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国際戦略研究所 田中均「考」

【毎日新聞・政治プレミア】「デジタル庁」「こども庁」 行政組織の在り方を見直さなくてはならない

2021年04月15日 田中均・日本総合研究所国際戦略研究所理事長


 ⽇本の⾏政組織の在り⽅は、新しい課題の下で⾒直してみる必要はないか。これは菅政権に限ったわけではないが、⾏政の⽋陥を「省庁の縦割り」に求め、新しい課題に対してデジタル庁や、まだ決まったわけではないが「こども庁」といった新しい庁を創設し、関係省庁調整の強い権限を持たせようとする。たしかにデジタル⾰命はこれからの世界を間違いなく変えていくと考えられており、中央・地⽅の垣根を越え新しい取り組みが必要なのだろう。⼦供についても教育、医療、貧困など多くの省庁にまたがる取り組みを必要としている。しかし、⻑年にわたり省庁のスリム化と内閣の政策調整機能の強化に取り組んできたわけであり、ここへきて政権の目⽟政策として⼤きな予算も⼈員も伴う新しい⾏政ユニットを創設するところに逆戻りすることでよいのか。適切な⾏政組織の在り⽅を吟味したうえで目的実現のためのグランドデザインが必要なのではないか。⼆つの角度から論じてみたい。

内閣府・官邸の調整機能は⼗分ではないか

 2001年に「縦割り⾏政による弊害をなくし、内閣機能の強化、事務及び事業の減量、効率化すること」などを目的として、1府22省庁が1府12省庁に再編された。それでも縦割り⾏政が打破されないとして消費者庁など個別の総合調整庁が創設されてきた。同時に内閣の調整機能は⾶躍的に強化され、内閣府に防災、海洋政策、原⼦⼒、規制改⾰、少⼦化、ITなど多数の特命担当⼤⾂が置かれてきた。それだけではなく、もともと官房⻑官は重要政策に関する総合調整を⾏う任務を有しており、そのもとに副⻑官、副⻑官補、内閣情報官等の組織があり、さらには国家安全保障局⻑、危機管理監、情報通信政策監が、また、安全保障、経済・外交担当など4⼈の⾸相補佐官が置かれている。要するに内閣の政策総合調整機能を⾼めるために組織の新設、補佐官の増員が間断なく⾏われてきたのである。また過去においては新たな省庁の創設ではなく、経済財政諮問会議など⺠間⼈を委員とした会議で骨太の⽅針を決め、実施を各省が担当するという⼯夫もされてきた。また、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉に関しては内閣府特命担当相を⻑とするTPP政府対策本部を設置し、⾸席交渉官が率いる対外交渉担当と国内対策調整総括官が率いる国内調整担当が省庁横断的に臨み、⼤きな成功を収めた。
 それが、ここにきて再び総合調整の強い権限を持った省庁の新設という⽅向に⾛っている。環境の変化や新政権の成⽴に伴い重点政策が出てくるのは当然であるが、そのたびに新しい省庁を設⽴するわけにはいくまい。予算や⼈員には厳しい制約があるはずであり、基本的な発想はスクラップ・アンド・ビルドでなければならないし、内閣官房の総合調整機能との重複も⾒直されるべきだと思う。さらに⾏政改⾰がもたらした結果的な弊害もある。⻑く続いてきた⾏政改⾰の中で、常に業務の効率化が⾔われてきたが、実態はそうならなかった。総合調整の省庁を設⽴しても、また内閣府の特命⼤⾂や内閣官房の安全保障局など、さらには補佐官の新設が関係省庁の業務の効率化につながったわけではなく、むしろ業務の拡⼤につながってきた。省庁の副⼤⾂や政務官の数も増⼤しこれに伴う業務の拡⼤もあわせ、⾏政改⾰の本旨からは外れ、公務員の業務は拡⼤の⼀途をたどり、残業時間が「過労死ライン」とされる⽉100時間を超える中央省庁の国家公務員はおよそ延べ3000⼈に上るという。それも残業代が満額払われるわけではないサービス残業となる。
 新しい省庁や⼤⾂を創設する前に、特に「縦割り⾏政をなくすための総合政策調整」機能を持つ部局との重複を洗い出し、スクラップ・アンド・ビルドで⾏政のスリム化をはからない限り、もともと⾏政改⾰の名のもとに意図されたこととは逆の⽅向に進んでしまうのだろう。特に局審議官以上の幹部公務員の⼈事は省庁の⾃⽴性を離れ、内閣⼈事局の差配の下にある以上、幹部公務員が官邸の意向をそんたくする傾向が強まっており、官邸の政策調整機能は、その⾯からも強化されたはずであるのに、いまだに縦割り⾏政が打破できないとすることは⾃⼰⽭盾でしかない。⾏政組織の在り⽅を⾒直さないで省庁の新設を進めることは、強い政治権⼒の下での目に⾒えやすい「ハコ」づくりを目指しているといった批判だけを⽣むことになる。

効率的な組織の在り⽅

 ⺠間で収益性を重んじる企業の特⾊は最低限のコストで最⼤限の収益を上げる組織作りであり、業務形態だ。多くの場合、そのような企業は縦割りの業務形態ではなく、横軸の柔軟性に富むプロジェクトごとのチーム形式である場合が多い。法律、分析、⾦融など異なる専門性を持った社員がいろいろな部署から駆り出されチームを組み、プロジェクトの完遂とともにチームが解散する。恒常的な部局を構え勤務するよりも無駄が少なく効率的であるし、最近のオンライン勤務の拡⼤により、勤務時間や勤務場所もどんどん⾃由になっている。官公庁の勤務形態は効率性の観点からは旧時代だ。とりわけデジタル⾰命の時代は縦串から横串のフラットな分野横断的連携が求められているにもかかわらず旧態依然とした勤務形態は残ったままだ。

続きは、毎日新聞「政治プレミア」ホームページにてご覧いただけます。
https://mainichi.jp/premier/politics/田中均/
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