国際戦略研究所 田中均「考」
【毎日新聞・政治プレミア】Nizi Projectから日韓関係を考察する
2020年11月04日 田中均・日本総合研究所国際戦略研究所理事長
『Nizi Project』(虹プロジェクト)をご存じだろうか。シンガー・ソングライターでもあり韓国有数のプロダクションを主宰するプロデューサーのJ.Y.Park氏が日本のガールズグループを養成するプロジェクトだ。
日本国内各地のオーディションから選抜された26人を東京に呼び集め、合宿オーディションを行い、合格した13人が韓国で6カ月かけて歌、ダンスを中心に研さんを重ね、最終的に9人が本年12月にデビューするという。グループ名を『NiziU』(ニジュー)という。
私はYouTubeで選抜の過程を記録したドキュメンタリーの一部始終を見た。日本と韓国との関係に長い間携わってきた私にはとても興味深かった。
Nizi Projectに見る日韓の共通項と違い
ドキュメンタリーを見て、日韓の近さと違い双方の大きさを改めて思い知った。JYP Entertainmentの育成方法には欧米にはなかなか存在しないような精神主義的なアプローチが根強く、それは日韓共通の文化だと思う。Park氏が意味深い言葉をかけ各人を鼓舞し、集団としてより高いレベルに向かわせるアプローチは日本的ですらあると思う。
半面、最終的には徹底的な競争と完全さを求める姿には韓国社会の特性を感じる。韓国国内市場は小さすぎることから広く海外に活躍の場を見いだすため、グローバルな市場に通用する高い個の技能鍛錬が必要となる。
これに比べ日本はそれなりに市場も大きく、おそらく日本のアイドルグループには歌手やダンサーとしての完全性を求めるよりも、むしろ不完全なものをファンが愛し皆で育てていく集団としての側面が強いように感じる。
このような日韓の特性を併せ持って育成されてきたNiziUは、今後日韓両国だけではなく世界を目指して活動する計画だという。きっと、日本人は日本に欠けている個の高い能力を見、韓国人は韓国に欠けている集団としての調和を見るのだろう。それは韓国でJ-POPや日本のアニメがもてはやされ、日本でK-POPや韓流ドラマが愛されるゆえんであるのではないだろうか。
翻って映し出される日韓関係の悪循環
翻って日韓の政府関係にはNiziUで感じるような日韓が相補う姿は見えないことが悲しい。両国政府は決して相手の良さを見ることなく、相手を非難する悪循環に陥ってから久しい時が経過している。
日韓関係の悪化は互いの国民感情の反映だという人がいるが、それは間違いだと思う。国民感情が悪いからといって国家間の関係も必然的に悪くなるわけではないし、そもそも国家間の関係は良好な関係構築における利害の冷静な計算の上に成り立つものだ。
歴史上これだけ濃密な関係を有した日本と朝鮮半島の関係であるだけに、日韓の間に複雑な感情があるのは当然である。38度線の向こうには両国の安全を直接脅かす北朝鮮が存在しているにもかかわらず、共通の利益で日韓両国が連帯していかないのは、両国政府の責任に帰するのだろう。両国の指導者に関係を良くしようという真摯な気持ちに欠けていることが透けて見えるのは残念だ。
振り返ると文在寅(ムン・ジェイン)大統領と安倍晋三前首相の間には残念ながら信頼関係が明らかに欠如していた。文大統領が代表する韓国のリベラルには86世代(60年代に生まれ韓国が民主化していった80年代に学生生活を送った世代)の思想的なこだわりが強く、民族の自立を求め、過去の歴史の糾弾、そこから生じる反日・反米・親北の意識が強い。そこでは合理的、客観的な国益の計算の影は薄い。
一方、日本の安倍政権を特色づけたのは、安倍前首相自身の言葉を借りれば「戦後体制からの脱却」であり、「美しい国、日本」と表現されるナショナリズムであった。韓国に対してはそのような思想が最も顕著に表れ、韓国が犯している間違いに対しては韓国を「甘やかす」ことなく毅然と対応する姿勢をしめすことにこだわった。
もちろん問題の根源には韓国側の非合理的な行動があったのは事実だろう。日本政府は韓国を「価値を共有する民主主義国家」と表現することをやめ、慰安婦問題や徴用工問題での韓国側の行動は国際法を無視するものとして厳しく非難した。それだけではなく日韓の間では軍事情報包括保護協定(GSOMIA)からの脱退問題や輸出管理法上の問題など懸案事項が山積している。かくて今の日韓関係は、戦後最悪と言われる状況に陥っている。…
続きは、毎日新聞「政治プレミア」ホームページにてご覧いただけます。
https://mainichi.jp/premier/politics/田中均/