国際戦略研究所 田中均「考」
【毎日新聞・政治プレミア】新型コロナウイルス危機対処に「ICBM戦略」を
2020年04月01日 田中均・日本総合研究所国際戦略研究所理事長
世界にとって、日本にとっての危機だ。賢明な対処がされないと、日常生活に長く、壊滅的な打撃を与えよう。こういう危機対処には戦略構築が必要だ。外交には交渉がつきものだし、交渉で結果を作るためには緻密な戦略が必要となる。戦略は理念でも政策でもなく、目的達成のための手立てだ。危機対処にも同じような考え方が必要になる。
新型コロナウイルス危機対処の目的は感染拡大防止だが、未知の部分が多い新型ウイルスであり、対処には大きな負担を国民にもたらす。外交交渉と同じように状況に応じ戦略を築いていくことも必要になるが、基本的な考え方を整理しておかないと場当たり的な対処になってしまう。
筆者は近著「見えない戦争」(中央公論新書ラクレ、2019年11月)で外交交渉の経験に基づく「ICBM戦略論」を唱えた。これは私がプロフェッショナルとして何をすべきか、何を意識すべきか、外務官僚として心がけてきた四つの戦略指針である。これは外交に限ったわけでなく、どんな職業においても、また人間のあらゆる営みや危機的状況においても適用できる考え方であり、私塾でも若手~中堅の幅広い業界に所属する多くの塾生に指導してきた戦略論である。
ICBM(大陸間弾道ミサイル)は、冷戦時代、米国とソ連が大量の大陸間弾道ミサイルで相互を標的とすることで戦争を抑止できると考えられた最も戦略的な兵器だ。戦略の基本はICBMのごとく、戦争を抑止することを目的としなければならない。私の唱える戦略論は、I(Intelligence-情報)、C(Conviction-確信)、B(Big Picture-大きな絵)、M(Might-力)の4要素から成る。これは政府も、地方公共団体も、企業も、そして個人においても、危機を管理し、そして危機に打ち勝つ戦略として当てはめることが出来ると思う。
Intelligence-情報の収集・分析・評価がまず必要
新型コロナウイルス危機に当てはめて具体的に考えてみよう。まず必要なことは情報を収集し、分析し、評価することだ。新型コロナウイルスはいまだ得体の知れないウイルスで、感染を防止するワクチンも特効薬も存在しない。
しかしこの感染症が中国武漢に発生して既に3カ月以上が経過し、今や世界に70万人を超える感染者と多数の回復者の症例が存在し、多くの情報が次々と集まりつつある(3月30日時点)。
その情報を分析すると、①若年よりも高齢者、特に基礎疾患を持つ人が重症化する危険性が高い、②三つの「密」(換気の悪い密閉空間、人が密集する場所、近距離での密接な会話)を避ける工夫が必要、③初期段階で止めないと感染の爆発的拡大に至る、という点は根拠があると考えられている。
情報の機能のうち最も重要なのは評価だ。上述の分析結果から導き出せる評価は、初期段階で三つの「密」を踏まえた徹底的な隔離措置をとれば感染拡大を止めることができるということなのだろう。中国武漢では初動では大きな間違いを犯したが、徹底的な隔離措置が功を奏し、感染終息に向かっているようだ。いずれにせよそのような評価を行うとすれば、早い段階で緊急事態を宣言し、徹底的な隔離措置をとるべきだろう。遅ければタイミングを失し、感染終息に長い時間を必要とすることになる。…
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