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国際戦略研究所 田中均「考」

【毎日新聞・政治プレミア】説明責任と透明性を⽋く政治の弊害は⼤きい

2020年06月24日 田中均・日本総合研究所国際戦略研究所理事長


 コロナパンデミックは世界の政治経済を混乱させたが、少なくとも先進諸国とアジアについては感染拡⼤のペースは鈍化し、経済的復活に向けて活動制限が緩和されつつある。
 深刻な危機において多くの国では政権の下に結集しようという求⼼⼒が働き、通常、指導者の⽀持率は上がる。欧州ではピーク時には独メルケル⾸相、仏マクロン⼤統領をはじめ軒並み70%を超えるような⽀持率の上昇が⾒られた。顕著な例外は⽶トランプ⼤統領と⽇本の安倍晋三⾸相だ。両⾸脳ともコロナ危機対応の評価は芳しくなく、⽶国内では⼈種差別問題での反発、⽇本では検察庁法改正案問題や河井克⾏前法相夫妻逮捕問題などで政権の⽀持率は停滞し、不⽀持は⽀持を⼤きく上回る。他⽅、両⾸脳とも固い⽀持層を有し、実は40%前後の⽀持率を⼤きく割り込むことはないという点でも共通している(トランプ⼤統領は⽩⼈労働者階級、安倍⾸相は若者の⽀持は堅固だと⾔われる)。そういう⽇⽶両国は、いま国内政治で重要な局⾯を迎えている。⽇⽶両国の政治の問題点とは何か、探ってみよう。

⽇⽶が迎えている重要な国内政治局⾯とは
 ⽶国では、現在トランプ⼤統領が本年11⽉の⼤統領選挙で再選達成なるかどうかの瀬⼾際にあるが、国内政治で最⼤の問題は社会の深刻な分断である。持てる者と持たざる者、⽩⼈と非⽩⼈、保守と⾰新。ツイッタ―などSNSを通じるトランプ⼤統領の極端な⾔動は社会の分断を⼀層深くしているが、その中で⽶国の⺠主主義的制度(Institution)はそれなりに機能していると⾔われる。例えば、⼈種差別的事件の発⽣(ジョージ・フロイド事件―偽造紙幣使⽤容疑で拘束された⿊⼈男性が⽩⼈警官に⾸を膝で押さえつけられ窒息死)をきっかけに全⽶でデモ抗議が拡がり、トランプ⼤統領が⼀部の暴徒化したデモ参加者を「テロリスト」と呼び、連邦軍出動を⽰唆したのに対し、国防⻑官や軍⾸脳が軍を国⺠に向かわせるべきでないと明確に反対、歴代⼤統領が⼈種差別に対する抗議声明に名を連ねた。
 さらにトランプ⼤統領による保守派の最⾼裁判事任命により保守派が多数を占めた最⾼裁で、性的少数者(LGBTなど)や移⺠に関してリベラルな判決が出されるなど、司法は独⽴し公平な機能を果たしていると評価されている。今後⽶国では、⺠主主義諸制度(Institution)が、トランプ⼤統領への⽀持の背景を織りなすポピュリズム的勢⼒を凌駕(りょうが)することになるのかが最⼤の焦点と⾔えるだろう。
 ⼀⽅⽇本でも、来年秋までには総選挙が実施される。⽇本には⽶国のような社会の深い分断があるわけではないが、議院内閣制であっても議会で圧倒的多数の与党勢⼒を有し、⾸相に⼤統領並みの権⼒の集中があるいま、政治が⺠主主義の基本的ルールを損なっているのではないかと思わせる事件が相次いでいる。

現政権に決定的に⽋けている点
 ⺠主主義の下で健全な議論を可能にするためには意思決定に⼀定の透明性があることとともに説明責任が果たされることが必須だが、⽇本の現政権下でこれが決定的に⽋けていると感じずにはいられない。
 昨年の臨時国会開会直後に河井法相(当時)、菅原⼀秀経済産業相(当時)は選挙とカネの問題が報じられた途端唐突に辞任し、その後両⽒は⼀切の説明を拒否してきた。安倍⾸相は任命責任を感じるとしながらも、辞任に⾄った問題について調査が⾏われた形跡もない。特に河井案⾥参院議員の参院選に対して通常の10倍と⾔われる1億5000万円もの選挙資⾦を給付し、⾸相、官房⻑官以下総⼒で選挙⽀援を⾏ったにもかかわらず、本⼈が離党すれば説明責任を果たす必要はないということなのか。元法相の買収事件は前代未聞だ。
 ⿊川弘務・前東京⾼検検事⻑の定年延⻑と検察庁法改正案問題についても説明責任の放棄という点では⼀貫している。これまでの内閣は検察の独⾃性を守るために幹部検察官の定年について国家公務員法を適⽤してこなかったところ、突然に公務員法の解釈を変えて⿊川検事⻑の定年延⻑を特例的に閣議決定し、それを後付けするかのように検察庁法改正を進めようとした。これに反対運動が起こり、また⿊川検事⻑の賭け⿇雀問題が明らかになると同検事⻑の退任を認め改正法案を廃案とした。これも官邸主導と⾔われるが、⼀連の事態について国⺠に誠意を持った説明が⾏われたのか、疑問は募るばかりだ。
 「イージス・アショア」の配備⼿続き中断もブースターの落下を基地内にとどめられないという技術的な理由であるという説明しか⾏われていない。すでに相当額の国費が投⼊されたプロジェクトについて技術的詳細やコストの将来的⾒積もりも開⽰されず、また代替⼿段も明らかにされず幕引きされてよいものか。「イージス・アショア」配備の決定につながった⽇⽶⾸脳の合意は優れて官邸主導で⾏われ、防衛当局も⼗分承知していなかったと伝えられる。決定段階でプロフェッショナルな吟味が⼗分⾏われていなかった結果、さまざまな技術的な問題が⽣じ、またコスト⾒積もりも⼤幅に上昇したことで配備⼿続きの中⽌に⾄ったものではないか。…

続きは、毎日新聞「政治プレミア」ホームページにてご覧いただけます。
https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20200622/pol/00m/010/005000c


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