コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

国際戦略研究所田中均「考」

国際戦略研究所 田中均「考」

【ダイヤモンド・オンライン】日本を沈没させる「見えない戦争」から生き残るための心得

2020年01月29日 田中均・日本総合研究所国際戦略研究所理事長


|トランプ大統領の登場と“見えない戦争”の進行|
 一国・大国主義(トランプ、習近平)、過激な主張外交(金正恩、文在寅)がポピュリズムに乗じて勢いを増す中、国内の趨勢が国際関係に飛び火し、いつ火花を散らす紛争に変わってもおかしくない“見えない戦争”が、世界のそこかしこで起きている。
 ドナルド・トランプは、間違いなく“見えない戦争”の時代の主役だ。むしろ彼の登場こそ“見えない戦争”の象徴であり、先が見えない時代の幕開けだったと言っても過言ではないだろう。
「アメリカ・ファースト」を唱え、移民などへの高圧的かつ傲慢な発言を繰り返し、「世界のためにアメリカが負担を続けるのはもうごめんだ」「アメリカの金はアメリカのために使う。アメリカの兵はアメリカのためだけに戦う」と一部の支持者に向けた発言をし、彼らが喜ぶようなツイートをおこなう。トランプは国民の不満を巧みに利用したパフォーマンスを繰り広げ、支持率が不気味なほど安定している。

|アメリカはなぜ復活できるのか 差をつけられる日本の「弱さ」|
 アメリカが民主主義先進国として世界秩序のリーダーであることをやめた世界で中国の脅威が増し、他方でナショナリズムが台頭してきた日本は、今後排他的になっていく可能性がある。それが訪れるのが5年後なのか、10年後なのか、あるいはもっと先なのかはわからない。だが、このまま“見えない戦争”が進めば、誰にとっても幸福だとは思えない未来が訪れるだろう。
 これまでも何度も「アメリカは終わった」「もう駄目だ」と思う時代があった。しかし、鉄鋼が下火になれば自動車産業が、自動車が衰退すればITや金融産業が成長し、いまはAI(人工知能)の時代だと言われている。こういったイノベーションで危機を乗り越えてきたのがアメリカだ。アメリカには競争を勝ち抜く教育があり、そこからイノベーションが生まれる。この“見えない戦争”の時代を変え得る突破口は、イノベーションにある。
 インターネットは、世界を変えた。それまで壁となっていた国境を越えて、情報や知識が流通するようになり、多大な変革を世界にもたらした。それは、ある意味で“見えない戦争(インビジブル・ウォー)”を生み出す発端となったとも言える。ポジティブであれ、ネガティブであれ、技術革新は世界を変える力を持っている。これからの社会では、AIや電気自動車などがその役割を担うことが予想されるし、だからこそアメリカや中国はその分野に力を入れ、世界の覇権を争っている。
 しかし残念なことに日本は、時代を変えるような新しい技術を生み出せていないし、生み出すだけの環境も整っていない。これまで日本は、強い平等意識のなかで国が成長していった。戦後日本にやってきたアメリカの経済学者のカール・シャウプは、「世界でもっとも優れた税制を日本に構築する」として、所得格差を是正し富を社会に分配するというシステムをつくり上げたが、これは自国であるアメリカの貧富の格差を反面教師として生まれたものだと推察される。
 税制、そして教育における日本の平等意識は、敗戦から立ち直って、新しい民主主義国家をつくるという意味では、極めて有効に働いた。抜きん出た才能を生み出すより、平均的に優秀な労働力を育成する。その結果、日本は優れたモノづくりの技術を持つ産業大国に成長した。
 だが、新興国がモノづくりの技術を培い、より低コストで生産できるようになると、日本は苦境に陥るようになった。そこに必要だったのは、時代を変え得るアイデア、テクノロジーを生み出す人材だったのだが、そういう人材を日本はつくってこなかった。平均的な人材をつくる教育制度を良しとし、突出する人材を生み出すことができない。
 アメリカでは、教育でもビジネスでも未来に対しての投資が盛んだ。「いま何ができるか、どれだけ利益をあげられるか」ではなく、「将来的に何を生み出す可能性があるか」に対して積極的に投資するから、アメリカという国は既得権益を壊すことができ、新しい技術が生まれる。そこには当然リスクがあるが、彼らはそれを恐れない。

|未来をつくる力に乏しい日本人が「誇り」を持つためには|
 日本はどうしてもリスクを先に考えてしまう傾向があり、そのためダイナミックな変革ができない。これはテクノロジーの分野だけではない。政治家にしろ、官僚にしろ、現状に対処する能力は優れているのかもしれないが、既得権益を壊し、未来をダイナミックにつくっていく力が欠けているように思う。
 2050年の日本のベストシナリオを考えると、第一に、今後も一定の経済成長を続けて、自由民主主義体制や自由貿易体制が壊されないことだろう。中国の強大化を止めることはできないが、良好な関係を築くことはできる。もちろん、アメリカとの同盟関係はこのまま維持・強化すべきだし、アジア諸国ともより緊密な関係を築いていかなければならない。
 韓国、北朝鮮、ロシア、さらにはブレグジットの行方が不透明なヨーロッパ、中東、アフリカ……すべての国々と良好な関係をつくりながら、日本としてのアイデンティティを世界に示していくのは、もちろん決して簡単なことではない。だが、それを実現する“新しい絵”を描けなければ、日本はどんどん沈んでいき、20世紀の後半に輝いた“元・先進国”ということになりかねない。
 1945年に無条件降伏をしてから、二十数年で世界第2位の経済大国になったことは奇跡だと言える。それだけのことをやり遂げた日本人は、極めて稀有な資質を持っている。条件さえ整えば、日本はまことにダイナミックな国になり、世界に範を示すことができるはずだと私は信じている。

|前例に囚われず孤立を恐れない「尖った人間」が必要に|
今の日本に必要なのは、単に優秀なだけでなく、尖った人間だ。前例に従わず、孤立することも恐れない、個としての強さを持った人間。明治維新のときに活躍した人たちはみんな尖った人間だった。ところが、いつの間にか日本には「みんなで渡れば怖くない」といった平均主義、前例主義がはびこり、尖った人間が出ると、それを抑えようとするようになってしまった。それでは未来は生まれない。尖った人間を積極的につくらない限り、日本人の資質を復活させることはできないのではないだろうか。
 私自身、外務省時代にさまざまな仕事を手がけたが、「みんなで渡ろう」と思ったことは1回もなかった。外務省や政治家から見れば、扱いにくい官僚だったかもしれない。でも、だからこそ成し遂げられたこと、得られた結果は少なくなかったのではないかと思う。
 今、世界で日本人が活躍している分野はスポーツだ。メジャーリーグでは引退したイチロー選手が「世界最高の打者」と呼ばれ、今また大谷翔平選手がスターの道を進んでいる。テニスでは錦織圭選手や大坂なおみ選手がトッププレーヤーとして活躍し、本場ヨーロッパのサッカーリーグにも多くの日本人が在籍している。
 彼らのインタビューなどを見る限り、彼らは類稀なる個人主義者だ。だからこそ世界の舞台でも恐れることなく、自分の力を発揮することができる。最近の例では、ゴルフで全英オープンを制した渋野日向子選手だ。結果を恐れず、リスクを承知で世界に挑み、そして世界に出て、競争をすることでさらに自分を高める。スポーツ界以外でもこういう人材がどんどん出てきてほしい。
私は、2006年から12年間、東京大学の公共政策大学院で教鞭をとってきた。最初の5年間は日本語で授業をし、あとの7年間は英語での授業。学生は日本人と外国人が半々だったが、積極的に議論して、授業のなかでも建設的な形で議論をしようという意図、意欲を持った日本人はかなり少なかった。中国や韓国からの留学生が積極的に発言するなかで、日本人学生はおとなしくしていたのが印象に残っている。

|教育を変え、若者を変え、未来を変えよ|
|「見えない戦争」に生き残れるか|

 未来を変えるには、若者を変えなければならない。若者を変えるには教育を変えなければならない。教育を変えるには、社会が変わらなければならない。
 私は、日本の教育システム自体を見直すべき時期に来ていると思う。日本が競争力を持つ国になるためには、若者を外で勉強させる。海外から人を入れて日本の国内で日本人と競争させる。そういったことをシステムとして取り入れていかないと、なかなか変わっていかないだろう。
 誰もが薄々感じているだろうが、今この国は危機に瀕している。いたずらに煽る気はないが、企業も政治も経済もいつ破綻・瓦解してもおかしくないような状況だと言っていいだろう。これまで日本を守ってきてくれたアメリカも、自国のことで手一杯。10メートル先にあると思っていた落とし穴が、実はすぐ目の前にあるということも考えておくべきだ。
“見えない戦争”を生き抜くためには、危機感を持って、個を磨いていくしかない。周りがどうするか、どう生きるかを見ている場合ではない。自分で判断し、自分の力で前に進むという意識が大切だ。1人ひとりがプロフェッショナルとして個を磨いていけば、日本全体の力が底上げされることになる。それができれば、今この国を覆う漠然とした閉塞感も消えるだろう。
 繰り返しになるが、日本人には世界が羨むだけの能力がある。日本人が、日本人であることを誇りに思える時代が長く続くことを願ってやまない。

ダイヤモンド・オンライン「田中均の世界を見る眼」
https://diamond.jp/articles/-/226501
国際戦略研究所
国際戦略研究所トップ