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国際戦略研究所 田中均「考」

【毎日新聞・政治プレミア】自民党総裁選で期待が叶えられるのか?総選挙を控え見極めたいこと

2021年09月15日 田中均・日本総合研究所国際戦略研究所理事長


 私は元外交官であり、私の専門領域は国際関係だ。しかし近年⽇本の外交も他の先進⺠主主義国と同様、国内の政治の動きにより⼤きな影響を受けるようになった。9年近く続いた⾃⺠党の圧倒的な権勢の下で安倍―菅政権は「官邸1強体制」を構築し、異論を排除する政治が定着した結果、外交も独りよがりになってしまっているのではないか。⽶中対⽴を軸に国際社会が⼤きく変動していく時、知的議論を活発にし、幅広い選択肢の中から政策が選択されていかない限り、⽇本の繁栄は危うい。私は36年の外交官⽣活から退官して15年たつが、この間、政治家と接する機会も多く、政官関係や統治の在り⽅について考えさせられる機会も多かった。半年前にTwitterを始め、3カ⽉前にYouTubeチャンネルを開設し、国内政治についても頻繁に発信しだしたのは、統治の在り⽅を変えない限り、強く、しなやかで、積極的な外交もできないという思いが強いからだ。⾃⺠党総裁選(9⽉17⽇告⽰)は9⽉29⽇に予定され、衆院選も今後2カ⽉ぐらいの間には⾏われることになるのだろう。この選挙を通じて私が望むこと、変えたいことは少しでも叶(かな)えられることになるのか。

⽇本の現状についての危機認識を
 本コラムを執筆時点で⾃⺠党総裁選には岸⽥、⾼市、河野の3候補が名乗りを上げているが、3候補の⽴候補表明会⾒からは⽇本の現状に対する強い危機認識は伝わってこない。もっとも、それぞれ安倍―菅政権下で要職を歴任してきたわけで、⾃⾝も⼀部であったこれまでの政権が役割を⼗分果たしてこなかったとは⾔えまい。しかし、⽇本はコロナパンデミックの感染終息にはまだ道が険しく、主要国の中でも経済回復が最も遅れている国だ。コロナへの対処やアフガニスタンからの関係者の救出で、成功しなかった原因の⼀つはこの国の危機管理能⼒が⼗分でなかったからだ。官邸1強体制と⾔われ、本来の危機管理は官邸の重要任務でありながら、コロナについてもアフガンからの救出作戦についても官邸の危機管理体制は機能しなかった。特にコロナ対処については官房⻑官に加え厚⽣労働相やワクチン担当相など責任体制が明確でないまま、この1年半にわたって後⼿後⼿に終始してきた。このような現状に⼗分な危機意識を持ち、過去はともあれ、将来に向けて毅然(きぜん)と⾏動する覚悟が必要だ。
 中⻑期的に⾒ると更に惨憺(さんたん)たる状況だ。あらゆる⾯での⽇本の停滞は⽌まらない。主要7カ国(G7)の中で⾒ても経済成⻑、1⼈当たり国内総⽣産(GDP)、労働⽣産性、公的債務のGDP⽐、少⼦⾼齢化だけではなく、ジェンダーギャップや報道の⾃由度といった指標でも⼤きく劣っている。これらの課題にこれまでの延⻑で取り組むというのはあまりに安易であろう。国内政治的に⾒れば⾃⺠党政権が⻑く続き、安倍政権は全国規模の国政選挙に連続して勝利したわけで、菅政権も安倍政権の継続を基本とした。しかし⽇本の経済社会的進展という観点から⾒れば、停滞が続いた。最近の国政選挙や都議選、横浜市⻑選での⾃⺠党の実質的な敗北はコロナ禍で蓄積されてきた国⺠の不満が反⾃⺠に向かったのだろう。いずれにせよ、厳しい短期的・中⻑期的課題に対処していくうえで過去の延⻑ではなく、⼗分な危機意識をもって既得権益を壊し、⽇本の経済社会を⼤きく進展させるという決意とビジョンが必要だ。

コップの中の嵐で終始すべきではない
 しかし⾃⺠党総裁選のここまでの流れは、従来通りの「コップの中の嵐」に終始しているようにしか⾒えない。⾃⺠党の選挙であっても⾒ているのは総選挙を控えた国⺠だ。各候補者はとにかく総裁選を勝ち抜くために派閥の領袖や元⾸相といった⻑⽼・重鎮の顔⾊をうかがい、数を確保することに終始しているように⾒える。

続きは、毎日新聞「政治プレミア」ホームページにてご覧いただけます。
https://mainichi.jp/premier/politics/田中均/
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