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国際戦略研究所 田中均「考」

【毎日新聞・政治プレミア】東京五輪の今夏開催の是非は客観的に評価しよう-議論のロードマップ

2021年05月12日 田中均・日本総合研究所国際戦略研究所理事長


 国際オリンピック委員会(IOC)は今夏の東京オリンピック・パラリンピック開催を既定⽅針としている。菅義偉⾸相は「(五輪)開催の権限はIOCにある」と述べるとともに、「安⼼安全な開催は可能」として7⽉23⽇から開催する姿勢を崩していない。⼀⽅、緊急事態宣⾔は5⽉31⽇まで延⻑されたが、その時点で宣⾔解除を可能にするような状況になっているのかは予断を許さない。IOCのバッハ会⻑は5⽉17⽇に予定されていた来⽇を⾒送った。国⺠にとっても五輪に向けて切磋琢磨(せっさたくま)してきたアスリートにとっても、安⼼安全な形で五輪が今夏開催されることが当然最善なわけであるが、希望的観測に終始するわけにもいかない。しかし、実際には“なし崩し的”に開催に⾄ってしまうのではないかという不安を以前にも増して抱くようになった。筆者は、適切な判断は“客観的”な状況評価に基づかなければならないと考えるので、議論を整理してみることとした。

1.⽇本及び世界の感染状況をどう⾒通す?

 選⼿団に対して厳密な感染防⽌措置がとられるにしても(事前のワクチン接種、毎⽇のPCR検査など)、多数のスタッフ、メディア、ボランティアなどを巻き込むこともあり、⽇本全体の感染が収束に向かっていることが開催の⼤前提となる。⽶国の例からも明らかなとおり、このためにはワクチン接種が鍵となろう。バイデン⼤統領は7⽉4⽇(独⽴記念⽇)までに成⼈の70%が少なくとも1回のワクチン接種を受け、⾏動制限を⼤幅に緩和することを目標にしているが、これまでの順調な接種状況をみても、達成は目前に迫っている。欧州各国もワクチンの接種拡⼤とともに制限緩和を拡⼤している。菅⾸相は5⽉7⽇の記者会⾒で7⽉末を念頭に⾼齢者への接種を終えるとともに、1⽇に100万回の接種を目標とすると述べているが、その⼀⽅で接種を担当する⼈材の不⾜は深刻とみられ、この目標を達成するのは困難とも⾔われる。仮にワクチン接種が順調にいったとしても、「集団免疫」と⾔われる状況(⼈⼝の約70〜90%にワクチンを接種)に達するのは「明年以降」と調査機関は試算している。
 そして世界の感染状況は、先進国ではピークを過ぎたにしても、途上国の多くではいまだ感染拡⼤は続き、特にインドやブラジルといった⼈⼝⼤国の感染状況は深刻だ。これらの国での⼤量感染は複雑な変異株を⽣む蓋然(がいぜん)性が⾼く、今後変異株が世界を⾶び回り、ワクチンの効⼒を脅かす可能性も危惧される。
 感染状況とワクチン接種状況次第という⾯もあるが、なによりも、五輪のために⼗分な医療資源を割くことができるのであろうか。東京オリンピック・パラリンピック組織委員会は500⼈の看護師と200⼈のスポーツドクターを募集するとしているが、国内医療体制を損なわないで五輪に万全を期すことは困難を極めることは明らかだ。すなわち国内・世界の感染状況、ワクチンの普及状況、医療資源の逼迫(ひっぱく)状況のいずれをとっても、7⽉の五輪を安⼼安全な⼤会とすることに楽観的とはなれない。

2.国内外で東京五輪の開催はどう⾒られている?

 五輪は「平和の祭典」と⾔われる通り、通常のスポーツ競技会を超え、平和を象徴する⼤会であり、⼈々に歓迎されなければならない。⽇本の世論調査では7割が「中⽌」ないし「再延期」を⽀持するという結果が明らかとなった(3⽉20〜21⽇実施:朝⽇新聞、4⽉10〜12⽇実施:共同通信、5⽉7〜9⽇実施の読売新聞による調査では中⽌⽀持が59%)。世論は感染状況や今後明らかになっていく五輪での感染防⽌対策次第で変化しうると考えられるものの、それでも今後感染が拡⼤していく限り、消極的な意⾒も増えていくだろう。

続きは、毎日新聞「政治プレミア」ホームページにてご覧いただけます。
https://mainichi.jp/premier/politics/田中均/
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