさせるようなアプリケーションが考えられるだろう。
ARを使える人と、使えない人との間に格差が広がることについてどの様に考えるか。

ARは現実の世界でインタラクションができるため、使用感が現実空間でのものと近い。むしろ今まで使えなかった人が使えるようになるものと考ている。
前庭感覚インターフェースは面白いが、実際に使われている例や、問題点などはあるか。

前庭感覚インターフェースなどは、短期的には安全であるが、中長期的に安全が確認されているわけではない。ゲームや宇宙酔いを無くすためのものとしては、利用されているが、他の分野ではまだ進んでいない。

行動誘導には、面白い研究が沢山ある。靴底の角度を変えてやることによって、歩く方向を無意識のうちにコントロールする。耳を引っ張ることで誘導する。帽子をコントロールすることで誘導するなどの実験例がある。

新しいメディアにはマイナス面はつきものであるが、最初の段階から制限しないほうがよい。身体的に悪影響が及ぶものはすぐにでも制限しなければならないが、例えば外界の映像を網膜に直接投影する技術などは、目の焦点を合わせる必要が無くなるため、むしろ体に良いとされている。
早く広告に使いたいと考えているが、具体的にどの様にすればよいか。

AR ToolKit[ARTK]はすぐにでも使える。学生にARの課題として出すことはあるが、簡単過ぎて課題にならないくらい使いやすいものである。また、学生が新しいアプリケーションを考えることもあり、アイデアによってはいかようにでも使えるだろう。
≪考察≫
講演の中で出てきたアプリケーション例は、メディアに取り上げられているものも多く、既に知っている部分もあったが、ARの全体像を改めて学ぶことができて、大変貴重な機会であった。
ARに関して、多数のアプリケーションが紹介されていたが、これらのアプリケーションは現実と仮想を現実世界上のどこでつなぐかで分類できるのではないかと考える。図表中の縦軸に実態が存在する場所を、横軸にその実態が具現化される場所を置き、講演中に出てきたアプリケーション等をマッピングした(セカンドライフは例示)。

例えばAR ToolKitを用いたアプリケーションでは、3Dのメイドという仮想空間に存在するキャラクターと、現実世界がディスプレイ上結び付けられてインタラクションできることを示す。
講演中に出てきた順番に並べると(図表下)、よりリアルに近いところへARが発展していくことがわかる。これは講演者のI氏がメッセージ性を出すために意図的に並べたとも取れるが、技術的な成熟度も同様の順番に低くなっていると考えられるため、メッセージは正しいのではないかと考える。

ただし、「物づくり」に関しては、仮想空間上で設計したものが、3Dプリンター等ですぐに実物と結び付けられるという意味はあるが、この本質は物づくりを「仮想空間」上で行うか「現実空間」上で行うのかという思想そのものであり、図表の軸に乗せることが難しいため分けて考える必要がある
図中にもあるように、エンターテイメント性は現実世界と仮想世界とのねじれから引き起こされると考えられる。ここからは、エンターテイメント性をもつ領域と、実用領域で分けて考察したい。
エンターテイメント領域はすぐにでも実用化される見込みがあり、広告ビジネスと親和性がある。

ARを利用したエンターテイメント領域のアプリケーションは既に様々なところで開発されており、簡単なゲーム等であれば技術的に難しくなく、すぐにでも携帯電話のアプリケーション等に載せることが可能だろう

ARは新しいメディアであると考えられるため、セカンドライフが新しいメディアとして登場した時のように広告媒体としては大いに活用できるものであるし、おそらく既に多くの広告代理店は注目しているのではないかと考える。

しかし、エンターテインメント性だけでは、「飽き」がきてしまい、持続的に使用されることは難しく、広告媒体としての価値を維持し続けるのは難しいのではないか(セカンドライフがそうであったように)。今後は、真に役立つアプリケーションを作れるかが課題であろう。
実用分野としてのARに関して、ARの目指す先には自動車、ロボット、医療機器など役に立つ可能性の高い分野が含まれている。しかし、これらの分野は、安全面が最も重要視される分野であり、実験的に多くのアプリケーションが開発されたとしても、実用化はまだ先になるのではないか
【図表】 ARを利用したのアプリケーション例
(出所)各種公開情報を基に日本総合研究所作成
【図表】 AR:Augmented Realityの方向性分析
(出所)日本総合研究所作成

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