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国際戦略研究所 田中均「考」

【毎日新聞・政治プレミア】総務省接待問題 政治と官僚の関係をどう考えるか

2021年03月15日 田中均・日本総合研究所国際戦略研究所理事長


 ここ数年、官僚を巡っていろいろな問題が⽣じている。加計・森友問題における幹部官僚の「忖度(そんたく)」。他⽅、現場の官僚が⾃死に追い込まれた。そして東京⾼検検事⻑の任期延⻑問題。今、総務省幹部官僚が⾼額接待を頻繁に受けていた問題が⼀挙に噴出してきた。⼀⽅で、近年若⼿官僚の退職が増加傾向にあるという。問題が取り上げられると国会での議論となり、多くの場合、当該官僚は処分を受け、辞職していき、幕引きとなる。ほぼ⼀様に官僚の不始末と⽚付けられるが、本当に官僚に全てを帰する問題なのか。その根源にある政治と官僚の関係や官僚の⼈事を巡る課題が置き去りにされているのではないか。政官関係はどの国においても統治の基本にある。⽇本でもこの機会に真剣な議論を⾏い是正すべきは是正しないといけない。取り返しのつかない過ちを犯してからでは遅い。

政治との関係はどの省にとってもデリケートな問題

 私⾃⾝外務省を退官して16年になり、今⽇の官僚の意識を正確に語れるわけではないが、それでも36年間の官僚⽣活から想像できることは多い。官僚⽣活を送ったものであれば誰しも思うことだが、政治との関わり⽅はいつの時代でも最も難しい問題だ。私が入省した動機は、国益を直接担う⽴場となり公共の利益に尽くしたい、ということだった。若いころは組織の駒の⼀つであり、指⽰を受けた仕事にできるだけ付加価値をつけてこなしていくことに全⼒を尽くした。そして経験を積み仕事の裁量の幅が増えるにつれ、常に「国益は何か」を考えるようになる。課⻑職ぐらいになった時、初めて政治との関係を意識しだした。特に経済関係の仕事については官僚が考える客観的と思われる国益と政治家が重視する選挙⺠への利益とが相いれない場⾯に遭遇する。もちろん、重要な政策ほど国⺠の理解が不可⽋なわけで、国⺠に選ばれている政治家の理解と⽀持が不可⽋となる。国内官庁の場合には農林族や通信族などいわゆる族議員と⽇ごろから密接に接触し、政治家の要求を聞きつつ、省の⽅針に理解を求めるプロセスも重要となる。私が外務省経済局⻑であった時、⼤きな貿易⾚字を持つ⽶国が強い要求をしてきたのは、携帯電話市場への参⼊を容易にするために必要な、NTTが持つ固定電話回線への接続料の値下げだった。携帯電話の市場を活性化するには接続料を下げなければならないのは明らかであった。しかし⺠営化されたとはいえ、NTTならびにNTT 労組の⼒は強く、当時の郵政省は族議員の⽮⾯に⽴つような交渉を嫌い、外務省だけで交渉を⾏うことにも反対しなかった。⽶国との経済摩擦が厳しくなった時、多くの分野において市場開放を求められたが、国内官庁が族議員との関係をおもんばかって⽶国との交渉の⽮⾯に⽴ちたくないというのは顕著な傾向だった。それほど国内の政治的圧⼒は強かった。
 外務省の場合は、外交は⻑く票にならないと⾔われ、国内官庁ほど政治的圧⼒を感じることはなかった。しかし沖縄返還をはじめとする⽇⽶関係や⽇韓・⽇中国交正常化、北朝鮮問題、北⽅領⼟問題など政権の基盤を損ないかねない重要案件は多く、特に官邸や与党の政治リーダーとは緊密な連絡と調整が必要だった。
 省庁にとり、政治との関係は極めて重要だが、ともすれば目先の国内利益に傾きがちな政治の⾔いなりとなるわけにもいかない。もし⼈事まで政治に⽜⽿られることになると客観的な国益がねじ曲げられる恐れもあり、⼈事については官僚組織の⾃⽴性と無党派性(非政治性)に配慮し、政治が介⼊するのは⻑く控えられてきた。基本的に政官関係では圧倒的な政治上位であり、⼈事の⾃⽴性が、⾏政が政治に流されてしまうのを⽌める唯⼀の⻭⽌めとなった。そして⻑い間、事務⽅の⻑である次官が⼈事案を⽴案し、⼤⾂や官邸の了承を得て決定するというプロセスが⼀般的だった。官邸が各省のあげた⼈事に直接介⼊するようなケースは極めてまれであった。

内閣人事局の設置により政官関係は大きく変わった

 ところが官僚⾃⾝があまりに傲慢となり、省益あって国益無しといった強い批判の中で、脱官僚・政治主導が時流となり、⼈事⾯にも政治の介⼊が強くなった。2014年に安倍内閣で内閣⼈事局が設置され、政治主導の傾向が強固となった。各省庁の縦割り⾏政を廃し内閣の権能を強化する上でも、幹部官僚の⼈事を内閣⼈事局が⼀括して⾏うこととされた。従来の⾃⽴性と無党派性の概念は極めて希薄となり、局の審議官以上の幹部官僚⼈事には恒常的に強い政治性が導⼊された。これまでも族議員との関係や省の⼤⾂との関係、さらには⾸相、官房⻑官といった政権幹部との良好な関係なくして⼈事は成り⽴たなかったのだが、内閣⼈事局の設置により幹部官僚の適格性審査を含め、⾸相や官房⻑官の具体的権能が⾶躍的に拡⼤され、個別⼈事への介⼊が露骨になった。⾸相や官房⻑官が嫌う官僚は出世の道が閉ざされ、覚えめでたき官僚はつつがなく出世していくという図式になる。

続きは、毎日新聞「政治プレミア」ホームページにてご覧いただけます。
https://mainichi.jp/premier/politics/田中均/
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