コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

国際戦略研究所

国際戦略研究所 田中均「考」

【毎日新聞・政治プレミア】「法の支配」から「力の支配」へ そして米国離れが進む

2025年08月13日 田中均・日本総合研究所国際戦略研究所特別顧問


 ロシアは安保理常任理事国としての自らの責務を投げ捨て、ウクライナを侵略した。プーチン大統領は、一方的に併合宣言をした東南部諸州を諦めることはしないだろうし、ウクライナも領土割譲に甘んじることはないだろう。ロシアの行動は侵略戦争を禁ずる国連憲章に違反する。

 直接的な原因はハマスによるテロにあるにせよイスラエルはガザに仮借ない攻撃を加え、6万人を超すといわれる民間人犠牲者を生んでいる。ネタニヤフ首相はガザの全面的支配を目的にさらに攻撃を加えることを検討していると伝えられる。イスラエルは自衛権の発動と説明するが、民間人の殺りくは国際人道法に反する。

 米国はイラン核施設を空爆した。先制攻撃であり、イスラエルとの集団的自衛権に基づくという説明は難しい。いずれの攻撃も国際法との整合性には大いなる疑義があり、近年いろいろなフォーラムで宣言されてきた「力による一方的な現状変更は認められない」という国際的規範をないがしろにしていることは明らかだろう。

国際安全保障体制は崩れつつある

 第二次大戦後の安全保障体制は国連の集団的安全保障体制と北大西洋条約機構(NATO)の集団的自衛体制、そして日米、米韓などの米国との2国間安全保障体制で成り立ってきた。ただ実質的には、いずれも圧倒的な米国の軍事力に支えられた体制だった。他の諸国による攻撃を未然に防ぐための「抑止力」と実際の攻撃に対抗する軍事力はいずれも米国頼りだった。

 ところが今日米国が海外に戦闘目的で兵力を派遣する意図は大幅に薄れ、現状変更を押し返すための軍事力行使の蓋然(がいぜん)性も低下した。最後の例はクウェートを侵略したイラクを追い出した1991年の湾岸戦争だったのだろう。米国が軍事力に代えて武器としようとしたのは経済制裁だが、グローバリゼーションが進んだ世界において制裁の実効性は大きく落ちる。

 トランプ米大統領が好むのは「ディール(取引)」である。「米国の力」を背景に取引を迫るもので、そこには「正義」はなく、あるのは「損得」である。商業取引と同様と考えているのだろうか。

....

続きは、毎日新聞「政治プレミア」ホームページにてご覧いただけます。
https://mainichi.jp/premier/politics/田中均/
国際戦略研究所
国際戦略研究所トップ