国際戦略研究所 田中均「考」
【毎日新聞・政治プレミア】参院選が日本を変える 大連立への道
2025年07月10日 田中均・日本総合研究所国際戦略研究所特別顧問
選挙である。私たちが国政に参加する貴重な機会だ。2012年に自民党が政権の座に返り咲いて過去10年余の政治は日本を前進させたか。
残念ながら経済統計の国際比較を見れば、ほとんどすべてで日本は先進国の劣等生へと転じた。国内総生産(GDP)では日本は長く続いた世界第2位の座を10年に中国に明け渡して以降、ドイツに抜かれ、今年はインドにも抜かれ世界5位にまで転落するのだろう。
1人当たり国民所得に至っては、日本は韓国にも抜かれ世界37位に低迷している。労働生産性も低いままだ。IMD(国際経営開発研究所)の世界競争力ランキングでは経済状況、政府の効率性、ビジネスの効率性、インフラという4要素を勘案されるが、日本は24年に38位という過去最低のランキングにある。
唯一、日本が他国を圧するのは公的債務の大きさであり、今やGDPの237%という突出した債務を抱えるに至っている。
財政は先進国にとって統治の規律を示す重要な指標だが、日本は政府が借金を重ねて歳出を拡大しても経済指標は一向に良くならない。経済指標だけではない。男女間の平等を示す「ジェンダーギャップ指数ランキング」では25年に日本は148カ国中118位となっている。
このような経済・社会指数の世界ランキングで示される日本の凋落(ちょうらく)は政治の貧困に基づくとしか考えられない。良き統治が行われるためには政治家と官僚の役割分担が必須であるが、人事院発表では25年のキャリア官僚志望者は3割減り、採用されて10年で23%が退職しているという。
他方、国会議員の所得に関する英国調査会社の調査によれば、日本はシンガポール、ナイジェリアに次いで第3位、各種手当を含めた所得総額では世界最高レベルになるという。高い所得を得ても「政治とカネ」の問題が自民党政治についてまわる。
官僚は国会議員の激しいハラスメントを受け、働きがいが著しく低下している。これは長く政権の座にいる政権与党の失政以外の何物でもあるまい。
我々の「怒り」を選挙にぶつけなければいけない。政治に対する失望感が強く、投票所に足を運ばない、といったことがあってはならない。また、その怒りが近年顕著になっている「ポピュリスト」、右派政党に向かうことは大きな懸念だ。外国人排斥につながりかねない政策を掲げる政党や、とにかくバラマキを主張する無責任な政党への投票は日本のゆがんだ政治を正すことにはならない。参院選後に政治を安定させ長期課題に取り組むことを可能にする政党への投票が望まれる。
現状では大連立が唯一の解だ
本来であるならば、政権交代が正しい選択肢なのだろう。しかし、参院選で政権与党が敗北しても、野党各党が結集できる見通しはないし、仮に政権交代となっても日本が抱える基本的な課題に思い切って取り組めるような安定的多数による政治とはならない。
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