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国際戦略研究所 田中均「考」

【毎日新聞・政治プレミア】韓国李政権の誕生と新たな日韓関係

2025年06月11日 田中均・日本総合研究所国際戦略研究所特別顧問


 韓国で李在明(イ・ジェミョン)大統領が就任し、保守から革新への政権交代となった。報道では反日政権の誕生だといった極端な見方もされることがあるが、今日の朝鮮半島情勢のなかで、韓国が再び反日にかじを切ることは考えにくい。ただ、同時に、何らかのきっかけで政権が反日になりやすい背景についてもきちんと理解しておくことが重要だ。

歴史問題を巡っては細心の注意が必要

 やはり最大の要因は歴史だ。朝鮮半島は豊臣秀吉の朝鮮出兵の時代から日本の安全保障の生命線であったし、日清、日露の戦争も日本が朝鮮半島で権益を守るための戦争だった。日本は朝鮮半島を36年間植民地支配し、満州国を創建して中国との戦争に入っていった。

 この間、朝鮮半島の人々に多大の被害を与えたことに認識を欠いてはならない。これは韓国に謝り続けることを意味するのではなく、韓国の人々が受けた被害に思いやりをもって接するということだ。これまで靖国参拝問題や教科書問題、慰安婦や元徴用工問題などを巡り問題が生じるたびに、「日本が判断する問題であり、他国に介入されるべき問題ではない」とか「既に両国間で決着済み」といった主張を繰り返してきたが、そこに必要であったのは相手に対する思いやりだ。

 外交で必要なのは相手との信頼関係であり、信頼関係の前提となるのは歴史への理解と相手への思いやりだ。

 ただ現実の世界では往々にして歴史問題が国内政治の観点から語られてきたことも否めない。韓国の進歩勢力は日本との歴史から韓国国内に蓄積した悪感情を政治的に利用しようとし、日本の保守勢力は韓国や中国に対する「毅然(きぜん)とした態度」の必要性を訴えてきた。

 従って、歴史問題が直(じか)に日韓関係を壊さないためには、両国の政治勢力が認識をただしていくことが必要だ。日韓双方ともに必要な認識は、今日の朝鮮半島や東アジアを巡る情勢は日韓の確かな協力を必要とする、ということだ。

 進歩勢力が勝利した最大の要因は尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領が発出した非常戒厳令だ。結果的に尹前大統領は弾劾を受け失職したわけだが、これは韓国の民主化の歴史を彷彿(ほうふつ)とさせた。

 韓国の民主化の歴史を語る時、誰しも挙げるのは光州事件だ。1980年に軍事政権の戒厳令に反対する民衆が光州で軍と衝突し、数千の死傷者を出したのだが、その怒りが7年後の民主化宣言につながった。尹前大統領が非常戒厳を発した時、韓国国会議事堂前に集まった群衆が銃剣を怖れず戒厳軍に立ち向かった姿は、今や日本と肩を並べる豊かさに達した韓国国民の決意に満ちあふれていた(兵士は光州事件とは異なり、決して発砲しなかった)。

 光州事件の当時まだ学生であった人々には民主主義を文字通り勝ち取ったという認識があり、そういう人々が今日の進歩勢力の支持者なのだ。彼らは軍事独裁政権を支持してきた米国や日本に対して厳しい感情を持ち続けてきたし、反日、反米の急先鋒(せんぽう)たり得、日米韓の安保連携も決して歓迎してこなかった。

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続きは、毎日新聞「政治プレミア」ホームページにてご覧いただけます。
https://mainichi.jp/premier/politics/田中均/
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