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聴講の間:【経営:IT】「知識ベース社会構築の考え方」に関するセミナー


当『聴講の間』ページに、私たちJRI 日本総合研究所の研究員の社内外におけるセミナー・講演会・研究会などで聴講したものについての、感想やコメントを記したいと思います。
≪担当者のメモ≫今井孝之 〔2009年5月18日(月)〕
「ナレッジベース社会・経済の実現のためのフレームワーク~ICTの今後顕在化していく諸課題解決に向けて~(第3回)」

主催 :世界情報基盤委員会フォーラム(GIIC)、世界銀行、日立製作所

協力 :日経デジタルコア

日時 :2009年5月15日(金) 午前9時~午前11時
≪位置づけ≫
イントロダクション:大森功一氏(世界銀行 広報担当官)

世界人口は、2008年67億人から2050年には92億人に。こうした人口を支えるインフラとしてICTが鍵に。92億人への貢献という観点から検討することが必要。
セミナー説明:梶浦敏範(日立製作所 情報・通信グループ担当本部長)

4回シリーズ(半年に1回のペースで約1年半実施)。

第3回テーマ:知識ベース社会構築の考え方~社会常識の転換は必要か~


①事前規制から事後規制へのスタンスの転換、②供給者側の論理から受給者側の論理への転換、③知識構造化を要する分野と構造化が発展を阻害する分野、④リアル社会とサイバー社会との調和。
≪スピーチ≫
スピーチ①:渡辺洋之氏(日本経済新聞社 デジタル編成局次長兼編成部長)「知識ベース社会構築に対し浮上してきた新たな課題」:メディアの立場としてコメント(日経新聞におけるネット事業の責任者として)。

知識ベース社会が成立する条件:


情報に対する信頼性の確保:“間違った情報だらけ”では知識ベース社会は成立しない。


情報の流通を阻害させない:“情報があっても、それが“流通”しなければ、知識ベース社会は成立しない。

情報の信頼性の危機:


メディアの衰退がもたらす信頼性確保の危機:メディアの特徴は、正しさを「検証する力」と、正しさを追いかけ続ける「継続性」


誤った情報があっという間に広がる危機:システムの進化、ネットワークの普及、ネットメディアの普及による。

新たな情報流通の阻害要因:


情報に対する新しい権利主張:インタビューされる側の権利主張。「サイト上の行動履歴の利用」の権利主張。


新しい技術・サービスがもたらす新しいプライバシー問題:コミュニティ・ID相互連携、検索技術進化により、匿名発言者が特定されやすく。

信頼される情報を確保する仕組み、新たな情報の阻害要因を整理することが重要。
スピーチ②: 横江公美氏(パシフィック21代表(兼ジャーナリスト))「オバマ大統領が目指す知識ベース社会」

Transparency(透明性)、Open governmentがキーワード。4つの取り組みを紹介。


①Change.gov:大統領移行期にもサイトを立ち上げ。Tansition team、Petition(陳情書)等も公開。


②Presidental Memoranda 1/21:方針(120日以内に公開)、Freedom of Information Act(新技術を用いて情報公開法取り組みを強化)。


③Whitehouse.gov:従来サイトを強化。時系列で演説を公開。


④Recovery.gov:新規立ち上げ。サイトの役割(Education、Transparency、Accoutability)を明記。
スピーチ③:松山泰浩氏(経済産業省商務情報政策局情報政策課企画官)「知識経済社会における新たな制度パラダイムの構築について」

「情報」と「経済」の関係性:①インターネット社会は実社会の一部、②インターネット社会にアクセスするためには何らかのデバイスが必要。

新たな制度が必要ないくつかの側面:


①サイバー空間を取り巻く市場設計の考え方:イノベーションを促す仕組み、需要側の選択可能性の確保(選び、選ばれる関係)、プラットフォーム型ビジネスの困難さ(重層的なプラットフォーム構造、独占禁止法の解釈)、エンフォースメントの難しさ(国際展開事業者を特定国での展開を抑止できるか)。


②リアルとサイバーの関係性(“総務省の範疇ではあると考えられる”という旨コメントあり):ネットインフラ事業とサイバー事業の関係(インフラ事業者がネットサービス提供してよいか)、デバイス製造業とサイバー事業の関係(特定デバイスのみでサービス提供してよいか)。


③著作権の取り扱い方:著作権法の設計の正しさと困難さ(非常に正しい法律だが使う段階では難しい)、著作権カプセル化制度の必要性、流通するコンテンツとプライバシーの関係(防犯カメラ等、著作権とプライバシー問題は明確に分けて取り扱うべき)。


④利用者と事業者の責任設定の仕方:違法行為可能化責任の問い方と範囲(現在はユーザーを法律で縛るのは困難)、有害コンテンツ規制と表現の自由との総括、利用者責任の問い方~スリーストライク制の是非(違法な著作権侵害ファイルを交換したユーザーが三回警告を受けたらインターネット接続禁止、フランスでも施行の方向)。

社会制度の変容のあり方:


制度観の変容が必要なのではないか:“禁止”と“許可”の間に、“推奨”等を設けるなど。


国際協調の必要性:1国ではエンフォーメントが困難。


インターネット自体の変容は是か非か:インターネット(世界で1つ)の上に重層的に異なるプラットフォーム(国境を作る)を構築する等。
≪パネル討論≫
上記スピーカー並びにバレリエ・デコスタ氏(世界銀行InfoDevプログラム・マネージャー)。

モデレーター:梶浦敏範氏。
メディア関連:

新しいメディアの役割、突破口となるものは何か:コスト回収できるだけの新しい仕組みが必要。


例えば、米国では地方の新聞社が潰れている。代わりの情報は提供されておらず失われた情報がある。


誰のための何の情報なのか、コストパフォーマンスはどうか、といったバランスが必要。

既存メディアが正しい情報を持っているというのは幻想。情報にフィルタがかかっている


日経記事を見てもソースは分からない。間違っている情報と正しい情報を判別できるような情報を提供していくことが求められているのではないか(ソースへの独占アクセス権を手放すべきではないか)。


既存メディアは情報保証のための努力を継続して行っていることが価値ではないか。

初期インフラコストがかかり、リーチ当たり単価が低いため、電子メディアで利益を出すことは難しい。
持続可能なICT普及に必要な要件〔デコスタ氏〕:①政府のコミット、②適切な環境整備(民間の適切な競争環境)、③グリーンICT(バランス評価、電子メディアの有用性等)、④国際協力、デジタル連帯。

政府のコミットは、②の環境整備に限定すべきであろう。ICT産業が発展すれば他産業への負の影響も考えられるため、政府が特定分野に投資するといった動きは望ましくないのではないか〔境氏〕。
政府の取り組み:

米国では情報公開法が1966年から施行されており公的機関の情報公開が定着している(メディア、研究者による情報公開請求も厳しい)。


情報公開の対象外となる内容も明確に定められている(安全保障関連、資源関連、ソース(情報提供者の安全確保))。

事前把握は難しいのでやはり事後規制。当初から国境がある前提でプラットフォームを構築するのではなく、問題が出てきたら、国境を設定していくという重層的な構造になるのだろう。
権利関連:

共有権(Reference Right)という概念が必要ではないか。現在は双方向の仕組みになっていない。


権利の双方向化には、制度面だけでななく技術面でのサポートが必要だろう。


著作権法の上に適用ルールを作っていくように、インターネットの上に権利を保護できるプラットフォームを構築し多重複数の仕組みを選択できるようにすることが必要だろう。

基盤の匿名性、コンテンツの匿名性は異なる。技術的にコンテンツの匿名性を保証することは可能。


ユーザーは知らないで利用しているケースが多いので、論点を整理して適用していくことが重要。
国際協力関連:これからインフラを整備していく途上国としては、ICT利用の費用対効果の情報を知りたい。

例えば、フィジーでは、日本の3分の1程度しかネットワークが普及していない。このような状況下で、電子メディアの効果を測定できるか。

コスト面だけではなく、環境面での費用対効果も検討するべきであろう。
≪所感等≫
既存メディアに関する議論が興味深かった。

既存メディア側の主張(努力と継続性)、ソースへの独占アクセス権という現状、既存メディア内における議論、既存メディア視点での費用対効果問題等。
政府の役割(経済産業省所属の一個人の意見ベースで)についての議論も興味深い。

事後規制という基本方針、総務省と経済産業省の立ち位置の違い・協調可能性、特定分野投資に関する考え方等。
発展途上国におけるインフラ整備については今後も検討が必要だろう。

世界銀行の位置づけ、先進国・グローバル企業による支援のあり方、環境面評価の意義等。
≪議論内容≫
既存メディアの衰退の原因についても考慮が必要ではないか。

マスコミの主張する情報の“正しさ”について十分に理解することが重要であろう。
インターネット社会、知識ベース社会における、“独占”について十分に考慮することが必要であろう。

プラットフォームをグローバル展開するような企業に情報が一括管理される意味を考えるべきである。

報道は、公益性の観点も重要であり、資本の論理で全て解決できるものではない


地方の新聞社が潰れるといった事例は、情報の多様性の観点から、危惧すべき事態であろう。

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