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聴講の間:【経営】日経BPシンポジウム「日本を救うイノベーションの力」(2009年4月16日)の紹介


 当『聴講の間』ページに、私たちJRI 日本総合研究所の研究員の社内外におけるセミナー・講演会・研究会などで聴講したものについての、感想やコメントを記したいと思います。

≪担当者のメモ≫山浦康史 〔2009年4月17日(金)〕
≪公演の概要≫
東芝代表執行役社長 西田厚聰氏「イノベーションの乗数効果」

東芝の海外売上高比率は50%を超えたばかりで未だ高いとは言えない。事業によっては85%を超えるようなものも存在するが、社会インフラはほとんど海外展開できていない現状にある。また、東芝にしか作れないというものは10%程度であり、製品の90%はコモディティ化している中での競争と認識している。

西田氏が社長に就任した際に、東芝は「地球内企業」(西田氏の造語)を目指すと発表し、以来、地球環境に対して先導的な立場を取ることを目指している。

イノベーションの乗数効果とは、技術や商品を、「開発」、「生産」、「営業」それぞれの段階でイノベーションを起こして、3乗の効果を得るというものを指し、「iCube」と銘打っている。

東芝内では、イノベーションを体系化するために、イノベーションの事例集「イノベーションブック」を作り、社員に浸透させている。イノベーション統括部がブックを管理している。

経営理念は、社会状況によって変化するものではないが、事業経営とは状況の関数であり、常に変化すべきものである。重要なパラメーターは事業によって異なるため、どう「判断」するかが重要である。


「判断」⇒「決断」⇒「実行」が経営であり、どの要素も重要だが、最初のプロセスである「判断」が最も重要であると考えている。
一休代表取締役社長 森正文氏「一休のビジネスモデル ~ネットとホテルの融合~」

会社設立の経緯、エピソード、苦労などを紹介。

昔日本生命で働いていた時に企業評価を行っていた経験から、急成長した企業は急激に落ちていくことを実感しているため、身の丈に合った成長を目指しているし、今後もそうしていくつもりである。「地方競馬の様に地道に走る」予定。
ナインシグマ・ジャパン代表取締役社長 諏訪暁彦氏「成果のでるオープンイノベーション今の事業環境で国内メーカーができること」

コンサルティングをしてきた経験から、「シーズからニーズを探す」よりも、「ニーズからシーズ」を探す方が効率が良く、成功確率が高いことを実感している。基本的にはニーズを知っている企業が強く、今後も、ニーズを持っている企業がいかにしてシーズを探していくかが鍵となるだろう。

製品の開発サイクルが早まる中で、自社内で全てのシーズを用意することは難しくなってきているため、オープンにシーズを探すことで、「スキル」、「スピード」、「コスト」のメリットを享受できる。

ある企業(P&G社)の研究者が抱えている課題は、世界の研究者の数からして理論的に、数百人程度は同様の課題に悩んだことがあると考えられるため、競合他社は難しいが、技術を提供してもよいと考える研究者は少なからず存在するだろう。

オープンイノベーションは、企業としては外部の技術をどこまで自社に取り入れるか、どう協業していくかの判断(線引き)が難しいことが課題となっている。


最近大企業のR&Dのトップがオープンイノベーションを取り入れたいと相談に来るが、テーマを持ってくるように言うと、1~2ヶ月検討した後に技術を取り入れたいテーマは「無い」とされる例がある。


一般に企業や企業内の研究者はR&Dを全て自前で行うことを前提として考えているため、オープンイノベーションが浸透しにくい状況にある。このため、最初は実験的に導入して小さな成功体験を作ることが重要であろう。
カリフォルニア大学バークレー校教授 ヘンリー・チェスブロウ氏「次世代を拓くオープンイノベーション」

オープンイノベーションがいかによいものであるかを説明。「漏斗」の図を使ってオープンイノベーションを基礎から説明するなど、教科書どおりに自説を展開した。
IBMリサーチ担当シニア・バイス・プレジデント ジョン・ケリー氏「Smarter Planetに向けた研究開発」

ITは、昔は何かの作業を高速化する等、生産性の向上を目的としてきたが、今後はITを使って地球規模の問題解決をしていきたい。


経済、環境、医療、健康、新興国の台頭、不確実性など、世界には様々な問題や機会が散在する。

IBM社はM&Aで様々な機能を集約・強化してきた経緯があり、現在は、事業70%がサービス・ソフトウェアである。

大企業のCEOは、自社のコア技術のR&Dよりも、コラボレーションやパートナーシップからアイデアを出していきたいと考えている。

現在、IBM社を中心としたコラボレーションを前提とするエコシステムを作ろうとしている。


コラボレーションはメリットの共有が前提であり、ゼロサムゲームではない。

IBM社はコラボレーションにより、様々な分野の研究を行っている。


事例の紹介:医療、健康、石油、インテリジェント課金システム、DNA判別等。
日本電気取締役会長 佐々木元氏「オープンイノベーションと組織・・・・風土改革をどう進めるか。」

日本におけるオープンイノベーションとして、日本電気(NEC)の事例を紹介。
≪パネルディスカッションの概要≫
司会     :日経ビジネス編集長 寺山正一氏
パネリスト :ヘンリー・チェスブロウ氏、ジョン・ケリー氏、佐々木元氏
金融危機の中で、企業が危機的状況にある中で、なぜ今オープンイノベーションなのか。

チェスブロウ氏:危機の感覚があるからこそ次を模索すべきであるし、今だからこそできるだろう。


半導体は、不況の時に逆張りした国が勝ってきた。景気が回復した時に準備ができてない企業は負けてしまう歴史があるため、不況だからこその投資が必要ではないか。
かつては全てIBM社でR&Dをしてきた中でオープンイノベーションにするのは困難だったのではないか。

ケリー氏:例えばLinuxの例で言うと、昔は自社仕様のOSが4種類程あり、多くの開発費を掛けてきたが。しかし、Linuxが出た時に、学生が暇な時に作った様なOSに対して数十億ドルの開発投資を行った。


馬鹿げているとの見方もあったが、サービスはOSに乗るものであるから、オープンなOSを使い、業界全体が盛り上がることが重要であると考えた。また、顧客に目を向けると、オープンなOSと言えど、カスタムソリューションは必ず必要だという分析をした。


10年前に比べるとNIH(Not Invented Here)症候群はなくなってきたように感じる。
NECとしてはなぜオープンイノベーションなのか。

佐々木氏:ライフサイクルが早まっていることが大きな原因である。付加価値を生まない仕事を減らすことで、R&Dに必要な原資を確保できる。また、Time to Marketを短くできる。
社内のR&D打率を上げるにはどうすればよいか。

ケリー氏:各チェックポイントでの判断基準をしっかりと持つことが大切である。ただ、最終的には直感的なものも重要となってくるだろう。

佐々木氏:一見すると製品化につながらないような技術でも開発を続けることが重要である。


例えば、磁性材料の研究はアナログ通信からデジタル通信に移行する際に重要性が低くなった。しかし、研究を続けていたら、その技術が最近リチウムイオン電池の開発に役立ったという例がある。
オープンイノベーションはリストラに直結しそうであるが、外部の導入とリストラは不可分ではないか。

チェスブロウ氏:オープンイノベーションはアウトソースではなく、R&Dのレバレッジとなるものであるため、むしろインソースだと考えてよいだろう。
日本の半導体が落ち込んでいる理由は何か。

佐々木氏:日本の半導体メーカーは、垂直統合型であり、水平分業の流れに乗れなかったのが原因だと考えている。現在はファブレスとファウンドリーの組合わせで成功している企業が多いが、ファウンドリーは台湾に独占されている。

日本の半導体が復活するために、今後は専門性をいかに高めていくかが重要である。DRAMはエルピーダメモリ、フラッシュは東芝に集約されているが、システムLSIの分野でもそれが求められるだろう。


専門性が無いとオープンイノベーションにも参加できないだろう。
≪感想≫
シンポジウムの後半は「オープンイノベーション」に特化したテーマとなっていたが、中身はR&Dをオープンに行う狭義の意味での「オープンイノベーション」ではなく、コラボレーションや、水平分業モデルなど、ビジネスモデルとしてのオープン性についても語られており、バランスが取れていた様に思える。

実際には、バランスが取れているというよりも、混同していて整理されていないまま議論が進んでいる印象を受けた。
ヘンリー・チェスブロウ氏は、アカデミックに持論を展開しており、司会の(意地悪な)質問の意図とは関係ない回答をしていた。これは、欠点をわかっていないというよりも、おそらくオープンイノベーションが浸透しているとは言えない現時点では、オープンイノベーションの利点を強調することが仕事であり、欠点を正直に披露する場面ではないと考えているのだろう。
一方でジョン・ケリー氏はビジネスをわかっている様子で、時折(意地悪な)質問の答えに窮する場面もあった。
「オープンイノベーション」は利点がはっきりしているため、今後も普及していくだろうと考えられる。しかし、「オープンイノベーション」を深く取り入れているP&Gの様な企業は未だ希少であり、これから普及が進むにつれて、問題点が浮き彫りになってくるのだろうと考える。

しかし、問題点が見えてこないとはいえ、諏訪氏が述べている「小さな成功体験」を試験的に今から作っておき、「オープンイノベーション」を取り入れることもできるし、クローズにすることもできるという体制を整えることが重要ではないか。

また、「オープンイノベーション」を唱えている教授ですらオープンにする対象を混同しなから話していることを見ると、「オープンイノベーション」の再整理を行い、利点や欠点を場合分けして考える必要があるのではないかと考える。
≪議論内容≫
ミクロ経済の観点ではイノベーションも大切だが、今般の経済状況においては、まずマクロ経済の観点から経済を浮揚させなければならない。

マクロ的に経済が浮揚しなければ、例え個々の分野でイノベーションが起きたとしてもインパクトは小さいものとなってしまうだろう。
オープンイノベーションで産業構造が変わってしまうものもあれば、そうでないものもあるだろう。

メインフレームからオープンアーキテクチャーに移行した時の様に、大きな変化が起こる場合もあれば、業種によっては無意味なものもあるだろう。

オープンイノベーションと知財の関係も整理したい。製薬業界は知財戦略が重要であり、そのような分野とオープンイノベーションは親和性なども分析すると良いだろう。

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