国際戦略研究所 田中均「考」
【毎日新聞・政治プレミア】「自由世界の指導者」を放棄した米国 対米関係を見直す時が来た
2025年03月12日 田中均・日本総合研究所国際戦略研究所特別顧問
現在の米国は同盟国として協働していきたいと思う国ではない。
近年の米国の孤立主義的な振る舞いがトランプ政権特有であるなら、4年過ぎれば違う政権になるので、次の政権に期待すべきだという議論も成り立つだろう。しかし今日の米国はトランプイズムというべき特性もさることながら、国内の分断は脈々と続き、国内志向の流れはますます根深く、4年後の政権が自由世界の指導者に立ち戻るとも考えがたい。
近い将来はトランプ政権の延長で続く可能性は高いと考える方が自然だ。対米関係を見直す動きは世界中で起きている。
アメリカ・ファーストと「取引」の考え方
第二次世界大戦後80年の国際関係では、米国は自由と人権尊重、法の支配などの普遍的価値観に基づく世界を国際協調により拡大すべく行動した。
米国は二つの世界大戦に参戦せざるをえなかったが、戦争が始まった段階で本土から兵力を投入するのはあまりにコストが高くついたとの反省に基づき、それに代わり平時に欧州とアジアに戦力を常駐させることにより抑止力を保ち、戦争を未然に防ぐという「前方展開戦略」を導入した。
欧州では北大西洋条約機構(NATO)を形成し、加盟国一国に対する侵略はすべての加盟国に対する侵略とする集団的自衛機構を構築した。アジアではハブ・アンド・スポークスといわれる日米、米韓、米豪など米国を軸とする2国間安保条約のネットワークで安全を担保してきた。
それは共産主義との戦いや、テロや大量破壊兵器拡散との戦いなど共通の価値を守るための安全保障体制だった。
この間にもちろん、「負担の公平(バードンシェアリング)議論」はあり、米国はどの政権も欧州やアジア同盟国の負担の増大を求めてきたが、しかしそれはトランプ大統領が掲げる「負担が少なければ守らない」という、あたかも「米国が一方的に安全保障を提供している」という概念ではなく、基地の提供を含め価値を共有する国々と「役割を分担」し、共通の安全保障を実現するという概念だった。
トランプ大統領は歴史的経緯や価値観、米国にとっての中長期的利益は捨象して、目の前の利益を言っているかのようだ。
この議論を進めていくと、もはや米国の防衛コミットメントは不確実であり、欧州が言いだしているような「自前の防衛」に傾斜していかざるをえないのだろうし、西側世界としての一体性的な秩序は崩れていくのだろう。
経済関係についても同様なことが言える。
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