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国際戦略研究所 田中均「考」

【毎日新聞・政治プレミア】コロナ感染拡⼤阻⽌には政治への信頼が不可⽋だ

2021年01月14日 田中均・日本総合研究所国際戦略研究所理事長


 筆者は昨年来、このコラムにおいて⽇本の統治体制の劣化や危機における政治リーダーシップの在り⽅について繰り返し問題提起を⾏ってきた。安倍晋三前⾸相の退陣により政権が交代し4カ⽉がたった今、再び同じような議論を展開しなければならないのは、とても残念だ。

⽇本はコロナ感染拡⼤防⽌に成功しているか

 ⽶国で感染者が累計2250万⼈、死者は37万⼈を超え、英国では感染者約316万⼈、死者約9万⼈に対し、⽇本では感染者累計約30万⼈、死者約4100⼈であり、欧⽶に⽐べれば圧倒的に感染者や死者が少ない。⽇々の感染者にしても英国では⽇本のおよそ10倍だ。この理由として⽇本ではPCR検査数が依然少なく感染者数が低く出ることや、ウイルスの性質の違い、欧⽶とは異なる⽂化的習慣や⽇本⼈の特性を含めいろいろ挙げられているが、科学的に説明するのは難しい。ただ、⽇本の感染防⽌対策が成功しているのかどうかを知る上で⽐較するべきは欧⽶ではなく、共通点の多い東アジアの周辺諸国なのではないだろうか。


 東アジア・東南アジア諸国/地域を⾒た場合、⼈⼝対⽐の感染者割合で中国(0.01%)、⾹港(0.12%)、台湾(ほぼゼロ)、韓国(0.13%)、ベトナム(ほぼゼロ)、タイ(0.02%)などは⽇本(0.23%)より圧倒的に低い(1⽉12⽇時点)。インドネシア、マレーシア、フィリピンなどは⽇本を上回るが、⽇本と⼤きく変わるわけではない。欧⽶との対⽐で感染者が少ないのは⽇本特有の現象ではなく、東アジア・東南アジア諸国に共通する現象だということだ。そして、客観的に⾒て⼈⼝⽐で感染者の数が著しく少ない中国、台湾、韓国、ベトナム、タイといった諸国/地域は感染防⽌対策
に成功していると⾔っても間違いではなかろう。

 さらに注意しなければならないのは、東アジア・東南アジア諸国との対⽐で⽇本の第3波といわれる今⽇の感染拡⼤のスピードは⾶びぬけて速いという点だ。これら諸国においても押しなべて第3波と⾔われる感染拡⼤のサイクルに⼊っているが、インドネシア以外に⽇本と同じような規模の感染者を出し続けている国はなく、限られた範囲内に⻭⽌めがかけられている。

 感染拡⼤を抑えるために各国は迅速に⾏動しているのに対し、⽇本の⾏動は遅いことを認識しなければならない。確かに中国やベトナムといった国々は共産党独裁体制の下、強権で⾏動するので、他国に⽐べ迅速かつ効果的に対処できると⾔うことはできよう。しかしそれだけで⽚付けるのではなく、学ぶべき点も多いことを知るべきだ。例えば中国はクラスターが⽣じた場合には徹底的なPCR検査と隔離を実施して感染を防⽌している(2020年10⽉、⼭東省⻘島市では短期間で1000万⼈を超える住⺠にPCR検査を実施)。また台湾や韓国、東南アジア諸国/地域を通じて共通するのは、あらかじめ感染拡⼤のフェーズととるべき規制措置を明確にしており、ほぼ⾃動的に時期を逸さず措置をとったり解除したりしている点は特記すべきだ。

 これら諸国に⽐し、残念ながら⽇本の対応は劣っていると⾔わざるを得ない。多くの場合、感染防⽌対策は「遅きに失する」という批判を受ける。あれほど専門家が冬場の感染拡⼤の危険を叫んだのに、政府はこのような感染急拡⼤は予測できなかったと⾔い、医療崩壊への対策の準備も、またPCR検査能⼒の向上も⼗分ではなかった。また、政府と都道府県、政治と専門家あるいは政治と官僚の間の責任の押し付け合いは⾒るにたえない。どうも政治には感染を防⽌するという強い決意も⾒えず、むしろ場当たり的対応に終始している感が否めない。

感染拡⼤防⽌と経済の両⽴は同時にはできない

 特に⽇本政府の認識と対応で考えるべきは感染拡⼤防⽌と経済の相関関係だ。コロナ感染防⽌と経済の両⽴を図らなければならないのは当然のことであるが、これを同時並⾏的に達成できるという印象を与え続けているのは合理的ではない。コロナ感染拡⼤防⽌のためには⼈と⼈との接触制限が前提となるが、当然経済は打撃を受ける。中途半端に両⽴させようとすれば感染拡⼤に⻭⽌めはきかない。

 いったん感染拡⼤防⽌策を徹底し感染をコントロールしてから経済に取り組むのが感染拡⼤防⽌の上からも、また、結果的な経済回復速度の上からも正しいことは諸外国の例を⾒ても明らかだ。中国や台湾、さらにはベトナムでは徹底的な感染防⽌策を打ってから経済復興に取り組み、昨年もプラス成⻑を確保し、今年は⼤きな成⻑を⾒通している。もちろん、感染が完全にシャットアウトされることはないが、感染が拡⼤していく場合には早期にPCR検査と隔離によって抑え込むシステムを確⽴している。こうすることにより規制措置を必要最⼩限の期間に限り、経済回復に向かえる体制を作っているのである。

 それに⽐べ⽇本では感染拡⼤防⽌と経済の両⽴を建前的に掲げ、緊急事態宣⾔に⾄るプロセスの中でも強い規制措置をとれば経済が死んでしまうといった理由で、むしろ最低限の規制措置しかとろうとしない。GoToキャンペーンにしても「GoToと感染の間に直接の因果関係はない」として中断をためらう。感染拡⼤防⽌の⼿段として⼈の移動や接触制限が必要なことは明らかであるのに、⼈の移動を税⾦で⽀援するキャンペーンを⾏うことがいかに非合理なメッセージであるのかを理解しないのだろうか。

考え⽅の整理と具体的プロセスの明確化を

 何より重要であるのは感染拡⼤防⽌と経済回復への考え⽅の整理とプロセスの明確化である。すなわち、徹底的で広範囲な規制を盛り込む緊急事態宣⾔を出し、まず感染抑⽌をはかる、そして規制緩和に⾄る指標をあらかじめ明確化し、それに従い規制を緩和して経済回復に重点を移すということだろう。PCR検査の拡充により無症状者をあぶりだし隔離することも感染防⽌対策として進めなければならない。

続きは、毎日新聞「政治プレミア」ホームページにてご覧いただけます。
https://mainichi.jp/premier/politics/田中均/
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