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国際戦略研究所 田中均「考」

【共同通信オンライン】⺠主主義の基盤が緩んでいる(ザ・インタビュー 第2回)

2021年01月15日 田中均・日本総合研究所国際戦略研究所理事長


 元外務審議官の⽥中均⽒は外交官時代、北朝鮮の非核化に向けた⽇本、⽶国、中国、韓国、北朝鮮、ロシアの6カ国協議に尽⼒した。⺠主主義体制と⼀党独裁体制が交錯する東アジアの安定を模索する中で得たグローバルな視点から、コロナ禍の中での世界各国の統治体制の在り⽅にも話は広がった。(聞き⼿、共同通信=⾼⽊良平)

―新型コロナウイルスの世界的⼤流⾏の影響をどう⾒ますか。

 コロナは⽶国を含む⾃由⺠主主義社会を強く揺さぶった。現実問題としてコロナに打ち勝ってきているのは中国やベトナムのような社会主義国や、台湾、ニュージーランドなど感染を制御しやすい島々だ。

 ⽶国ではコロナ対策が、より⾃由を求める共和党と、より規制をすべきだという⺠主党との間の政治的争点になってしまっている。⼈の命に関わり、経済への悪影響を減らすという超党派の問題であるのに、トランプ政権によって政治問題化されてしまった。

 世界でポピュリズムがまん延し、⺠主主義の基盤が緩んでいる。欧州連合から英国が離脱する「ブレグジット」があり、東欧には、冷戦下の⼀党独裁の共産主義政権に先祖返りする強権的な政権ができている。

 ⽇本のコロナ対策では、統治体制の弱さを露呈した。時々の世論に引っ張られ、政治家が決断⼒を持って何かを成し遂げることがなくなってしまっている。⺠主主義社会の在り⽅が問われている。

 ⽴ち直りが早かった中国は、⽶国や⽇本、欧州の遅れを尻目に、マスク・ワクチン外交を展開して⾃国の影響⼒を伸ばすという戦略的な⾏動に出ている。背に腹は代えられない途上国に対して、非常に効果がある。国際的な影響⼒が増していくのは間違いない。

―⾃由主義社会の今後についてどう⾒ますか。

 先進7カ国(G7)はGDPでは世界の半分を占めてきた。シェアは下がってきているが、コロナを克服して統治体制をより正しいものに戻せるかどうかが今、問われている。

 EUは1兆8千億ユーロという膨⼤なコロナ対策の基⾦を設⽴し、7年間の財政計画の中で、法の⽀配の重要性を強調し、統治体制を良くしようと取り組んでいる。

 ⽶国のバイデン新政権も統治体制を改善しようとしている。今指名している閣僚の半分以上が非⽩⼈だ。⿊⼈、アジア⼈、中南⽶出⾝者、先住⺠も含まれ、多くは⼥性だ。⽶国の⼈⼝の分布に応じた新しい統治だ。

 ⽇本政府はそういう考え⽅を取らず、統治体制がどんどん劣化していくように⾒える。本来、中⻑期的な⽇本の政策論争をすべきなのに、それをやらずに旧態依然とした派閥の数の論理に戻ってしまった。先進⺠主主義が中国などの社会主義体制より良い統治体制で、⾃由で、好ましいと⾏動で⽰さないといけないのに非常に残念だ。

―中国のような強権政治が幅を利かせていくのでしょうか。

 そうさせないために、⽶国や⽇本の外交が機能しなければいけない。中国も決して⼀直線に経済が拡⼤し、国内が安定するわけではない。明らかに社会に⽭盾を抱えている。

 今年はさらに経済回復するかもしれないが、豊かになればなるほど、経済成⻑率は下がる。⾹港のように締め付ければ、国⺠による共産党⼀党独裁への批判や抵抗が起き、⾃由を求める動きも⻑い目で⾒れば出てくる。

 ⽇本、⽶国、欧州が協調して、中国に対して正しい政策を取るよう働き掛けることが非常に重要だ。トランプ政権のように中国と対決姿勢を取り、⼀⽅的に締め付けていくのは間違いだ。中国を国際社会のルールに巻き込んでいくことを同時並⾏的にやらなくてはならない。

 外交はトータルな絵を描かなくてはならない。けん制だけを続けるのではなく安全保障、経済、⽂化、社会など広い分野で包括的かつ重層的にアプローチし、中国との信頼醸成も図るべきだ。

 ⽶中の経済切り離しについても本当に良いのかどうか⼗分協議しなくてはならない。中国は「地域的な包括的経済連携(RCEP)」に参加し、環太平洋連携協定(CPTPP)の参加も検討している。これにどう対応するか⽇本は真剣に検討する必要がある。

 CPTPPはRCEPより環境⾯、労働⾯などで基準が⾼く、今の中国では順応できないような規律を含んでいる。規律に合わせて本当に参加したいというのであれば、頭からノーという話ではない。

―沖縄県・尖閣諸島周辺では中国公船が領海侵⼊を繰り返しています。

 尖閣諸島は⽇本が実効⽀配しており、⽇⽶安全保障条約の対象だ。中国の公船を⽌めるための外交努⼒はしなくてはいけないが、中国が本気で領⼟権を侵すような事態となれば軍事的衝突につながる。⽇中は冷静に対処すべきだ。

―⽶中対⽴を解消する鍵は何でしょう。

 ⽶中、もしくは⽇⽶中に戦略的な共通項があれば、関係は良くなる。台湾や新疆ウイグル⾃治区を巡る問題では無理だが、環境問題と北朝鮮の非核化なら共通項はある。この⼆つは明らかに同じ⽅向を向くことになり、協⼒しようとすればできる分野だ。

 地球温暖化対策は中国がその気にならないと動かない。バイデン新政権の最優先事項は地球温暖化対策だ。⽇本も単に環境問題ではなく⽶中の関係を緩和するための、⼀つの重要な事項として対処すべきだ。

 北朝鮮が核兵器を保有するというのは、中国にとっても戦略的なマイナスだ。それは避けたいという⼒が働き、国連安全保障理事会の対北朝鮮制裁にも参加した。北朝鮮の非核化のために⽶中が協⼒する余地は⼤きい。⽇本もこの分野で役割を果たすことが求められている。

―⽇本はどのような役割を果たせますか。

 北朝鮮による⽇本⼈の拉致問題を抱えている⽇本としては「2プラス3プラス6」のアプローチを考えていくべきだ。つまり⽶国、⽇本、韓国が北朝鮮と2国間の関係を持ち、それを⽇⽶韓、⽇中韓の3カ国の枠組みで連携し、最終的に⽇本、⽶国、中国、韓国、北朝鮮、ロシアの6カ国協議に持ち込む進め⽅だ。

 6カ国協議で最初から物事を決めるのは無理があるが、2国間で決められた事項を監視して、信頼醸成をしていくことは可能性だ。⽇本の外交の在り⽅は、非常に状況対応型になってしまっている。政治主導と官僚のプロフェッショナリズムがなければ、東アジアの環境は良くならない。

―なぜ、これまでうまく機能しないこともあった6カ国協議に持ち込む必要があるのでしょうか。

 非核化するためには北朝鮮の安全を担保する必要がある。2005年9⽉の6カ国協議共同発表の通り、戦争終結宣⾔や平和条約、⽶朝・⽇⽶国交正常化、経済協⼒など6カ国が関わって全体として合意を作らなければ動かない。

 仮に合意することができた場合には、合意履⾏を監視していくためにも6カ国協議が必要となる。また、6カ国協議にならなければ、朝鮮半島の当事国である⽶国と北朝鮮、韓国と中国の4カ国による協議となり、⽇本は間違いなく蚊帳の外となり全く好ましくない。

 ⽇本⼈の拉致問題も国交正常化に向けた⼤きな枠組みの中で解決しようとしなければ動かない。それを進めるには非核化のため「2プラス3プラス6」のアプローチが必要だ。(おわり)
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