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国際戦略研究所 田中均「考」

【毎日新聞・政治プレミア】日本の未来を切り拓くためには「志の高い政治家」が不可欠だ

2021年02月10日 田中均・日本総合研究所国際戦略研究所理事長


 もう目を覆うばかりだ。政府がコロナ感染拡大防止の緊急事態宣言下で国民に我慢を訴えている中で、多人数の会食や夜の銀座に繰り出す与党議員。これまでも首相の国会での虚偽答弁や議員の選挙違反、収賄事件等自民党一強体制の中での権力のおごりなのか、統治体制の劣化・政治家の質の低下が露になった事件が相次ぐ。あろうことか大きな影響力を持つ元総理の女性蔑視発言も飛び出した。謝罪すればよい、離党すればよい、議員辞職すればよい、というだけの問題ではあるまい。公認をし、資金を配分し、人事を差配した政党にも大いなる責任があるのでは。説明責任を欠いた統治体制のなかで、コロナは深刻な日本の構造危機もあぶり出していく。コロナ対策とはいえ大規模な財政出動の中で、日本の公的債務のGDP比率はおよそ258%にも達し、先進国平均の2倍を超える。負担は後世の世代に転嫁されていく。また、ワクチンがコロナ終息の切り札と言われる時に、米・英・独・中・ロなどの主要国は自国開発に成功しているが、何故か日本は大きく遅れ、ワクチン供給は外国任せとなっている。

統治体制の劣化と政党・政治家の質の低下

 何より不可思議なことは、少子高齢化、財政悪化、生産性の低下といった長期的な構造問題が悪化し、統治の劣化を象徴する出来事が頻発しているのにもかかわらず、長く与党の座にある自民党に対する支持率が下がらないことだ。日本にとって不幸なことは、世論調査を見る限り、自民党の選択肢としての野党が十分支持を得ていないことだ。支持率が低下せず、大きく政党勢力を減じることはないと見こした自民党議員は、緊張感をなくし、強力な与党であることに胡坐をかき続けているとしか見えない。これには終止符を打たねばならない。

 考えてみれば日本は90年代初めに小選挙区制への選挙制度改革や政党交付金の創設など「政治改革」を行った。私自身、外務省時代に自民党が分裂して過半数を失った結果成立した1993年の非自民9党連立の細川政権や1994年の自社さ三党連立政権などを経験した。また2009年には政権交代が実現され、2012年まで民主党政権が継続した。健全な形で二大政党政治が続いていれば、少なくとも現在のように与党であることに胡坐をかき続ける傲慢な政治とはならなかったはずだ。しかし野党は集合離散を繰り返し、とても国民の信頼を受ける政党とはなっていないし、実のある与野党の競争はなきも同然だ。自民党が政権を失ったのも民主党政権が長続きしなかったのも、いずれも国民の政治に対する不信のなせる業だ。

 おそらくそのような不信感の源は、国民の眼には「税金で養われ特権を持つ国会議員が国民、国家のことを考え行動している」とは映らなくなったことにあると思う。政治家の行動は、政治家としての地位を保持し続ける、即ち「自己の生き残り」に躍起となっているとしか見えない。政治指導者の発言に最早信念は感じられなくなってしまった。むしろ権謀術数を駆使して多数派工作を行う政治家や「国民にどう見えるか」というパーフォーマンスのみを重視する政治家が持ち上げられ、主流となってしまった。

 霞が関の官僚組織も未だに前例踏襲型に徹し、時代を切り開いていくのに必要な創造性を欠いているようだ。幹部人事を握った政治の圧倒的上位の下で、官僚はひたすら上位下達の傾向を持つようになった。また、一方では、コロナ対処が機動性を欠く要因として官僚の頑なさといった側面も伝えられる。政治のスケープゴートになっているのかもしれないが、官僚組織が本来の使命感を失いつつあるのも事実だろう。いずれにせよ今日の政治家や官僚が日本の深刻な危機を打開できる活力を持っているとは残念ながら見えない。

日本には危機を打開する力があるはずだ

 しかし、近代史の中で日本は二度にわたり存亡の危機に瀕し、危機を機会に変えて大きな飛躍を遂げてきた。1853年に米国のペリー提督が黒船を率い浦賀に到来し、日本が開国を余儀なくされてから僅か40年ほどで日本は時の大国であった清国を打ち破る強国として登場した。この日本の急速な発展に大きな役割を果たしたのは明治の元勲と言われる人たちで、特に1871年から2年近く閣僚の半分を率いて欧米を訪れた岩倉具視使節団は日本の飛躍の礎を築いた。その後、帝国主義の道を歩み、日中戦争や太平洋戦争の戦端を開いてしまったのは愚かな事であったが、戦争で焼け野原となった日本は、敗戦から僅か25年で世界第二の経済大国として世界の舞台に復帰したのだ。この戦後の奇跡的な歴史の中でも、国民の勤勉さに加え、軽武装経済重視の選択をした吉田茂をはじめとした保守政治家や経済発展を支えた官僚の貢献は大きかった。二度にわたる危機の克服と飛躍的発展の歴史を見れば、今日統治体制が劣化し、経済が活力を失っているとしても、このまま消え去る国ではないはずだ。

 
続きは、毎日新聞「政治プレミア」ホームページにてご覧いただけます。
https://mainichi.jp/premier/politics/田中均/

 
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