コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

コラム「研究員のココロ」

Dead or Renewable
~再生可能エネルギーの時代へ~

2007年11月19日 三木優


1. 地球温暖化により伸びるビジネス

 地球温暖化はIPCC(注1)の報告により科学的な見地から今現在、既に起きている事が確認され、政治的にもサミットの場で平均気温の上昇を危険領域である2℃以下に抑えるために2050年に温室効果ガス排出量を50%以下にする事について合意形成が図られている。このように地球温暖化は「今、そこにある課題」として単なる環境問題を超えて社会経済へ大きな影響力を及ぼすテーマとなってきており、ビジネスへも様々な形で影響を及ぼし始めている。
 「地球温暖化」という単語を聞くと「排出権」や「不都合な真実」などの単語を思い浮かべる方が多いと思う。ビジネスへの関わりを前提とするとキャップ・アンド・トレード(注2)による排出権取引や温暖化による異常気象など企業にとって負担やリスク要因となる印象を与える単語が多い事は事実である。しかし、世界に目を向けると地球温暖化をキーワードに大きく業績を伸ばしているビジネスがある。

2. 勝ち組:ドイツ・負け組:日本

 2005年は日本政府の太陽光発電関係者にとって衝撃的な年となった。2005年末における太陽光発電設備の累積設備容量はドイツ:157万kW、日本:141万kWとなり、長らく守り続けてきた累積設備容量世界一の座をドイツに明け渡す事となった。
 日本の太陽光発電設備の導入は、1994年に政府が始めた住宅用太陽光発電設備を対象とした設備費用の数割から半額を負担する補助事業が牽引してきた(本事業は2005年度に終了)。ただし、政府が半額を負担したとしても太陽光発電設備は高額であり、系統電力と比較して割高な電源である事には変わりなく、一般家庭(自腹を切って割高な電源を利用)と電力会社(一般家庭の余剰電力については23円/kWh程度で無制限に買取)のボランタリーな取組に支えられた世界一であった。なお、ボランタリーかつ補助金の範囲内ではあったが、このスキームがシャープや京セラなどの太陽電池メーカーを育てる事につながり、日本に再生可能エネルギー産業を芽吹かせた事は事実である。
 一方のドイツは日本とは全く異なったアプローチによって短期間に大容量の太陽光発電設備の設置を進める事に成功している。ドイツでは太陽光発電設備により発電された電気を電力会社が通常売電価格の数倍の固定価格で買い取る制度(再生可能エネルギー資源に優先権を与える法律)を2000年(2004年7月に大幅改正)から始めており、規模や設備の設置場所により異なるが50~70円/kWhという太陽光発電設備の導入コストに見合う価格で電気の買い取りがされている。日本ではボランタリーな取組となっている太陽光発電設備の導入が、ドイツでは十分に商業的に成り立つ「発電事業」として展開されており、特に2004年7月改正により規模や買い取り量の制限が無くなった事で爆発的に太陽光発電の導入が進む事になった。風力発電も同様に固定価格での買い取り制度が導入されており、2006年末には2,000万kWを超える累積設備容量となっている(日本は2007年7月末で149万kW程度)。
 ヨーロッパではドイツ以外にもスペインやデンマークなどの再生可能エネルギーからの電力を固定価格で買い取る制度を導入している国では、事業採算性に優れる風力発電が大規模に導入されている。また、米国でも2005年以降、急速に風力発電の導入が進んでおり、2006年の1年間で245万kWの風力発電が設置されている(人口・面積が全く異なっているが、日本の累積設備容量と比較して頂きたい)。

表2006年における国別の風力発電累積設備容量と年間増加量

出典:BTM,2007;AWEA/GEC dataset for U.S. cumulative capacity



 現在では、ヨーロッパにはシャープ・京セラ等の日本の太陽電池メーカーが作った太陽電池の2/3程度が輸出されており(需要が旺盛な上に日本国内で売るよりも高く売れる)、風車メーカーにおいては需要に対して製造が全く追いついていない状況になるなど、日本国内における再生可能エネルギーの状況と世界におけるそれは全く正反対となっている。少し前に流行った言い方をすれば再生可能エネルギーにおいては日本は完全に負け組になりつつあると言える。
 再生可能エネルギーの導入において、同じような面積・人口の日本とドイツでこのような差が付いた表面的な理由は制度設計(固定買取制度かRPS制度か)であることは明白であり、その他にも税制優遇や再生可能エネルギー利用の奨励策の差、電力会社の再生可能エネルギーに対する評価(天然ガスと石炭の価格上昇リスク、原子力発電等の大規模プラントの稼働遅延・停止リスク、化石燃料の供給に関する不確実性等を加味して既存電源と比較しているか等)が影響を与えている。

3. 2020年までに温室効果ガス排出量を20%減らすには

 再生可能エネルギーは太陽光や風力など不安定な自然のエネルギーを集めて利用しており、不安定さに起因する周波数変動(注3)が起きる事で電力系統に悪影響を及ぼす電源である。そのため再生可能エネルギーを電力系統に接続する場合、系統の管理者(日本の場合は電力会社)が再生可能エネルギーにより引き起こされる需給バランスの崩れを調整していく必要がある。ヨーロッパや米国がこのような「使いにくい電源」をあえて優遇し、積極的に導入している背景にはやはり「地球温暖化」がある。
 日本やEUは京都議定書により2008年~2012年の5年間の平均で1990年と比較して温室効果ガスを-6%と-8%の水準まで減らさなければならない。そのために省エネルギーにより化石燃料の使用量を減らしたり、CDM(注4)プロジェクトから発生する排出権を買ってきて自国の温室効果ガス排出可能量を増加させる取組を行っている。日本は現状のままでは-6%の目標達成が難しい事が明らかになっており、産業界の追加的な削減努力や排出権購入量を増やす事で対処していく事が大枠として決まっている。ヨーロッパについても同様であり、燃料転換・省エネルギー・排出権により-8%の目標達成を目指している。日本が目標達成出来るか否かは現時点ではわからないが、少なくとも「今までのやり方」でなんとか目標達成に近づける事は事実である。しかし、この目標が20%の削減になったらどうなるだろうか?
 産業界は京都議定書の-6%の目標について過去の省エネルギー努力を無視した不平等な目標としている。これは言い換えると「やれることはほとんどやっており、経済性を考慮すれば可能な対策は限られている。したがって、目標を達成しようとすれば経済性のない省エネルギーの推進が必要であり国際競争力が低下する」と言う事である。そのような状態から更に14ポイントも温室効果ガス排出量を減らす事は「今までのやり方」では非常に難しいと思われる。ヨーロッパも状況としては多少、マシな程度であり、-8%の目標達成は比較的容易であったものの次の-20%はEUの政策担当者自身も挑戦的な目標であるとしている。
 このような状況において日本からは長期的な視点に立った明確なメッセージは発せられていない。一方、ヨーロッパからはシンプルで確実に効果のある施策が示されている。それは「2020年までにEU全体のエネルギー消費量における再生可能エネルギーのシェアを20%にする」と言うものである。2020年に20%の再生可能エネルギーを導入する事により1990年基準で17.6%に相当する温室効果ガス排出量が削減可能であり、温室効果ガス排出量削減目標の達成に大きく近づく事が可能になる。ヨーロッパにおいて「使いにくい電源」である再生可能エネルギーが優遇され、かなりの勢いで導入が進んでいる背景にはEUの2020年とその先を見据えた戦略があり、「今までのやり方」では抜本的な温室効果ガス排出量の削減が不可能である事へ一つの処方箋を示している。

4. ヨーロッパのしたたかさ

 ヨーロッパにおいて再生可能エネルギーが大きく盛り上がっている理由は、温暖化対策という高邁な理由以外に純粋に再生可能エネルギー産業育成の側面もあると思われる。現在、世界の風車メーカーは最大手のデンマーク:VESTASを筆頭にスペイン:GAMESA米国:GE Wind、ドイツ:ENERCONが4強となっている。日本勢では三菱重工業が唯一頑張っているものの、世界的なシェアで見れば圧倒的に小さい(ただし、海外における三菱重工業の評価は高く、一部の国ではシェアを伸ばしつつある)。有力な風車メーカーが立地する国は全て国内に大規模な市場を持っている国であり、風力発電の導入がメーカーを育て、メーカーの技術開発・コストダウンが風力発電の導入を促進するという好循環が生まれている。
 日本が圧倒的に強かった太陽光発電については、急速に国内市場が大きくなっているドイツにおいてQ-Cellsが生産量を急増させ、2005年にはシェア2位まで上ってきている。ヨーロッパ市場の強い需要を背景に生産コストの安い中国・台湾のメーカーも急速にシェアを伸ばしてきており、これらのメーカーにはヨーロッパから資金あるいは技術が供与されているケースが多い。

図 風車メーカーの2006年におけるシェア(設備容量ベース)
図 風車メーカーの2006年におけるシェア(設備容量ベース)
出典:BTM Consult ApS 2007年3月 プレスリリース



表 太陽電池メーカーの2003~2005年度における生産量とシェア(設備容量ベース)
図 風車メーカーの2006年におけるシェア(設備容量ベース)
出典:太陽光発電システム市場の将来展望



 このように風力発電については容易に逆転できないほどの差が付く状況にあり、太陽光発電については、一足飛びにドイツ・中国・台湾のメーカーが日本のメーカーに追いつこうとしている。再生可能エネルギーを産業として考えれば、巨大な市場に裏打ちされたヨーロッパの企業に勢いがある事は明白であり、太陽光発電についても数年後にはドイツのメーカーがシャープを追い抜く事態が -数年前は到底考えられなかった事ではあるが- 起きても不思議はない状況にある。「再生可能エネルギーの導入を進めることで再生可能エネルギー産業の競争力も強化する」、それがしたたかなEUのもう一つの狙いである。

5. Dead or Renewable

 日本だけを見ていると政策的に再生可能エネルギーを大規模に導入して行こうとする仕組みも目標もない(RPS法により電力会社に対して再生可能エネルギーを電力消費量の一定割合(2010年:1.35%、2014年:1.63%)利用しなければならないという義務目標は存在している。EUの目標は全エネルギー消費量の20%である)ことから、再生可能エネルギーが大きなビジネスに繋がるという認識を持っている人は少ないと思う。しかし、これまでに述べたように温室効果ガス排出量について、2020年に20%減、2050年に50%減という目標を達成しようと思えば、「今までのやり方」である省エネルギーだけでは難しく、ましてや排出権を途上国から買って手当することなど不可能である。再生可能エネルギーは温室効果ガスが排出されないエネルギー源であり、長期的に温室効果ガス排出量を減らしたいのであれば、その導入量を飛躍的に増加させていく事が有効である。また、世界規模で再生可能エネルギーの需要は高まっており、21世紀の産業としても重要なセクターである。
 筆者は日本がこのまま再生可能エネルギーに後ろ向きな状態を続けていた場合、この分野ではヨーロッパ等に圧倒的な差を付けられ「死」が待っていると考えている。しかし、太陽光発電の様な日本のメーカーが強い分野を中心に大規模な再生可能エネルギーの導入と産業育成を行う事で十分「再生可能」であると考えている。2020年まで残された時間を考えると今がDead or Renewableの分岐点にあると思われる。

6. 再生への道

 再生可能エネルギーを大規模に普及させていく方法としてドイツ等の固定買取価格制度は1つの有力な手段である。しかし、日本ではRPS法の制定時の議論などをふまえると固定買取価格制度は受け入れがたい人々がいるようで、固定買取価格制度にこだわると前に進めない状況にある。日本において再生可能エネルギーを普及させて行くには「受け入れがたい人々」にも妥協してもらえる仕組みを考える必要がある。
 その方法についてはまた別の機会にしっかりと説明したいと考えているが、以下の5点がそのエッセンスである。

  • 再生可能エネルギーの系統への接続に制限を設けない

  • 需要家の屋根や敷地に再生可能エネルギーを設置し、そこから需要家に電気を売る「再生可能エネルギーによるオンサイト発電」のビジネスモデルを構築する

  • 上記のビジネスを行う会社には電力会社が資本参加する

  • 系統の強化や既存電源とのコスト差など再生可能エネルギーの導入によって発生するコストは透明化を前提に全需要家が負担する

  • メーカーやオンサイト発電会社等の再生可能エネルギーに関わる企業・組織へ個人・企業・金融機関の資金が流れる仕組みを作る

 ドイツの再生可能エネルギーの普及を初期において支えたのは、退職金の投資先を探していた個人投資家達であり、法律による固定買取価格制度があった事で他の金融商品と比較しても十分に魅力的な投資先であった。現状ではファンドや機関投資家などの投資のプロが主要な資金の供給源となり、巨大化する再生可能エネルギービジネスを支えている。
 日本においても個人や企業、金融機関の資金が再生可能エネルギーへ向かうような政策とビジネスモデルを構築する事が出来れば、再生可能エネルギーが「再生する」道が見えてくることになる。そして中長期的な日本産業界の競争力を考えれば、再生可能エネルギーの「再生」が競争力の向上に大きく寄与すると信じている。


注1 IPCC:

正式名称 Intergovernmental Panel on Climate Change。気候変動の専門家により構成される政府間パネル(政府間機構)。地球温暖化についての科学的な研究を進めるために国連環境計画(United Nations Environment Programme:UNEP)と世界気象機関(the World Meteorological Organization:WMO)が1988年に共同で設立。


注2 キャップ・アンド・トレード:

二酸化炭素排出量の削減方法の一つ。各企業あるいは事業所単位で1年間に排出できる二酸化炭素量に上限値(キャップ)が設けられ、それを達成できない場合は罰金等の罰則が科せられる。補完的な仕組みとして、上限値まで二酸化炭素排出量を減らすことが出来ない企業は、他の企業から排出権を買って(トレード)自社の上限値を引き上げる事が出来る。理論的には最小の費用で目的とする二酸化炭素削減量が達成できる。一方で、どのように決めても上限値を巡って企業・事業所間に不公平感があるなど制度としての課題も指摘されている。


注3 周波数変動

交流電力の周波数(日本では地域により周波数が異なっており、東日本:50ヘルツ・西日本:60ヘルツとなっている。いわゆる「電力の品質」は周波数変動を指すことが多い)が需給バランスの変動により影響を受けて変化する現象である。


注4 CDM

Clean Development Mechanism:クリーン開発メカニズム。京都議定書の中で定められた温室効果ガス削減手法の一つ。先進国の資金・技術を使って発展途上国において温室効果ガス排出量を削減するプロジェクトを実施することで、先進国が排出権を得ることが出来る仕組み。
経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ