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国際戦略研究所 田中均「考」

【毎日新聞・政治プレミア】日本の民主主義は健全か?危機で露呈したガバナンスの崩壊

2020年03月03日 田中均・日本総合研究所国際戦略研究所理事長


 民主主義において、健全な統治機能(ガバナンス)を支える重要な概念は、「適正な手続き」と「説明責任」である。法の下の適正な手続きに従って権力が行使されること、そして問題が生じた場合に説明責任が果たされないと、民主主義は成り立たない。適正な手続きがなければ国民の利益のために公正な統治が行われているかわからないし、説明がなければ国民は闇に置かれ、またその説明が成り立たなければ為政者は責任をとらなければならない。あまりにも当然のことであるにもかかわらず、最近、日本ではそのような基本概念がいとも簡単に損なわれはじめていることに強い危機感を持つ。

日本のガバナンスが崩壊し始めている
 まず首相主催の「桜を見る会」について招待者名簿が廃棄されていることには驚愕する。毎年開催され公費が支出される行事について前年の招待者名簿を参照しないで招待者を決めることはあまりに常識的ではない。社会に貢献した人々を招待するという基準に合致しているのかどうか、それともそのような基準と関係なく地元の後援者を呼んだのか、判断しようもない。
 そして東京高検検事長の定年延長問題。国家公務員の定年の例外的延長の適用対象にないことが国会でも答弁されてきているにもかかわらず、法の番人たる法務省は解釈を口頭決裁で変更したという。
 政治的中立性との関係で微妙な問題について、口頭で解釈を変え、なおかつそれを文章化していないといったことは異常な事態だ。さらに、国会会期中にもかかわらず閣僚が唐突に辞任し、今日まできちんとした説明責任が果たされていないことは許されるのか。
 これらの事象にはいずれも統治者の利益擁護が根底にある、との疑念が潜んでいるからこそ、私たちはやるせない気持ちになる。――日本の民主主義社会の健全性は根底から損なわれているのではないか。すべて同根なのではないか――そう思わざるをえない。
 そもそも何故このようなガバナンスの劣化が起こるのか。本来このような疑念が生まれることがないよう適正な手続きが定められているはずなのだが、そのような手続きが誠実に取られたとも思えない。桜を見る会についても、首相などの推薦のまま招待がなされた感は否めない。
 閣僚の人選についても従来言われていた「身体検査」のプロセスを経たとはなかなか考えられない。法務省の人事を含めても、いろいろなことが適正な手続きや十分な吟味を尽くしたうえで決められているとは見受けられない。たまたまこれらを問題視する野党やメディアの指摘がない限り、何事もなかったように過ぎていくということなのか。

与党、官僚、メディア、有識者のチェック機能は働いているか?
 恐らく最大の問題の一つは与党自民党の自浄能力がなくなったことだろう。国会の約3分の2という強大な与党体制は強靭だ。小選挙区制の導入により閣僚人事や政治資金の分配は首相や幹事長が差配するようになった。
 従来自民党派閥は切磋琢磨の競争の場であり、派閥の長は資金を配分し人事での影響力を行使した。派閥の長は次の首相の座を狙う指導者として権力をけん制する力を持っていたが、今日はほぼないに等しいと言える。強い首相に対して今や自民党内から異論は出てこない。
 ここ数年、森友・加計問題を通じて権力者の意向をおもんばかる「忖度」が話題となったが、結局はうやむやに終わり、忖度は恥ずべきことであり二度と繰り返してはいけないということには不思議と至らなかった。…

続きは、毎日新聞「政治プレミア」ホームページにてご覧いただけます。
https://mainichi.jp/premier/politics/田中均/

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