国際戦略研究所 田中均「考」
【毎日新聞・政治プレミア】政治に柔軟対応能⼒(コンピタンス)や合理的議論 が⽋けている
2020年07月21日 田中均・日本総合研究所国際戦略研究所理事長
最近、国民の意識とはかけ離れた政府や政治家の言動が目につく。新型コロナウイルス感染拡大防止と経済回復を、難しいバランスの上で進めていかなければならないのはよくわかるが、感染が急速に再拡大している時に、人と人との接触につながる観光促進計画「Go Toトラベルキャンペーン」を前倒しで実施することをどう評価するのか。また、あれだけ反対の強かった「イージス・アショア」計画を突然に撤回し、瞬くうちに「敵基地攻撃能力」の議論を進めるのをどう受け止めればよいのか。この二つの事例から見えてくるのは、政治が環境変化に応じて柔軟に対応していく能力(コンピタンス)に欠ける一方、バランスが取れた合理的・科学的議論すら希薄になっていることだ。
新型コロナ対策に見る「インコンピタンス」
今年2月に「ダイヤモンド・プリンセス号」の集団感染があった時、米国の政府元高官はセミナーの席で「日本の問題処理はインコンピタンス(適応能力に欠ける)だということに尽きる」と述べた。米国人を含む乗客が十分な感染防止対策や退船の見通しなく船内に閉じ込められていたことをとらえたものだ。当時私は、新型コロナという未知の感染症なのだからやむを得ない面があると思ったが、その後、今日に至る政府の施策や行動ぶりを見て、本当にコンピタンスがないと思うようになった。あれから専門家の意見も聞かず唐突に学校閉鎖を行うとか、効能が全く分からない小型の布マスクを全世帯に配るなど極めて思いつき的な行動が目立った。全世帯に対する10万円の給付金にしても、本当に窮している人々に対しては不十分だし、感染拡大でも所得がほとんど変わらない人々は不労所得のような後ろめたさを感じた。緊急事態宣言発令と休止の時期についても十分な科学的裏付けを持ったものとも思えない。そして感染が急速に再拡大しているさなかの「Go To トラベルキャンペーン」前倒し実施についてはあぜんとする。そして政府主導で行われているにもかかわらず、今度はとにかく専門家の合意を得たものだと強調する。そして東京の感染者が増えたとして、これも唐突に「東京発着除外」を打ち出す。それどころか旅行を強制しているわけではなく個人が決めること、などと強弁する。政府が1.7兆円という膨大な国税を使って経済回復のために実施するわけなので、旅行を奨励していることに他ならないではないか。…
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